新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

第一部 朔月の魔女

救いようのない英雄は困りものです‥‥‥6

「俺の言いたいことは理解したか？」

「戦争、ですか、サク様？？」

「戦争だ。
　夫婦喧嘩も戦争だろう？
　家庭という国の勢力争いだ。
　だが、そこには国を維持したい、そして最後には家族を互いに守りたいという意思があるからまだ誰も死なないだけだ。
　お前の夫にはその意思があるかないのか。
　確かめてはどうだ、シェイラ？」

　剣と魔導をぶつけあって、それでも話せるならそれでいい。
　だけど、彼はそれ以前の場所にいるではないですか、サク様。
　ぶたれた痛みでも、サクの虐待に近い教えに反感を持ってでもないもの。
　裏切られた心の痛みに、シェイラは初めて涙を流していた。

「信じていたのに、ずっと愛していると。
　この国をどうにか盛り立てるために、国民を守るために流れる血ならばあの人が例え‥‥‥人殺しであっても。
　信じようと思っていたのに。
　その側で罪を共に償おうと思っていました。
　なのに‥‥‥彼は、あの人は――」

　サクの胸に顔を伏せて若い新婦は涙する。
　単なる女として、裏切られた心の悲しみをこの誰にも知られない空間で彼女だけに見えて聞こえるそんな存在にすべてと吐露していた。
　悔しい、寂しい、何より、許せない、と。

「だが、裏切りかどうかはあいまいだな、シェイラ？」

「え‥‥‥、それはどういう？？？」

「二年前からの関係を今更、どうこう言っても仕方あるまい。
　やつに詫びをさせるべきは、お前を騙して結婚したこと。
　その心を欺いてまで、愛を手に入れたこと。
　そして、いまもまだその蛮行を正義だと考えて行動したことだ。
　あのベッドがその愚かさを物語っておるわ。
　さあ、どうする、俺の聖女は？」

「どうするって、もうやる事は一つしかないじゃないですか。
　エリカと叔父様の息のかかった貴族・王族その他の一掃と‥‥‥」

「それと？？」

　わかりきったことを聞かないでくださいませ、サク様。
　そう、シェイラは涙でぐちゃぐちゃになった顔を袖で拭くものだから顔があまり見れないようになっているがサクは面白くて仕方がない。
　本人にそうと分からないように、そっと彼の力で元に戻してやり、優しく尾で抱き寄せた。
　まだ、頑張れるか？
　そう、問いかけて来る彼に、シェイラは黙ってうなづきどうしたいかを叫んでいた。
　やるなら、それは一つだけ。

「あのバカ亭主がそれを黙って受け入れないなら、分捕るまでですよ！！
　この‥‥‥王国を！！！」

　シェイラは勇ましい心を取り戻して立ち上がった。
　そうね、言われる通りだわ。
　戦争よ、この王国をかけて戦ってやる。

「なら、いまは戦え。
　そう決めたならそうしろ」

「言われなくてもそう致します！！
　でも‥‥‥力が足りません。
　お助けいただけますか、サク様？」

　当たり前だろう？
　そんな顔をして、黒狼はまた影に戻ってしまった。
　ただし、その尾はいまだ叩くべき相手を求めて‥‥‥いや、焼かれた恨みを晴らすべくシェイラに向いているのが唯一、シェイラに不安を抱かせていた。