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第一部 朔月の魔女
太陽神の聖女と宵闇の魔女 1
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「なっ、なぜっ!?
なぜ‥‥‥ここにいるんだ、お前ー」
リクトはいきなりどこからか消えるように、いや、まるでそこに見えない扉がありそこから歩み出したかのように現れた妻に驚きの声を上げた。
見られてはいけない秘密、知られてはならない隠し事を悟られて恥を隠すように怒りでそれを隠していた。
「シェイラ‥‥‥王太子妃、様ー‥‥‥どうしてここに‥‥‥」
そう呟くと、エリカははっとなり自分の下腹部を抑えてリクトの後ろに下がってしまう。
これだけは守り抜くのだと、そんな強い意思を瞳に込めた彼女は、まさしく母親の顔をしていた。
そしてそれをどうにかして守り抜こうとするリクトの様はまさしく、英雄そのものであり‥‥‥
「まるでわたしだけが悪者の様ですね、旦那様?
仲睦まじい夫婦のように見えますよ、エリカ?
どうしてそうなる前に言ってくれなかったの?」
優しく微笑んだシェイラのその慈しむような聖女の様に、一瞬だが両者は後ろめたさを忘れてしまう。
それほどに、シェイラは清々としていてまさしく、慈母の微笑みだといえた。
ついついその笑顔に救われるようにして、エリカは口を滑らせた。
「だって、わたしは彼の全てを愛するようにと、そう申し付けられて‥‥‥。
あなたは余計なことに気を遣うことなく王太子妃として責務を果たせるようにと――」
「エリカ!
それは言うな、お前だけが苦しむことはないんだ。
それは僕たちが、必ず変えてやる‥‥‥」
「ああ、リクト、様‥‥‥」
恥を晒しているという感もなく行われるその光景をまじまじと目にして、シェイラは微笑んでいた。
シェイラのその心の中には冷たい炎が渦巻いている。
誰もそのことを知らない。
少なくとも、その影にいるサクと彼を遣わせたアギト、そしてその主である聖者以外には。
「そう、仲が良いのね、旦那様に奥様?」
シェイラの一言に、その場に戦慄が走った。
リクトが腰の剣にそっと手を走らせる。
まるで、妻であり聖女である彼女が‥‥‥これまで遭遇したどの敵よりも――最悪であるかというように。
「その物言いは不穏だな、妻よ?
君はどこから現れた?
まるで宵闇の魔女のようだな‥‥‥?」
「宵闇?
そうね旦那様。
今夜は良い夜だわ、旦那様?。
魔女が微笑んでもおかしくない。
そんな夜だわ。
ただしー‥‥‥わたしは太陽神アギト様の聖女で、朔月の魔女ではありませんが」
うふふ、とそう微笑む微笑からは少しずつ、聖なるものが削げ落ちているような。
そんな印象を、二人は覚えていた。
「朔月の魔女、か。
そういえばいたな、そんな存在が。
太陽神アギト様が聖者とともに死滅させた魔女が‥‥‥。
まるでそうなりたいと言っているようにも見える。
君はどこから現れたんだ、シェイラ。
我が愛しき妻よ??」
「リクト‥‥‥?」
お前は下がっていろ、そうリクトはエリカを後ろに守りながらあることを申し付ける。
まだ、彼女は‥‥‥魔力を残しているはずだった。
リクトの知る限り、魔導を残し広めたあの始祖のシルド公は転送に関して誰も阻害できないほどの研究を続け完成させていたはず。
例え神の聖女といってもそれを破る方法はなかった。
「お前は逃げろ、行ける場所までな。
僕は必ず‥‥‥追いかける」
「あなた、まさか‥‥‥!?」
「早くしろ、いまならまだこの結界は破られていない。
いまの会話は伝わらないようにしている。
行ってくれー‥‥‥。
あれが本物の聖女ならー‥‥‥」
伝説に伝え聞くあの能力の数々。
僕は、勝てない。
リクトは自身の戦力とその差を冷静に分析していた。
彼女は、シェイラは微笑んでいるが許しはしない。
何より、大司教の制御も効いていないはずだとそう悟らざるを得ない。
なぜならー‥‥‥
「なあ、エリカ?
見覚えが無いか?
シェイラのあの手に結ばれている‥‥‥布の元に」
「布‥‥‥?
あの青い法衣のような、あれは‥‥‥大司教様の。
あの子、まさか!?」
そのまさかのようなだな、妻を御する主はもういないらしい。
すべてを知って妻はここに来た。
まったく、人生というものはこんなにも『ツイて』、いないらしい。
良いことのある後には最悪な結果が待っているとリクトは死が差し迫っている恐怖をひしひしと感じていた。
「そういうことだ。
エリカ、行け。
僕は残る。
死ぬなよ?」
「でも、あなた―‥‥‥リクト、何を!?」
「最後の最後に切り札は残しておくもんだな‥‥‥」
リクトは剣の柄にはめ込まれた青い宝玉を操作する。
いざという時に自分の魔力を貯め込んでおいて使えるようにとしていた秘策がこんな時に役立つとは。
彼のその意に従って、宝玉は魔力を解放し、エリカの周囲を薄い赤い靄で包んだ。
その靄が消えた時、エリカも共に姿を消していた。
なぜ‥‥‥ここにいるんだ、お前ー」
リクトはいきなりどこからか消えるように、いや、まるでそこに見えない扉がありそこから歩み出したかのように現れた妻に驚きの声を上げた。
見られてはいけない秘密、知られてはならない隠し事を悟られて恥を隠すように怒りでそれを隠していた。
「シェイラ‥‥‥王太子妃、様ー‥‥‥どうしてここに‥‥‥」
そう呟くと、エリカははっとなり自分の下腹部を抑えてリクトの後ろに下がってしまう。
これだけは守り抜くのだと、そんな強い意思を瞳に込めた彼女は、まさしく母親の顔をしていた。
そしてそれをどうにかして守り抜こうとするリクトの様はまさしく、英雄そのものであり‥‥‥
「まるでわたしだけが悪者の様ですね、旦那様?
仲睦まじい夫婦のように見えますよ、エリカ?
どうしてそうなる前に言ってくれなかったの?」
優しく微笑んだシェイラのその慈しむような聖女の様に、一瞬だが両者は後ろめたさを忘れてしまう。
それほどに、シェイラは清々としていてまさしく、慈母の微笑みだといえた。
ついついその笑顔に救われるようにして、エリカは口を滑らせた。
「だって、わたしは彼の全てを愛するようにと、そう申し付けられて‥‥‥。
あなたは余計なことに気を遣うことなく王太子妃として責務を果たせるようにと――」
「エリカ!
それは言うな、お前だけが苦しむことはないんだ。
それは僕たちが、必ず変えてやる‥‥‥」
「ああ、リクト、様‥‥‥」
恥を晒しているという感もなく行われるその光景をまじまじと目にして、シェイラは微笑んでいた。
シェイラのその心の中には冷たい炎が渦巻いている。
誰もそのことを知らない。
少なくとも、その影にいるサクと彼を遣わせたアギト、そしてその主である聖者以外には。
「そう、仲が良いのね、旦那様に奥様?」
シェイラの一言に、その場に戦慄が走った。
リクトが腰の剣にそっと手を走らせる。
まるで、妻であり聖女である彼女が‥‥‥これまで遭遇したどの敵よりも――最悪であるかというように。
「その物言いは不穏だな、妻よ?
君はどこから現れた?
まるで宵闇の魔女のようだな‥‥‥?」
「宵闇?
そうね旦那様。
今夜は良い夜だわ、旦那様?。
魔女が微笑んでもおかしくない。
そんな夜だわ。
ただしー‥‥‥わたしは太陽神アギト様の聖女で、朔月の魔女ではありませんが」
うふふ、とそう微笑む微笑からは少しずつ、聖なるものが削げ落ちているような。
そんな印象を、二人は覚えていた。
「朔月の魔女、か。
そういえばいたな、そんな存在が。
太陽神アギト様が聖者とともに死滅させた魔女が‥‥‥。
まるでそうなりたいと言っているようにも見える。
君はどこから現れたんだ、シェイラ。
我が愛しき妻よ??」
「リクト‥‥‥?」
お前は下がっていろ、そうリクトはエリカを後ろに守りながらあることを申し付ける。
まだ、彼女は‥‥‥魔力を残しているはずだった。
リクトの知る限り、魔導を残し広めたあの始祖のシルド公は転送に関して誰も阻害できないほどの研究を続け完成させていたはず。
例え神の聖女といってもそれを破る方法はなかった。
「お前は逃げろ、行ける場所までな。
僕は必ず‥‥‥追いかける」
「あなた、まさか‥‥‥!?」
「早くしろ、いまならまだこの結界は破られていない。
いまの会話は伝わらないようにしている。
行ってくれー‥‥‥。
あれが本物の聖女ならー‥‥‥」
伝説に伝え聞くあの能力の数々。
僕は、勝てない。
リクトは自身の戦力とその差を冷静に分析していた。
彼女は、シェイラは微笑んでいるが許しはしない。
何より、大司教の制御も効いていないはずだとそう悟らざるを得ない。
なぜならー‥‥‥
「なあ、エリカ?
見覚えが無いか?
シェイラのあの手に結ばれている‥‥‥布の元に」
「布‥‥‥?
あの青い法衣のような、あれは‥‥‥大司教様の。
あの子、まさか!?」
そのまさかのようなだな、妻を御する主はもういないらしい。
すべてを知って妻はここに来た。
まったく、人生というものはこんなにも『ツイて』、いないらしい。
良いことのある後には最悪な結果が待っているとリクトは死が差し迫っている恐怖をひしひしと感じていた。
「そういうことだ。
エリカ、行け。
僕は残る。
死ぬなよ?」
「でも、あなた―‥‥‥リクト、何を!?」
「最後の最後に切り札は残しておくもんだな‥‥‥」
リクトは剣の柄にはめ込まれた青い宝玉を操作する。
いざという時に自分の魔力を貯め込んでおいて使えるようにとしていた秘策がこんな時に役立つとは。
彼のその意に従って、宝玉は魔力を解放し、エリカの周囲を薄い赤い靄で包んだ。
その靄が消えた時、エリカも共に姿を消していた。
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