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第一部 朔月の魔女
英雄王子の野心と聖女の涙 5
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いいえ違う。
そこじゃない。
シェイラは耳を疑っていた。
え、どういうこと?
子供?
誰の?
リクトの‥‥‥子供?
なんで?
なんで、リクト?
なぜ、わたしの子供は‥‥‥嫌なの??
「サク様‥‥‥これは――幻ですか?
それとも夢ですか?
なんですか、これ。
なんで子供!?」
「シェイラ‥‥‥前言撤回だ。
あの女を殺せ。
王太子まだ使い様がある、だが子供は火種になるぞ。
始末するなら、いまが好機だ」
「子供を‥‥‥殺す?
だって、まだ産まれてもいないのに!?」
「産まれていないから母娘ともども、焼き殺せ。
そうしなければ‥‥‥お前がどう優しさを与えてもその子はお前を殺しに来るぞ?
父親の仇としてな。
どうするのだ、シェイラ?
決めるなら今しかない。
牢獄に幽閉して永遠の苦痛を与えると公言していたではないか?」
「だって、サク様‥‥‥エリカやリクトだけならまだしもー‥‥‥。
子供に罪はありません‥‥‥!!」
愚かだな、お前は。
そうサクはため息をつく。
子供に罪はない?
その考え方がどれほど愚かかを、シェイラはまだ気づいていない。
「シェイラ。
罪はある」
「そんな!?
なんの罪が赤子にあるんですか!
まだー‥‥‥産まれてもいないのに?」
「だから、まだわからないのか?
王族として、支配者の一族として産まれたことそのものが、罪だ。
諸外国や敵からすれば、そう見える。
お前がもし、リクトを手にかけてエリカを許せば、その子供は親の敵討ちに走るだろう。
リクトとエリカを殺せばそこで全ての糸が切れる。
だが――」
「なんですか、サク様!?
まだ何か‥‥‥なぜ、そんな恐ろしいことを。
子供なんですよ、選んで産まれて来るわけじゃないのに。
そこに罪なんて‥‥‥」
「あるものはある。
それは俺がどうこうする問題ではない。
人間やこの世界の文化もそうではないか、シェイラ?
お前たちが作り上げたその基盤が、そうなっているのでは?
俺は俺の考えではなく、この世界で当たり前の考えを伝えているぞ?」
貴族・王族・国の指導者の一族に至るまで。
確かに、戦争に負ければその国の支配者層はまるまる、始末される。
それは戦国の不文律。
誰にも犯すことが許されない、いまの世界の当たり前の観念だった。
「では、その言いかけた言葉にはなにがあるのですか、サク様。
彼らを助ける方法でも?」
「いいや、シェイラ。
それは俺にはわからん。
だが、時空の監獄に幽閉した後にもし、そこで産まれたとすればー‥‥‥。
その子供はどんな力を得るかは俺にはわからん。
確かなことは、生かしておいても幽閉してもお前には不利。
それだけのことだ。
ならば‥‥‥」
「焼き尽くして跡も残すな。
そういうことですね、サク様?」
黒狼は返事をしない。
かわりに、そのフサフサの先が少しだけ焦げた尾がその通りだといっているかのように出て来て動いていた。
生かすか、殺すか。
その最大の二択を選ばざるを得ないことを突きつけられたシェイラは、あまりもの悲しみに一人涙していた。
そこじゃない。
シェイラは耳を疑っていた。
え、どういうこと?
子供?
誰の?
リクトの‥‥‥子供?
なんで?
なんで、リクト?
なぜ、わたしの子供は‥‥‥嫌なの??
「サク様‥‥‥これは――幻ですか?
それとも夢ですか?
なんですか、これ。
なんで子供!?」
「シェイラ‥‥‥前言撤回だ。
あの女を殺せ。
王太子まだ使い様がある、だが子供は火種になるぞ。
始末するなら、いまが好機だ」
「子供を‥‥‥殺す?
だって、まだ産まれてもいないのに!?」
「産まれていないから母娘ともども、焼き殺せ。
そうしなければ‥‥‥お前がどう優しさを与えてもその子はお前を殺しに来るぞ?
父親の仇としてな。
どうするのだ、シェイラ?
決めるなら今しかない。
牢獄に幽閉して永遠の苦痛を与えると公言していたではないか?」
「だって、サク様‥‥‥エリカやリクトだけならまだしもー‥‥‥。
子供に罪はありません‥‥‥!!」
愚かだな、お前は。
そうサクはため息をつく。
子供に罪はない?
その考え方がどれほど愚かかを、シェイラはまだ気づいていない。
「シェイラ。
罪はある」
「そんな!?
なんの罪が赤子にあるんですか!
まだー‥‥‥産まれてもいないのに?」
「だから、まだわからないのか?
王族として、支配者の一族として産まれたことそのものが、罪だ。
諸外国や敵からすれば、そう見える。
お前がもし、リクトを手にかけてエリカを許せば、その子供は親の敵討ちに走るだろう。
リクトとエリカを殺せばそこで全ての糸が切れる。
だが――」
「なんですか、サク様!?
まだ何か‥‥‥なぜ、そんな恐ろしいことを。
子供なんですよ、選んで産まれて来るわけじゃないのに。
そこに罪なんて‥‥‥」
「あるものはある。
それは俺がどうこうする問題ではない。
人間やこの世界の文化もそうではないか、シェイラ?
お前たちが作り上げたその基盤が、そうなっているのでは?
俺は俺の考えではなく、この世界で当たり前の考えを伝えているぞ?」
貴族・王族・国の指導者の一族に至るまで。
確かに、戦争に負ければその国の支配者層はまるまる、始末される。
それは戦国の不文律。
誰にも犯すことが許されない、いまの世界の当たり前の観念だった。
「では、その言いかけた言葉にはなにがあるのですか、サク様。
彼らを助ける方法でも?」
「いいや、シェイラ。
それは俺にはわからん。
だが、時空の監獄に幽閉した後にもし、そこで産まれたとすればー‥‥‥。
その子供はどんな力を得るかは俺にはわからん。
確かなことは、生かしておいても幽閉してもお前には不利。
それだけのことだ。
ならば‥‥‥」
「焼き尽くして跡も残すな。
そういうことですね、サク様?」
黒狼は返事をしない。
かわりに、そのフサフサの先が少しだけ焦げた尾がその通りだといっているかのように出て来て動いていた。
生かすか、殺すか。
その最大の二択を選ばざるを得ないことを突きつけられたシェイラは、あまりもの悲しみに一人涙していた。
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