新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

星ふくろう

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第一部 朔月の魔女

英雄王子の野心と聖女の涙 4

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「‥‥‥なによ、それ」

 シェイラは呆然となっていた。
 
「なによ、なによ、それ!!!!」

 おかしい。 
 自分はこんなこと、知りたくなかったのに。
 なんで勝手に目の前で‥‥‥二人だけの愛の世界を作ってるのよ??
 しかも、お前だけを愛しているとか。
 そんな、シーツだけを巻いただけの尻軽女を愛している!? 

「裏切りだけでなく、心まで持って行くつもりなの‥‥‥エリカァ!!」

 宝珠だ。
 あの宝珠なら焼き尽くせる。
 もう嫌だ、こんな現実なんて見たくない。
 全てを轟火で焼き尽くしてしまいたい。
 なんで、わたしだけがこんな悲しい思いを――

「わたしだけの、リクトだったのに。
 わたしだけの旦那様だったのに!!
 嘘でもいいから、なんで、なんで言ってくれないのリクト!!」

 ああ‥‥‥まずいわ。
 心が冷たくなっていく。
 冷え切った氷の雪原にたった一人でいるみたい。
 あの白い世界はどこまでも静かに死の予感を漂わせていた。
 あそこに行きたい‥‥‥リクトと一緒に‥‥‥。
 一歩、足を踏み出してみた。
 歩ける。
 二歩、その場にいる二人まであと十数歩。
 三歩目、そうもうすぐ、あの場所にたどり着ける。
 いいわ、この調子で‥‥‥

「どうするんだ、シェイラ?
 王太子に詰問するのではなかったのか?
 まあ、脅しだろうがな?」

「‥‥‥すか?」

「なんだ?」

「だめ、ですか、サク様?
 あんなわたしの心をざわつかせる、苛つかせて、どうしようなく不安なんです。
 だめですか?!!
 あれらを焼き殺すのは!?」

 シェイラな器用に涙を流しながら笑っていた。
 まだ距離がある。
 足りない。
 まだまだ遠い。
 あの側まで行って、目の前で呆然としている二人に叩きつけてやるんだ。
 扉にぶつけた異常の高温の宝珠を――っ!!!

 だが、黒狼はそれを止めなかった。
 止めはしなが、それでも冷静に彼はシェイラに尋ねていた。

「シェイラ、問いただすのはどうするのだ。
 あれにはまだ利用価値があるぞ?」

「ふふふ‥‥‥サク様。
 知りませんよ、そんなもの。
 あんなに露骨にどれだけ深い関係であっても、いまはわたしの夫なんですよ?
 愚かで、馬鹿で、この手で焼き殺したい程に憎くても‥‥‥愛を誓い合った仲なんです。
 家族なんですよ。
 それを簡単に裏切るなんて、何があっても許さない。
 一生かけて償わせるより、もう焼いた方が‥‥‥早くわたしが楽になれる」

「なるほどな。
 まあ、それも良いだろう。
 だがな、シェイラ。
 そうそうあっけなく結末を迎えさせてもつまらんだろう?
 するならば、永遠に近い苦痛を与えてはどうだ?」

 永遠に近い苦痛‥‥‥なによ、それ。
 そんなものがあるなら、死ぬまでじゃ短すぎるわ。
 この世界が終わるまでー‥‥‥懺悔と後悔と生きてきたことを嫌になるほどに。
 責めあぐねてやりたい。

「いいですね、それ。
 シェイラは賛成ですわ、サク様。
 あの二人を生きていることを後悔させてやりたい。
 死にたいですと言わせるくらいの地獄を味わわせてやりたい。
 そう思いますわ」

「そうか、なら決まりだな。
 この異空間のように、閉じた世界で世界が終わるまで虚無に食わせるとしよう。
 時間を固定し、精神だけを肉体と放しておけばいい。
 そうすれば、永遠の牢獄が完成する。
 気が狂っても抜け出せない永遠の懺悔の世界だ。
 それでいいならそうしろ」

 ただし、と黒狼は一言付け加えた。

「そこに一度堕とした後は、二度と這い上がることも救い出すことも出来んぞ?
 それでいいのか、もう一度考えてみろ。
 どうせ、誰かがくるまであと少しだけの余裕はある。
 それまで、再考するんだなシェイラ。
 後悔をしないように」

「サク様‥‥‥後悔なんてーしな‥‥‥何て?
 いま、なんて言ったの‥‥‥エリカ???」

 視線の先ではエリカが抱きしめられたまま、泣き崩れていた。
 そして、両手で拳を作り、夫の胸を打っていた。
 もっと綺麗に生きたかった。
 こんなに汚れた生き方なんてしたくなかった。
 そう泣き叫んでいるのを見て、シェイラは歩みを止めてしまっていた。

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