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第一部 朔月の魔女
太陽神の聖女と宵闇の魔女 3
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「旦那様。
まずは最初の質問に答えますわ。
どこから現れた、か。
簡単です、聖女の能力。
空間と空間の裂け目に、いえ、少しばかり法則の異なる世界に身をおいただけ。
そう、こんなふうに」
「なにをー‥‥‥?」
シェイラの片手がすいっとどこかに消えてしまう。
まるでそれはそこにある何かを取り出そうとしているようでー‥‥‥。
「なんだ、なにを‥‥‥シェイラ。
その腕を伝わる血は、誰のものだ‥‥‥???」
「ああ、これですか?
ほら、出ておいでなさい。
エリカ?」
ズルズルと引きずり出されてきたそれは――
「エリ、カ?
そんな!!??」
「心配しなくていいわ、旦那様。
まだ、わたしは貴方を愛しているもの‥‥‥。
そして、エリカに大司教が与えた苦悶の日々に対する申し訳なさも、ね?
その血はわたしが受けたものよ、どこに隠していたんだか、ナイフなんて‥‥‥ね?」
「お前ーその腕は、その血はお前の‥‥‥!?」
「だから、いい加減気づいてよ、リクト。
あなたに愛なんて誰も捧げてくれなかったってまだわからないの?
このナイフがどこにあったか理解してる?
妻が腕から先を切り落とされても、まだ理解しないなんて‥‥‥情けない」
なんでこんな痛い目にあってまで夫を諭さなければならないんだろ。
さっさと離縁してこの場を離れればそれでいいだけなのに。
でも、と。
シェイラはいまはただ黙って影の中で見守っているサクの言葉を思いだす。
やるなら、最後までやらなければいつか必ず――
「だが、シェイラ‥‥‥お前、その腕を切られてなぜ悲鳴一つあげずにエリカの意識を失わせるなど。
それでもそれは、太陽神様の神官だった女。
生半可な術は通用しないし、太陽神様の加護もある。
聖女の技では、痛めることは出来ないはずだ」
「まだそんなところでしか論議できないのですか、王太子殿下。
妻と過去の愛人どちらをー‥‥‥ああ、そうでしたね。
わたしは殺される運命でした。
あなたがそう、語っていたんだわ」
そう言うと、エリカの首を掴んだままで切り離されている片腕を回収し、エリカの身体をリクトに向かってシェイラは放り投げた。
まるで体重、いや重さを感じさせないその素振りにリクトは唖然としていた。
「重さを、軽減した?
いや、反転させて打ち消したのか。
その御業は‥‥‥暗黒神ゲフェトの、アギト様の天敵の技ではないか!?」
ああ、そうね。
と、シェイラは思い返す。
彼等は、この世界の人や魔や竜は神様の位でもない限り知らないんだわ
アギトとゲフェトは双子の神。
双子の黒狼。
敵でも味方でもなく、ただ、聖者を守るだけに存在していたんだ、と。
「ええ、そうね、旦那様?
知らないことは罪、とはよく言ったものですわ。
シェイラはアギト様の信仰を辞めましたの。
ゲフェト様でもない、新たな神の聖女と相成りましたから。
あの朔月の神の聖女に‥‥‥」
「何を言っている!?
この世界にある月は三連の月だけ。
朔月などあるわけ‥‥‥が。
なんだ、あれは、ばかな‥‥‥月は?
月はどこ消えた‥‥‥!?」
エル・オルビス。
赤と青、そして銀色の月に彩られた美しき夜の世界はしかし、いまどこにもその月を見ることができない。
まるで、誰かが食べてしまったかのように‥‥‥一面、墨色に空は覆われていた。
「良い夜ですね、旦那様?
知っていますか、この世界に元々は月は一つだったことを。
そして、アギト様が太陽神になる前に、その月を食べた狼、神の狼がいたことを」
「古き、古代神の魂にお前は奪われたのか、その聖なる心を‥‥‥」
「はあ、どうでもいいんですよ、旦那様?
あなたとエリカの行為なんて許せないけれど、でも、それは仕方ない現実。
わたしが聖女となってから裏切りを画策した‥‥‥その薄汚い英雄の仮面をはいでやりたいくらい。
愛をささやくなら、もっとおしとやかなあなたに心酔するだけの女にすれば良かったのに。
なぜ、愛してるなんて言ったの、リクト?」
シェイラは最終通告のように、静かに裏切り者に質問した。
まずは最初の質問に答えますわ。
どこから現れた、か。
簡単です、聖女の能力。
空間と空間の裂け目に、いえ、少しばかり法則の異なる世界に身をおいただけ。
そう、こんなふうに」
「なにをー‥‥‥?」
シェイラの片手がすいっとどこかに消えてしまう。
まるでそれはそこにある何かを取り出そうとしているようでー‥‥‥。
「なんだ、なにを‥‥‥シェイラ。
その腕を伝わる血は、誰のものだ‥‥‥???」
「ああ、これですか?
ほら、出ておいでなさい。
エリカ?」
ズルズルと引きずり出されてきたそれは――
「エリ、カ?
そんな!!??」
「心配しなくていいわ、旦那様。
まだ、わたしは貴方を愛しているもの‥‥‥。
そして、エリカに大司教が与えた苦悶の日々に対する申し訳なさも、ね?
その血はわたしが受けたものよ、どこに隠していたんだか、ナイフなんて‥‥‥ね?」
「お前ーその腕は、その血はお前の‥‥‥!?」
「だから、いい加減気づいてよ、リクト。
あなたに愛なんて誰も捧げてくれなかったってまだわからないの?
このナイフがどこにあったか理解してる?
妻が腕から先を切り落とされても、まだ理解しないなんて‥‥‥情けない」
なんでこんな痛い目にあってまで夫を諭さなければならないんだろ。
さっさと離縁してこの場を離れればそれでいいだけなのに。
でも、と。
シェイラはいまはただ黙って影の中で見守っているサクの言葉を思いだす。
やるなら、最後までやらなければいつか必ず――
「だが、シェイラ‥‥‥お前、その腕を切られてなぜ悲鳴一つあげずにエリカの意識を失わせるなど。
それでもそれは、太陽神様の神官だった女。
生半可な術は通用しないし、太陽神様の加護もある。
聖女の技では、痛めることは出来ないはずだ」
「まだそんなところでしか論議できないのですか、王太子殿下。
妻と過去の愛人どちらをー‥‥‥ああ、そうでしたね。
わたしは殺される運命でした。
あなたがそう、語っていたんだわ」
そう言うと、エリカの首を掴んだままで切り離されている片腕を回収し、エリカの身体をリクトに向かってシェイラは放り投げた。
まるで体重、いや重さを感じさせないその素振りにリクトは唖然としていた。
「重さを、軽減した?
いや、反転させて打ち消したのか。
その御業は‥‥‥暗黒神ゲフェトの、アギト様の天敵の技ではないか!?」
ああ、そうね。
と、シェイラは思い返す。
彼等は、この世界の人や魔や竜は神様の位でもない限り知らないんだわ
アギトとゲフェトは双子の神。
双子の黒狼。
敵でも味方でもなく、ただ、聖者を守るだけに存在していたんだ、と。
「ええ、そうね、旦那様?
知らないことは罪、とはよく言ったものですわ。
シェイラはアギト様の信仰を辞めましたの。
ゲフェト様でもない、新たな神の聖女と相成りましたから。
あの朔月の神の聖女に‥‥‥」
「何を言っている!?
この世界にある月は三連の月だけ。
朔月などあるわけ‥‥‥が。
なんだ、あれは、ばかな‥‥‥月は?
月はどこ消えた‥‥‥!?」
エル・オルビス。
赤と青、そして銀色の月に彩られた美しき夜の世界はしかし、いまどこにもその月を見ることができない。
まるで、誰かが食べてしまったかのように‥‥‥一面、墨色に空は覆われていた。
「良い夜ですね、旦那様?
知っていますか、この世界に元々は月は一つだったことを。
そして、アギト様が太陽神になる前に、その月を食べた狼、神の狼がいたことを」
「古き、古代神の魂にお前は奪われたのか、その聖なる心を‥‥‥」
「はあ、どうでもいいんですよ、旦那様?
あなたとエリカの行為なんて許せないけれど、でも、それは仕方ない現実。
わたしが聖女となってから裏切りを画策した‥‥‥その薄汚い英雄の仮面をはいでやりたいくらい。
愛をささやくなら、もっとおしとやかなあなたに心酔するだけの女にすれば良かったのに。
なぜ、愛してるなんて言ったの、リクト?」
シェイラは最終通告のように、静かに裏切り者に質問した。
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