正しい魔眼の使い方

星ふくろう

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第一章 愛の奇跡

愛情のタイムリミット 4

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「え?
 なんですか?
 ちょっと、イブローズ!!!
 情けないわね、さっさと出て来なさいよ!!!」

「だって、杏。
 そのお方はーー」

 背後でうづくまってしまっている主霊を半ば引きずりだすようにして杏は彼を眼前に押し出す。

「仮にも聖霊を名乗るなら、しっかりしないさいよ!!!
 あんただって、デーモンでしょうが!?」

「だからー‥‥‥。
 格が違うんだよ、杏」
 
 ああ、なんて情けない聖霊と契約したんだわたしは!!!
 杏はそんな怒りに狩られながら炎の聖霊を叱咤激励する。
 この場で力あるものと契約しているのは自分一人だけ。
 生徒たちを守れるのも、彼女だけ。
 そう思っていたからだ。
 
「なにが違うのよ、言ってみなさいよ。
 悪魔ごときに生徒の魂やるくらいなら、死神にー‥‥‥死神???」

 ああ、まただ。
 この子は熱くなると、すぐに状況を忘れる。
 イブローズはまた胃が痛くなった。

「そうだよ、杏。
 この御方は、神々の中でも最高位のお一人。
 僕では勝てない。
 本来なら、その御姿を見ることすら許されないんだ」

「だって‥‥‥。
 死神なんてそこらにいて、魂案内してるんじゃないの?」

 杏は素朴な疑問を口にした。
 杏は見たことがないが、病院などには何度もイブローズと出入りしているし。
 昨年は、祖父がなくなったばかりだ。

「おじい様が亡くなった時だって、あんたが死神が迎えに来たから安心だって‥‥‥」

「違うんだよ、杏。
 あれは、この方の単なる分身。
 神が地上に遣わす天使みたいなもの。
 この御方は、本体‥‥‥」

「うそ。
 そんな上位神がなんでここに!?」

 二人のやりとりを聞いている間、銀髪の女性の姿をかたどった悪魔と、エンバー。
 悪魔に精霊王と呼ばれた彼は面白そうにそのやりとりを見ていた。
 そして、弓羽の発言でその間は破られる。

「杏ちゃん、もう大丈夫だよ。
 死神様がね、ほらっ!!」

 と雫の刻印があるはずの手の甲と、魔眼があったはずの自分の眼を指差してみせる。
 え?
 なんで、刻印がないのに生きてるの???
 杏には事態が理解できていなかった。

「死神様が、自分に触れた者の権利だからって。
 わたしたちの呪いを解いてくれたの。
 このーーあれ、なんで見えるんだろ??
 エンバーだよね?
 役立たずの!!!」

 ひどい言われようだな。
 エンバーはそんな顔をして苦笑する。
 これには悪魔も噴き出してしまう始末だ。

「え、なんで、どういうこと??
 なら、あなたたちは死ななくても良かったの???
 ってか、何よそれ。
 死神に触れたら呪いが解呪できるなんてチート、聞いてないわよ???」

 杏はエンバーとイブローズを互いに睨みつける。

「そんなこと、僕も知らないよ、杏。
 知ってたら、教えてるし。それに死神様に人間が触れるなんてこと、まずあり得ない‥‥‥」

 そう言い、イブローズは死神と上目遣いに見た。
 ようやく死神が口を開いてもいいかな?
 そんな顔で一堂を見渡すと、会話を繋げるようにしゃべり始めた。

「もちろん、そう多くはないが、例外はあったよ。
 聖霊、いやデーモンのイブローズと言うべきか。
 聖なるものでもありながら、魔でもある。
 君たちはなかなかに大変そうだね。
 さて、弓羽に雫。
 君たちの呪いは消えた。
 そちらの堕天使殿にはお帰り願おうかな?
 そして、精霊王。
 いまは消えた精霊使いにならないか、などど雫をたぶらかしたようだが。
 その刻印がある限り、それは不可能だとは教えなかったのかね?」

 悪魔は渋そうな顔をし、だが立ち去る気配はない。
 そしてエンバーはああ、ばれてしまった。
 そんな素振りで雫を見降ろす。

「すまないね、雫。
 だますつもりはなかったんだよ。
 ただ、この悪魔との賭けがあってね」

「エンバー、あんた何言ってるの?
 まさか‥‥‥私の魂を賭けてその悪魔と遊んでたの!!??」

 すまない、そうエンバーは謝る仕草をする。

「なんで、そんなこと‥‥‥弓羽まで巻き込んで。
 許さない、絶対に許さない!!」

 雫は怒りで我を忘れていた。
 この小生意気な妖精から、自分をだましていた詐欺師になった妖精王とやらに。
 せめて、一発、殴りつけてやりたかった。
 エンバーは触れないのは理解しているだろう?
 そんな顔でやすやすとそれを避けるーーはずだった。
 だが‥‥‥

「な、死神?!
 なにをっ!」

「あ、あれ??
 なんで、触れた‥‥‥???」

 二人は、いや一人と一匹の妖精は見事に触れ合っていた。

「妖精王、私に触れた雫の権利が少々、延長されても悪くはあるまい。
 さあ、これで君は彼女と契約を交わしたまえ。
 数億いる妖精界の住民を束ねる王の一人が、異世界の者を騙し、あまつさえその命を賭けたのだ。
 代償は、その身で報いるがいい。
 彼女に服従を誓いそして導くのだな。
 精霊使いへと。かつて、人の世と妖精界を繋いだ、あの架け橋へとーー」

「おのれ、死神ーー」

「エンバー。
 往生際が悪いわ、死神が言う通りよ。
 あなたは契約を履行しなければならない。
 だって、ほら」

 悪魔は、時計を指差す。

「あなたが決めた終了時間の1分前。
 あなたの負けね」

「え?
 なになに?
 どういうこと???
 じゃあ、エンバーは私に服従?? 家来?
 へー‥‥‥。じゃあ、契約しようか。エンバー。いいえ、してあげるわ、妖精王様。
 毎日、サンドバッグにしてやる。愛する弓羽をだしにつかった罰、思い知らせてやる‥‥‥」

 エンバーは死神の力なのかわからないが。
 その身を以前のような小さな妖精へと変えてしょぼんとしていた。

「ねえ、ところでなにを賭けてたの?」

 素朴な疑問を爆弾のように弓羽が放り込んだ。

「え、それは・・・・・・言えない」

 悪魔も悪魔でこの場を退散したいが出来ない。
 この質問は無視するようなそんな感じになる。
 死神が面白そうに答えた。

「それはね、君の権利も延長して教えてあげよう、弓羽。
 君たちにつけられた刻印。シープハンドの呪いを解けるかどうかだよ」

 呪いを解く???
 弓羽は頭を捻るが理解できない。

「意味わかんない!!!
 死神様!!!
 解説!!!」

 なんて命知らずな子なんだ‥‥‥
 隣でイブローズが呟くのを耳にしながら、杏もまたこの会話に聞き入っていた。
 死神はこのやりとりが楽しそうについつい教えてしまう。

「いいかい、弓羽。
 その黒羊の刻印。
 それはね、悪魔たちが都合よく仕組んだ、魂を楽に回収するための装置だ。
 妖精界と人間界が繋がった時、魔界も少しだけ繋がった。
 そこで、悪魔たちはそれを仕込んだんだよ、新しく産まれる命が食べ頃になれば。
 それを手に入れれるようにね。
 その暴虐ぶりに怒ったのが、エンバーを始めとする妖精や精霊、聖霊たちだ。
 だが、神々は見てみないふりをすることにした。
 なぜだかわかるかい?」

「ぜーんぜん、でも、シープハンドがあった時に契約できないって分かってるなら。
 なんでしーちゃんをあんなに訓練したの???」

「それはね、弓羽。
 彼女がその命を削って動いている間にも、エンバーには力が対価としてもたらされるから。
 妖精王の力が大きくなれば、その分だけ、悪魔にも対抗しやすくなる。
 だからだよ」

「えー‥‥‥。
 それってエンバーにだけご都合主義。
 いいぞ、しーちゃん、やっちゃえ!!!
 あ、で、死神様、神様たちが黙って立ってなんで???」

 弓羽がやっちゃえ!!!
 そう言った一言が雫の怒りを更にともし‥‥‥
 エンバーはその片手に、吊り上げられていた。
 死神はそれを面白そうに見ながら、弓羽の質問に答える。
 ああ、こんなに楽しい会話は何万年ぶりだろう、そう感じながら。

「それはね、いま日本が輸出している鉱石、イワトニウム。あれはね、神々にとっても良い、食糧だから。
 簡単に妖精界と人間界を閉じられては困るんだ。
 だから、エンバーたちがその出入り口を閉じようとした時に、神界から待ったがかかった。
 まあ、それは私は知らなかったことだけどね。本体はずっと別の世界にいたから」

 うーん???
 弓羽は考える。いまこの場で発言できるのは彼女だけになりつつあった。
 エンバーは黙ってしまい、杏は状況判断ができていない。悪魔は何かを企んでいるように喋らない。
 そして雫はエンバーを黙って殴りつけていた‥‥‥

「ねえ、死神様。
 なら、あの富士山の爆発は偶然じゃないよね?
 神様たちが美味しいご飯が欲しいから起こして、で、悪魔はそれを利用して、妖精界ーー
 エンバーたちはなんとか人間を、シープハンドを持つ子供たちを救おうとして。
 で、エンバーは悪魔と取引した。もうこの刻印、呪いをかけないようにするために。
 あ、しーちゃん、そろそろやめないと、エンバー死んじゃうよ、それ‥‥‥」

 緑の羽の妖精は、その肌と同じ緑の血を吐きながら黙って殴られ妖精王サンドバッグとなっていた。

「うーん、弓羽がそう言うなら、もういいわ。
 でもさー、エンバーは賭けにかったわけだから。
 今から、シープハンド持ってる子達は死ぬことは無くなるのよね、悪魔さん?」

 雫はエンバーの身体をぽいっと後ろに放り投げると、その血で緑色に染まった拳を悪魔に向けた。
 銀髪の女性は不敵に笑い、その血を面白そうに見つめて答える。

「ええ、そうね。
 でも、まだ終わってないの。
 だって、もうすぐ死ぬ人がいるんだもの。
 その魂くらい貰わなきゃ。割にあわないわ」

「もうすぐ死ぬ‥‥‥???」

 ええ、そう。
 そう言って悪魔が指差したその先にいたのは、弓羽だった。
 
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