上 下
29 / 66
2.少年と不運の少女

幸運少年と大企業 3

しおりを挟む
 男性の名前はトーリ、女性の名前はシーアといい、二人は幼なじみでずっとペアのパーティーとして活動しているそうだ。
 共にランクはアイアンランクで、二人の年齢では平均のりもランクでは無いだろうか。

 僕がバイトと言ったのは、シャドウウルフの皮の運搬の事。

 僕一人だとどうしてもグンセさんの店と狩場の往復時間が無駄になる。一往復が約二時間で、それを二回行えば四時間のロスだ。
 二人の協力でその四時間を削減できれば、僕が狩りに集中することが出来てとても効率が良い。

 そして、僕がダンジョンに潜るのは一日10時間程度。

 一日でシャドウウルフの皮を1000個集めるには、100個/時間 を超えなければならない。


 ——こうして、僕達三人の挑戦は始まった。



 まずは準備として中級のマジックバッグを三個購入した。これで、僕が元々持っていた物と合わせて四個となった。

 この四個のマジックバッグを、二個の二セットに分ける。そして、グンセさんの店の倉庫までトーリさんととシーアさんにピストン輸送してもらう。

 倉庫にシャドウウルフの皮を置いたら、空になったマジックバッグを持ち、ダンジョンの僕の所へと戻って来る。そして皮で一杯になったマジックバッグと交換し、またグンセさんの店の倉庫へ。

 ——これをひたすら繰り返す。


 初日に試したところ、皮が溜まるのと二人が戻って来るタイミングは丁度良く、倍とまではいかなかったが一日で700個まで集めることが出来た。


 そこから——僕達のシャドウウルフプロジェクトが本格化する。


 更なる効率アップを求め、僕はシャドウウルフの効率的な倒し方を模索する。足を狙ってから首に一太刀、それが一番早くシャドウウルフを倒すことが出来た。

 トーリさんとシーアさんも、僕の効率アップに合わせて移動時間の短縮を試みた。ダンジョンで出来るだけ魔物と遭遇しないルートの開拓や、体力を残しつつ可能な限り移動を早める速度の調整。

 3日目には一日で900個を超えた。


 ——だが、4日目にしてそのバランスが大きく崩れる事となる。

ーーーーーー

所有者の成長を確認しました。それに応じて"聖剣エクスキャリバー"が進化します。

ーーーーーー

 僕がシャドウウルフを倒していると、突如無機質な声が聞こえる。
 更に僕の右手に持っていた聖剣が光を放ち始める。
 
 光が治った後——僕の右手に握られていたのは、今までの錆びた剣では無く、程々に使い込まれた錆のない金属製の剣だった。

「まさか……聖剣が成長した?」

 確かに聖剣は(成長型)となっていた。何かをきっかけに強くなる可能性が有るとは思っていたが、まさか……僕の成長と同期していたとは。

「"ステータス"」

 すぐにステータスを確認する。

 
------

ムノ Lv.20
才能/なし

筋力 1 +50
体力 1 +50
敏捷 1 +50
知力 1 +50

スキル/剣術(中級)、光弾、セイバーレイ、属性耐性(中)、状態異常耐性(中)

------

「おお……」

 レベルが上がってもステータスが上がらないので全く気にしていなかったが、僕はレベル20を達成したようだ。

 そして恐らく聖剣の成長の効果とおもわれるが、ステータスのプラス値が20上がっていて、更に剣術が一段階上がり中級に、そしてセイバーレイというスキルが追加されていた。

 帰ったらグンセさんに聖剣の鑑定をお願いしなければ。

 これで、ステータスだけなら僕ももうシルバーランクの上位かゴールドランクの下位と同等だろう。まあ、そこから先はもうステータスだけでは語れないような領域になって来るのだが。

 僕は強くなった力を試したくてシャドウウルフを探す。ステータスが上がった恩恵か、体が軽くなったような感覚を覚える。

「あ、居た」

 僕とシャドウウルフがお互いの存在に気付いたのはほぼ同時だったが、シャドウウルフは僕に気付くと同時に動き始めていた。

 ただその動きは毎回同じで、飛び付きながらの噛みつきだ。
 僕はそれをいつもの用に躱す——が。

 今までは躱して足を斬りつけるのが精一杯だった筈なのに、躱してからシャドウウルフが次の行動に移るまでの時間が随分とゆっくりと感じる。

「これなら……!」

 僕はシャドウウルフの首を狙って聖剣を振り下ろす。
 すると進化前までは確かに感じていた硬い物を斬るような感触が感じられず、まるでシャドウウルフの首が豆腐のようにスッと剣が入っていく。
 ——そしてそのまま剣が通り抜けると、シャドウウルフの首と胴が分かれてその身体が崩れ落ちる。


「これが……強くなるって事なのか」

 
 その急激な変化に戸惑いながらも——僕は強くなった事を実感し、聖剣を見つめながら……深く噛み締める。
 
しおりを挟む

処理中です...