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2.少年と不運の少女
幸運少年と大企業 交戦 6
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僕は向かい合ったまま、ミスリルトルーパーを見つめる。
確かにあの光線は強力で僕が直撃すれば無事で済まないと思う。
でもどうしても溜めが発生するから、その間に距離を詰めてしまえばどうって事は無い。
「行きますよ——」
そう言うとすぐに僕は全速力で駆け出す。少し卑怯な気もするけど……まあ良いよね。
『消えろ!』
ミスリルトルーパーの手が僕に向けて向けられ、それと同時に溜めに入る。
発動までは3秒程。この距離だと少し間に合わないか?
1……2……3!
頭の中でカウントダウンをして、3と同時に走る方向を斜めに変える。先程までの位置に光線が到達するが、僕はもうそこには居ない。
そのまま手の向きを変えて光線が追いかけて来るかと思ったんだけど……あれ?収まった?
もしかして、発動中動けない?まさかエネルギーの関係?
とにかく無事に済んだのだから良しとしよう。ミスリルトルーパーはすぐ目の前で、やっと動き始めた所。
僕は聖剣を人間では右肘となる部分に——そのまま突き刺す。
流石にミスリル合金をそれだけで切り落とすには至らず、聖剣は突き刺さったままとなる。
けど、これで良い。
僕は聖剣を回収せずその場を離脱する。
『ハッ!結局ダメじゃ無いか!!やはり、ミスリル合金を打ち破ることなど不可能だ!』
夜叉神さんの勝ち誇ったような声。
「ふう……」
僕は夜叉神さんの声を無視して、腕を組んで棒立ちする。後は時間が来るのを待っていれば良い。
『……何をしている?諦めたのか?』
「いやまさか。少しだけ休憩しているだけですよ」
まあ、恐らくだがこのままでも向こうから攻撃してくる事は無いと思う。多分、あのミスリルトルーパーは燃費が悪いんじゃ無いかな?グンセさんで既に連発した以上、これ以上の無駄打ちは避けると踏んだ。
さて、そろそろ時間かな。
僕はもう一度ミスリルトルーパー目掛けて走り出す。夜叉神さんは光線を止め、今度は左腕を引く動作。僕が近づくのと同時に左腕によるパンチが放たれる。
そのパンチが到達する手前で全力で跳躍し、左腕の更に上へ。そのまま左腕を蹴って前方へと飛び込み、ミスリルトルーパーの懐に入り込む。
聖剣の有る右腕は目の前。
「来い」
その声と同時に僕の右手に現れる聖剣。僕は聖剣を両手に持ち全力でミスリルトルーパーの右肘をぶった切る。
ミスリルトルーパーの右肘は硬く、かなりの抵抗を感じる。
だが——聖剣はそこに食い込んでいく。
「いけえええッッ!!」
僕が聖剣を振り抜くと——右肘から先、右手が切断されて、その重さで地面に落ちる。
『なっ!?』
夜叉神さんの驚く声。
けれど僕は反応を待たず、今度は右膝へと聖剣を突き刺して再度離脱する。
そのまま安全圏まで退くと、僕はホッと胸を撫で下ろす。
「あー良かった。上手く行った」
『な、何をした!?何故ミスリル合金を切断出来る!?』
「……そんなの言うわけ無いじゃないですか」
——僕がミスリル合金を切断出来た理由、それは進化した聖剣に新たに追加された"魔封"の効果だ。
このスキルは魔素を消し去る効果を持ち、魔法を弱める事に使うもの、と最初は思っていた。
けれど聖剣を魔石に当てて検証したところ、魔石の中にある魔素をも消し去る効果を持っている事が分かった。下級の魔石なら1分ほどで魔素が無くなり、魔素が消失した魔石は脆くなって砂のように崩れ去ってしまう。
——それなら魔石を混ぜて硬くしたミスリル合金はどうだろう?
もし魔素が消失し続ければ、合金の構造の配列が魔石であった部分は隙間となり、むしろ通常のミスリルよりも脆くなってしまうんじゃないか?
ましてや関節はどうしても弱くなる部分。仮にミスリル並の強度が残っていたとしても——それなら切断出来る。
「良くもまあ、考えたもんだな……」
グンセさんが背後から僕に声をかけて来る。
「思い付きが上手く行って良かったです。いやースキル検証って大事ですね」
僕はミスリルトルーパーから目を離さずに答える。
「知ってても俺は全く思い付かなかったけどな……」
「……グンセさん脳筋なんですか?」
「あ?商売と悪巧みなら、ムノにゃ負けねえぜ?」
「悪巧みは譲りますよ——っと。そろそろかな」
僕は先程と同じ手段で手足を破壊していく。
右膝、左肘、そして左膝。
それらの破壊が終わると、ミスリルトルーパーは身動きが取れなくなったようだ。僕は最後に抵抗を止めたミスリルトルーパーの腰部分へと聖剣を突き刺す。
「……夜叉神さん。そろそろ諦めて降参しませんか?これではどう足掻いても勝つことは難しいでしょう。僕達もあなたの命まで取りたいわけじゃない」
僕に関節を破壊されている間沈黙を貫いていた夜叉神さんが、ようやく話し始める。
『……それでも、私は降参しない。私には今の会社での立場が、全てだ。それを守るためなら……私は死ぬまで抵抗しよう』
——これでもダメなのか。僕には、夜叉神さんが守ろうとしているものが理解出来ない。
思い通りにならない苛立ちから、僕は地面を素手で殴りつける。
「ムノ……もう良いんじゃねえか?」
グンセさんが僕の肩にポンと手を置く。
「グンセさん、理解出来ない僕が変なんでしょうか……」
「何が大事なモノかなんて、人それぞれだろうよ。それを他人が理解できねえのも仕方がねえ」
「……」
「さて……夜叉神。いや、夜叉神 秋生。俺達はテメェの望み通りの結末をくれてやる。だが、その最後を担うのは俺やムノじゃねえ」
グンセさんが僕達の乗ってきた車を見ると後部座席のドアが開かれる。
そこから降りてきたのは、黒髪の少女。
その少女は一歩ずつ夜叉神さんに近づいていく。
『な——ッ!何故ヒメがここに居る!?』
「本当は事の成り行きだけ見てて貰うつもりだったんだがな……」
僕達はここへ向かう前に夜叉神家へ寄り、そこでヒメさんに事情を話した。
事情を聞いた彼女は僕達について来ることを望み、車の中で全ての成り行きを見守っていた。
——そんな彼女は一つだけ僕達にお願いをした。
「お父さん。もうやめよう」
ヒメさんが夜叉神さんに話し掛ける。
「お父さんが他の企業にやって来た事も、出世する事に全てを懸けてきた事も全て分かってる。でも今ならまだ——」
『うるさい!!お前まで私を馬鹿にするのか!!これで終わってどうする!?どうせあのクソ社長が私をクビにする事に変わりはない!!そうなったら私には何も残らない!!』
「……」
——そのまま沈黙が続く。
僕達は二人の間に割って入ることが出来ずに見ている事しか出来ない。もどかしさを覚えつつも動けずに居る。
そして、先に沈黙を破ったのはヒメさんだった。
「分かった。ねえ、お父さん……私決めたの。私はどんな手を使ってでも、DHとして成り上がってみせる」
『……好きにしろ』
「そしてもしお父さんがここに死に場所を求めるなら、私は否定しないわ。でも——」
ヒメさんの顔が決意した表情へと変わる。
「——せめて、最後は……娘の私の手で」
『な……ッ!?』
夜叉神さんが驚くのも無理はない。だがこれが彼女の唯一の望みだった。僕達はこうならない為に動いていたというのに。
「……ちょっと待ってて。夜叉神さんに最後のチャンスを」
僕はミスリルトルーパーに駆け寄り、聖剣を呼び搭乗口のハッチをこじ開ける。
『な、何を!』
ハッチが開かれるとそこには夜叉神さんの姿。
僕はそのまま胸ぐらを掴み顔を近づける。
「……これが、本当に最後のチャンスです。夜叉神さん、もう諦めましょう」
「……断る。私はもうここを絶対に動かない」
「……分かりました」
僕はハッチを乱暴に閉めて、そこに聖剣を突き刺す。
そしてヒメさんの所へと戻ると、ヒメさんは浮かない表情をしていた。まあ、それも当然だろう。
「……ヒメさん」
「……ええ」
——彼女は黒い本を手に、魔法の言葉を紡ぎ始める。
確かにあの光線は強力で僕が直撃すれば無事で済まないと思う。
でもどうしても溜めが発生するから、その間に距離を詰めてしまえばどうって事は無い。
「行きますよ——」
そう言うとすぐに僕は全速力で駆け出す。少し卑怯な気もするけど……まあ良いよね。
『消えろ!』
ミスリルトルーパーの手が僕に向けて向けられ、それと同時に溜めに入る。
発動までは3秒程。この距離だと少し間に合わないか?
1……2……3!
頭の中でカウントダウンをして、3と同時に走る方向を斜めに変える。先程までの位置に光線が到達するが、僕はもうそこには居ない。
そのまま手の向きを変えて光線が追いかけて来るかと思ったんだけど……あれ?収まった?
もしかして、発動中動けない?まさかエネルギーの関係?
とにかく無事に済んだのだから良しとしよう。ミスリルトルーパーはすぐ目の前で、やっと動き始めた所。
僕は聖剣を人間では右肘となる部分に——そのまま突き刺す。
流石にミスリル合金をそれだけで切り落とすには至らず、聖剣は突き刺さったままとなる。
けど、これで良い。
僕は聖剣を回収せずその場を離脱する。
『ハッ!結局ダメじゃ無いか!!やはり、ミスリル合金を打ち破ることなど不可能だ!』
夜叉神さんの勝ち誇ったような声。
「ふう……」
僕は夜叉神さんの声を無視して、腕を組んで棒立ちする。後は時間が来るのを待っていれば良い。
『……何をしている?諦めたのか?』
「いやまさか。少しだけ休憩しているだけですよ」
まあ、恐らくだがこのままでも向こうから攻撃してくる事は無いと思う。多分、あのミスリルトルーパーは燃費が悪いんじゃ無いかな?グンセさんで既に連発した以上、これ以上の無駄打ちは避けると踏んだ。
さて、そろそろ時間かな。
僕はもう一度ミスリルトルーパー目掛けて走り出す。夜叉神さんは光線を止め、今度は左腕を引く動作。僕が近づくのと同時に左腕によるパンチが放たれる。
そのパンチが到達する手前で全力で跳躍し、左腕の更に上へ。そのまま左腕を蹴って前方へと飛び込み、ミスリルトルーパーの懐に入り込む。
聖剣の有る右腕は目の前。
「来い」
その声と同時に僕の右手に現れる聖剣。僕は聖剣を両手に持ち全力でミスリルトルーパーの右肘をぶった切る。
ミスリルトルーパーの右肘は硬く、かなりの抵抗を感じる。
だが——聖剣はそこに食い込んでいく。
「いけえええッッ!!」
僕が聖剣を振り抜くと——右肘から先、右手が切断されて、その重さで地面に落ちる。
『なっ!?』
夜叉神さんの驚く声。
けれど僕は反応を待たず、今度は右膝へと聖剣を突き刺して再度離脱する。
そのまま安全圏まで退くと、僕はホッと胸を撫で下ろす。
「あー良かった。上手く行った」
『な、何をした!?何故ミスリル合金を切断出来る!?』
「……そんなの言うわけ無いじゃないですか」
——僕がミスリル合金を切断出来た理由、それは進化した聖剣に新たに追加された"魔封"の効果だ。
このスキルは魔素を消し去る効果を持ち、魔法を弱める事に使うもの、と最初は思っていた。
けれど聖剣を魔石に当てて検証したところ、魔石の中にある魔素をも消し去る効果を持っている事が分かった。下級の魔石なら1分ほどで魔素が無くなり、魔素が消失した魔石は脆くなって砂のように崩れ去ってしまう。
——それなら魔石を混ぜて硬くしたミスリル合金はどうだろう?
もし魔素が消失し続ければ、合金の構造の配列が魔石であった部分は隙間となり、むしろ通常のミスリルよりも脆くなってしまうんじゃないか?
ましてや関節はどうしても弱くなる部分。仮にミスリル並の強度が残っていたとしても——それなら切断出来る。
「良くもまあ、考えたもんだな……」
グンセさんが背後から僕に声をかけて来る。
「思い付きが上手く行って良かったです。いやースキル検証って大事ですね」
僕はミスリルトルーパーから目を離さずに答える。
「知ってても俺は全く思い付かなかったけどな……」
「……グンセさん脳筋なんですか?」
「あ?商売と悪巧みなら、ムノにゃ負けねえぜ?」
「悪巧みは譲りますよ——っと。そろそろかな」
僕は先程と同じ手段で手足を破壊していく。
右膝、左肘、そして左膝。
それらの破壊が終わると、ミスリルトルーパーは身動きが取れなくなったようだ。僕は最後に抵抗を止めたミスリルトルーパーの腰部分へと聖剣を突き刺す。
「……夜叉神さん。そろそろ諦めて降参しませんか?これではどう足掻いても勝つことは難しいでしょう。僕達もあなたの命まで取りたいわけじゃない」
僕に関節を破壊されている間沈黙を貫いていた夜叉神さんが、ようやく話し始める。
『……それでも、私は降参しない。私には今の会社での立場が、全てだ。それを守るためなら……私は死ぬまで抵抗しよう』
——これでもダメなのか。僕には、夜叉神さんが守ろうとしているものが理解出来ない。
思い通りにならない苛立ちから、僕は地面を素手で殴りつける。
「ムノ……もう良いんじゃねえか?」
グンセさんが僕の肩にポンと手を置く。
「グンセさん、理解出来ない僕が変なんでしょうか……」
「何が大事なモノかなんて、人それぞれだろうよ。それを他人が理解できねえのも仕方がねえ」
「……」
「さて……夜叉神。いや、夜叉神 秋生。俺達はテメェの望み通りの結末をくれてやる。だが、その最後を担うのは俺やムノじゃねえ」
グンセさんが僕達の乗ってきた車を見ると後部座席のドアが開かれる。
そこから降りてきたのは、黒髪の少女。
その少女は一歩ずつ夜叉神さんに近づいていく。
『な——ッ!何故ヒメがここに居る!?』
「本当は事の成り行きだけ見てて貰うつもりだったんだがな……」
僕達はここへ向かう前に夜叉神家へ寄り、そこでヒメさんに事情を話した。
事情を聞いた彼女は僕達について来ることを望み、車の中で全ての成り行きを見守っていた。
——そんな彼女は一つだけ僕達にお願いをした。
「お父さん。もうやめよう」
ヒメさんが夜叉神さんに話し掛ける。
「お父さんが他の企業にやって来た事も、出世する事に全てを懸けてきた事も全て分かってる。でも今ならまだ——」
『うるさい!!お前まで私を馬鹿にするのか!!これで終わってどうする!?どうせあのクソ社長が私をクビにする事に変わりはない!!そうなったら私には何も残らない!!』
「……」
——そのまま沈黙が続く。
僕達は二人の間に割って入ることが出来ずに見ている事しか出来ない。もどかしさを覚えつつも動けずに居る。
そして、先に沈黙を破ったのはヒメさんだった。
「分かった。ねえ、お父さん……私決めたの。私はどんな手を使ってでも、DHとして成り上がってみせる」
『……好きにしろ』
「そしてもしお父さんがここに死に場所を求めるなら、私は否定しないわ。でも——」
ヒメさんの顔が決意した表情へと変わる。
「——せめて、最後は……娘の私の手で」
『な……ッ!?』
夜叉神さんが驚くのも無理はない。だがこれが彼女の唯一の望みだった。僕達はこうならない為に動いていたというのに。
「……ちょっと待ってて。夜叉神さんに最後のチャンスを」
僕はミスリルトルーパーに駆け寄り、聖剣を呼び搭乗口のハッチをこじ開ける。
『な、何を!』
ハッチが開かれるとそこには夜叉神さんの姿。
僕はそのまま胸ぐらを掴み顔を近づける。
「……これが、本当に最後のチャンスです。夜叉神さん、もう諦めましょう」
「……断る。私はもうここを絶対に動かない」
「……分かりました」
僕はハッチを乱暴に閉めて、そこに聖剣を突き刺す。
そしてヒメさんの所へと戻ると、ヒメさんは浮かない表情をしていた。まあ、それも当然だろう。
「……ヒメさん」
「……ええ」
——彼女は黒い本を手に、魔法の言葉を紡ぎ始める。
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