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新たな生活
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「あ、来た来た。ハヨンさんこっちです。」
城の門の脇に立っていたハイルが、城に向かってくるハヨンひらりと手を振る。
「あの、えと、これはどういう…。」
わざわざ迎えが来るとは思っていなかったので、戸惑うハヨンにさぁ、ついてきてくださいとハイルは先を歩きだした。
その上足を進める先は兵士の寮ではなく、後宮や役人の寮の方向だ。
「男ばかりの寮で一人だけ女では何かと不便かと思い、女官達と同じ館なのですが、構いませんか?」
ハヨンの疑問を感じ取ったらしいハイルは部下のハヨンに向けて相変わらず丁寧な口調で尋ねてきた。
「はい、助かります。」
風呂や着替えでわざわざ一人の女のために場所を用意するのは費用がかかるからだろう。風呂の時間をずらすとか、着替えの場所を提供してもらえるよう頼もう等と考えていたハヨンにはありがたい処置だ。
「あと、あなたの教育担当は俺なので、何かあれば遠慮なく言ってください」
「はい。」
(副隊長が教育担当…。やっぱり、何かあると踏んでこの対応なのか)
そのとき、きゃあと色めきたった声が聞こえてきた。そして大きくなるざわめき。あきらかに女性のものだ。
(これはいったい…。)
ハヨンの疑問は後宮に足を踏み入れて解決した。上官の特権で男子禁制の館に入ってきたハイルを見て、女官達が興奮しているのだ。
「すみません、通してくださいね。」
女官達ににこやかに対応し、廊下に出てきた女官の人混みを颯爽と歩いていくハイルはどうやらこういうことになれているらしい。
ハヨンのハイルに対する印象が丁寧な人から女馴れしている人に変わった瞬間だった。
「基本食事、風呂は女官達と一緒の館を使ってください。食事は私達のところでとっても良いのですが、朝起きてわざわざ移動するのも面倒でしょう。」
「はい。」
ハヨンの割り当てられた部屋に入り、生活の説明を受ける。
簡素ではあるものの清潔そうで、ハヨンにとっては申し分無いほど良い部屋だ。
「新しく入った兵士は1年間馬の世話を他の隊の兵士とすることになっているので、朝の餌やりを忘れずに。あぁ、馬の世話は兵士達と顔合わせをしてからだから、明日はまだいいですよ。」
ハヨンにとって初めての集団での生活だから、覚えなければいけないことがたくさんあるように思えて少し不安になる。
「だいたい初めは訓練ばかりですが、ある程度力をつければ城内の見張りや王族でなくとも官僚の護衛などを先立の兵士と交代で任されるようにもなると思います。それはまぁ、決まったときにお話するので、今は訓練についていくことを考えてもらうといいかと。」
「その護衛というのはいつ頃になれば任されるのでしょうか。」
あのとき助けてもらった人に恩返しをしたい、これがハヨンが兵士を志したきっかけだ。その道に少しでも早くたどり着けるなら…。ハヨンは胸を少し高鳴らせた。
「そうですねぇ…。それほど位の高くない官僚なら上手くいけば半年かな…。しかしまぁ、武闘会で優勝すればすぐに護衛を任されることもありますね。」
「…っ、それはいつ行われますか?」
おや、食いつきましたねとハヨンの反応を見て、面白そうにハイルが笑った。
「確か…最短で一ヶ月後でしたかねぇ。隊での規則をあらかた覚えてここでの生活に馴染み始めた頃に行うので。」
(まぁ、今回は特例であなたを試すために一ヶ月後には必ず行っているとは思うのですが…。)
ハイルはハヨンの食いつきを不思議に思いながら心のなかでそう付け足した。この事を言えば彼女は気を悪くしたり、ヘウォンのことを心配するかもしれないので口を閉ざしておく。
「ところで、ぶしつけですがハヨンさんは貴族出身の方なんですか?」
ハイルは今日の仕事の中で最も大切な任務を全うすべく、ハヨン直球で尋ねる。ハヨンは少し悩むような顔をしたが、口を開いた。事前にチュ家の家系図を見て、確かにハヨンという女子の名前がチュ家の現当主の姪の位置に記されていた。しかし、やはりどの貴族の者にチュ家の令嬢の話を尋ねても、答えられる者はいなかった。何か知っているかもしれないチュ家の当主や近しい者たちは遠征中で、今すぐに尋ねることができない。
「私もずっと父が刀鍛冶をしていて、よくは知らないんですが、父は貴族出身だったそうです。ただ、職人になっているのに、家族に縁切られた訳でもなく、名前も残ったままで…。なので名乗るときもチュ・ハヨンとして名乗っているんです。」
彼女はどうも不思議な生い立ちのようだった。しかしチュ家はこの燐で一つしか無いから、どう考えてもかなりの上流貴族の血をひいているわけだ。ただ、チュ家の息子が刀鍛冶になっていたことは知らなかった。
「あの、どうかしましたか?」
ハヨンに尋ねられてハイルははっとした。ここで考え込んでも彼女に怪しく思われてしまう。
「いえ、何でもありませんよ。ては、私はこれでおいとまさせてもらいますね。」
ハイルはにこやかに笑って彼女の部屋から出ていった。しかしこのあと、彼が女官達に囲まれてしまったのは言うまでもない。
城の門の脇に立っていたハイルが、城に向かってくるハヨンひらりと手を振る。
「あの、えと、これはどういう…。」
わざわざ迎えが来るとは思っていなかったので、戸惑うハヨンにさぁ、ついてきてくださいとハイルは先を歩きだした。
その上足を進める先は兵士の寮ではなく、後宮や役人の寮の方向だ。
「男ばかりの寮で一人だけ女では何かと不便かと思い、女官達と同じ館なのですが、構いませんか?」
ハヨンの疑問を感じ取ったらしいハイルは部下のハヨンに向けて相変わらず丁寧な口調で尋ねてきた。
「はい、助かります。」
風呂や着替えでわざわざ一人の女のために場所を用意するのは費用がかかるからだろう。風呂の時間をずらすとか、着替えの場所を提供してもらえるよう頼もう等と考えていたハヨンにはありがたい処置だ。
「あと、あなたの教育担当は俺なので、何かあれば遠慮なく言ってください」
「はい。」
(副隊長が教育担当…。やっぱり、何かあると踏んでこの対応なのか)
そのとき、きゃあと色めきたった声が聞こえてきた。そして大きくなるざわめき。あきらかに女性のものだ。
(これはいったい…。)
ハヨンの疑問は後宮に足を踏み入れて解決した。上官の特権で男子禁制の館に入ってきたハイルを見て、女官達が興奮しているのだ。
「すみません、通してくださいね。」
女官達ににこやかに対応し、廊下に出てきた女官の人混みを颯爽と歩いていくハイルはどうやらこういうことになれているらしい。
ハヨンのハイルに対する印象が丁寧な人から女馴れしている人に変わった瞬間だった。
「基本食事、風呂は女官達と一緒の館を使ってください。食事は私達のところでとっても良いのですが、朝起きてわざわざ移動するのも面倒でしょう。」
「はい。」
ハヨンの割り当てられた部屋に入り、生活の説明を受ける。
簡素ではあるものの清潔そうで、ハヨンにとっては申し分無いほど良い部屋だ。
「新しく入った兵士は1年間馬の世話を他の隊の兵士とすることになっているので、朝の餌やりを忘れずに。あぁ、馬の世話は兵士達と顔合わせをしてからだから、明日はまだいいですよ。」
ハヨンにとって初めての集団での生活だから、覚えなければいけないことがたくさんあるように思えて少し不安になる。
「だいたい初めは訓練ばかりですが、ある程度力をつければ城内の見張りや王族でなくとも官僚の護衛などを先立の兵士と交代で任されるようにもなると思います。それはまぁ、決まったときにお話するので、今は訓練についていくことを考えてもらうといいかと。」
「その護衛というのはいつ頃になれば任されるのでしょうか。」
あのとき助けてもらった人に恩返しをしたい、これがハヨンが兵士を志したきっかけだ。その道に少しでも早くたどり着けるなら…。ハヨンは胸を少し高鳴らせた。
「そうですねぇ…。それほど位の高くない官僚なら上手くいけば半年かな…。しかしまぁ、武闘会で優勝すればすぐに護衛を任されることもありますね。」
「…っ、それはいつ行われますか?」
おや、食いつきましたねとハヨンの反応を見て、面白そうにハイルが笑った。
「確か…最短で一ヶ月後でしたかねぇ。隊での規則をあらかた覚えてここでの生活に馴染み始めた頃に行うので。」
(まぁ、今回は特例であなたを試すために一ヶ月後には必ず行っているとは思うのですが…。)
ハイルはハヨンの食いつきを不思議に思いながら心のなかでそう付け足した。この事を言えば彼女は気を悪くしたり、ヘウォンのことを心配するかもしれないので口を閉ざしておく。
「ところで、ぶしつけですがハヨンさんは貴族出身の方なんですか?」
ハイルは今日の仕事の中で最も大切な任務を全うすべく、ハヨン直球で尋ねる。ハヨンは少し悩むような顔をしたが、口を開いた。事前にチュ家の家系図を見て、確かにハヨンという女子の名前がチュ家の現当主の姪の位置に記されていた。しかし、やはりどの貴族の者にチュ家の令嬢の話を尋ねても、答えられる者はいなかった。何か知っているかもしれないチュ家の当主や近しい者たちは遠征中で、今すぐに尋ねることができない。
「私もずっと父が刀鍛冶をしていて、よくは知らないんですが、父は貴族出身だったそうです。ただ、職人になっているのに、家族に縁切られた訳でもなく、名前も残ったままで…。なので名乗るときもチュ・ハヨンとして名乗っているんです。」
彼女はどうも不思議な生い立ちのようだった。しかしチュ家はこの燐で一つしか無いから、どう考えてもかなりの上流貴族の血をひいているわけだ。ただ、チュ家の息子が刀鍛冶になっていたことは知らなかった。
「あの、どうかしましたか?」
ハヨンに尋ねられてハイルははっとした。ここで考え込んでも彼女に怪しく思われてしまう。
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