華の剣士

小夜時雨

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武闘会

初めての武器

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 ハヨンの嫌な予感は見事に的中し、あと二試合勝てば優勝というところで、槍を得意とする朱雀所属の隊員が対戦相手になった。
 朱雀は燐でも最強の騎馬隊だ。馬上での戦いとなると、大太刀や槍での戦いが基本となるので、槍の専門家ともいえる。

(やっぱり…!!木製だから、つなぎ目がない…!!)

 普通の槍ならば穂先と柄は材質が異なるため、接合部がある。しかし今回は槍を模した木製の棒といった方が正しい。普通の槍ならばその接合部が弱いため、そこを狙って穂先を落とすなども有効かと考えていたが、それは叶わなかった。

(でも、ここまできてしまったもの…。何とかやってみるしかない…!)

 ハヨンは対戦相手と礼をしながらそう腹を括った。相手の構える棒を見て、あまりに間合いが違いすぎて、ハヨンは思わず自分の木刀と見比べてしまう。

(気圧されちゃだめだ。気持ちで負けた時点で勝敗が決まる。)

 ハヨンは息を一気に吐き出した。相手が間合いを確かめながらじりじりと近づいてくる。ハヨンも相手が届く範囲に入らないように気をつけながら飛び出す時を見計らっていた。どちらが先に痺れを切らして飛びかかるかこれで大きく勝敗が決まる。ハヨンたちはじりじりと動くだけでなかなか大きく行動に出なかった。しかし、どう考えても間合いからして有利なのは相手の方である。
 相手は勢いをつけて飛びかかってきた。

(来た!)

 ハヨンは素早く太刀筋を見極めながら避ける。後ろに下がっても相手が前にでたらおしまいなので、相手がどう棒を動かすかを考えることが鍵だ。

危ういところでハヨンの横すれすれに槍の先端がかすめる。

(危なかった…。そう何度もこの手が決まるとは言えない…。)

 できるだけ相手が間合いや飛びかかるこつを覚える前に奇襲をしかけた方が得策である。
ハヨンは先ほどの攻撃で、一つある方法が頭の中に浮かぶ。もし仮に彼が頭に血がのぼりやすい質ならうまくいく可能性がある。

(何もやらないよりはましだな。)

 ハヨンは後ろに大きく下がる。怖じ気づきでもしたのかと相手は少しの間驚いていたが、ハヨンが右手の人差し指をたてる。あきらかに挑発する行動だった。
 観客がどよめく。どう考えても不利な相手に挑発されたことによって、相手はハヨンの思惑どおり頭にきたようだった。
 馬鹿にするな!とでも言いたげな目でハヨンを睨み付け、ぐっと腰をひいたあと、ハヨンめがけて走り、槍をつきだそうとする。

(かかった!)

 ハヨンはぎりぎりまで相手を引きつけ、すんでのところで横に避け、ハヨンが避けたことで相手は前に少し体勢を崩す。  ハヨンはそこを狙って刀を振り下ろした。体勢を整える暇がなかった彼は、槍を横にして柄で刀身を受け止めた。ハヨンはぐっと刀に力を入れて、跳躍した。

「えっ」

 相手も動揺しているのがわかる。ハヨンはそのまま素早く刀を脇に携え、槍の柄をめがけて着地した。ハヨンは力こそないものの、跳躍力も平衡感覚も常人よりも高い。みしっ、と槍の柄が悲鳴をあげる。ハヨンは槍の柄から飛び降りた。対戦相手はというと、先程の挑発に乗ってしまったことと、槍に余計な負荷を与えてしまったことに気がついて、青ざめている。そして、次は自分が攻める番だと言わんばかりに槍を突き出した。
 ハヨンはその槍を右脇に挟む。そのまま脇に力を入れて、槍をしなるように体の向きを変えると、ばきっと槍は折れてしまった。

(悪いけど、槍のままだと私は戦える気がしない…)

 槍もただの棒切れと化せば、ハヨンの独壇場だ。ハヨンは木刀で次々に相手に打ちかかる。相手も必死に棒で受け流していたが、ついに手元から離れてしまった。そしてハヨンは木刀の切っ先を彼の喉元に突きつける。

「白虎のハヨンの勝利!」

審判の言葉を聞いて、観衆がわっと歓声をあげる。一か八かのかけだった勝負は勝ち越した。

(作戦だって立派な力だけれど、まだまだ武術の方では自分も未熟だ。今回は新人の彼立ったからこそ挑発にのったし、槍が木製だったからこの作戦でも戦えた。これが手馴れで真剣だったらそうはいかない。)

 今まで王族の護衛のことばかり考えて、暗殺者がまず使わない槍の対策を今までしてこなかったが、これから先のことを考えて槍についても学んだら損は無いだろう。ハヨンはそう考えながら次のそして最後である対戦相手を確かめに行った。
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