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城内警備
初任務
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「城内警備、ですか。」
ヘウォンの執務室に通されたハヨンは、ヘウォンとハイルの説明を聞き終えて、まず第一声はこう発した。
「そうだ。新兵では武闘会で優秀な成績を修めた者のみが与えられる大事な仕事だ。」
ヘウォンの説明によると、城内警備は主に白虎と玄武の仕事らしい。籠城など城の警備専門の玄武と王族専属護衛する白虎の主な拠点は城であるから、共に警備するのだそうだ。
「ちなみにお前の配置は…。花の間の近くだ。」
城内の地図をみせられてハヨンは目が点になる。花の間というのは、来賓が来た際、王族がその来賓と共に食事をする宴の間だ。
「そ、そのような大事なところ、私のような新米が警備をしてもよろしいのですかっ。」
思いがけず重要な配置だったので、ハヨンの声は上ずる。
「心配するな、お前の他にも十分熟練の強者が一緒に警備する。」
つまり場馴れさせるために置かれているだけで、別段戦力とはされないらしい。場数を踏んでいないので当然の扱いだ。ハヨンは、上司も期待しているのか、と少し期待してしまった自分を少し恨んだ。しかしこれは自分の力を見せる格好の機会だとハヨンは自分を奮い立たせる。
「その任務、必ず果たして見せます。」
「はい、頑張ってくださいね。」
ハイルはハヨンの真剣な顔を見て嬉しそうに頬笑む。
「そう言えばハヨン。お前はチェソン殿を知っているか。」
「はい…。」
ヘウォンが唐突にそんな問いをしてきたので少々面食らったが、ハヨンは頷く。チェソンは朱雀の隊長で、気難しそうな老齢の男だ。なぜかハヨンとすれ違うたびに苦々しい表情をしていたので印象深い人だった。
「あの人はな、お前が入隊したとき、しきりとお前を追い出したがっていたんだがな。やっと今回の武闘会であんたの実力を認めたみたいだ。」
「えっ⁉」
そんなことは全く知らなかったので、ハヨンは心底驚いた。そしてあの表情は自分をどう扱えば良いのか葛藤していたのだな、と合点が行く。
「今まで何かとあんたを追い出そうとしていた輩がいたが、これからはチェソン殿同様、諦めてくれるだろう。あんたが色々と苦労していたのは知っていたが、あんたの実力を見せつける方が効果覿面だと思ってな。あまり助けてやれなかった。悪かったな。」
「いえ。別にそれも大したことなかったので、気にしないでください。」
「でもハヨンさん、あなたに色々やらせていた彼らに1週間の掃除当番を任せるくらいはやったって構いませんよね?」
ハイルはニッコリと微笑んだ。人としてなってないようなので、少々罰を課さねばやってられません。
そう言った彼の姿は新たな一面かもしれなかった。
そしてヘウォンの部屋を離れ、ハヨンは花の間で持ち場についた。
「お前があの噂のチュ・ハヨンか。」
「はい。」
ヘウォンと同じくらいの年齢のガドンという男だった。よく日に焼けていて額に刻まれた深い皺が印象的だが、怖い雰囲気ではない。
「あんたの試合、見ていた。しっかしまぁえげつない事をするもんだと思ったよ…でも期待してるぞ、新人。」
「あ、ありがとうございます。」
どうやらハヨンの戦いかたは誰からでもえげつないと言われるようだった。
花の間に続く廊下の脇に立ち、方々を見渡してみる。
新人を置いておくような場所なのだから、大して危険なところでは無いのかも知れないが、とりあえずあの木は死角になるな、とか、侵入者がやって来たらどの位置を守れば良いだろう、などと考えを巡らせてみた。
今日は確か、第一王位継承者であるリョンヤン王子が来賓と共に食事をするらしい。
年もハヨンとそうかわらないらしいので、もしかするとあの恩人の王子では…と説明を受けたときに考えがよぎったが、そんな浮わついた考えは捨てておくことにした。それは任務を終えてからいくらでも考えれば良いのだから。
「…こちらが花の間です。」
そのとき、という話し声が風にのせて聞こえてきた。どうやら一行がこちらに向かっているらしい。
「すみません、楽団の者ですが。」
花の間に王子よりも一足早くついた芸人らしき一行が扉の従者に話しかける。
「もう少しでリョンヤン様達がこられます。急いでください!」
「すみません。」
どうやら彼らは予定よりも遅れてついたらしい。
ヘウォンの執務室に通されたハヨンは、ヘウォンとハイルの説明を聞き終えて、まず第一声はこう発した。
「そうだ。新兵では武闘会で優秀な成績を修めた者のみが与えられる大事な仕事だ。」
ヘウォンの説明によると、城内警備は主に白虎と玄武の仕事らしい。籠城など城の警備専門の玄武と王族専属護衛する白虎の主な拠点は城であるから、共に警備するのだそうだ。
「ちなみにお前の配置は…。花の間の近くだ。」
城内の地図をみせられてハヨンは目が点になる。花の間というのは、来賓が来た際、王族がその来賓と共に食事をする宴の間だ。
「そ、そのような大事なところ、私のような新米が警備をしてもよろしいのですかっ。」
思いがけず重要な配置だったので、ハヨンの声は上ずる。
「心配するな、お前の他にも十分熟練の強者が一緒に警備する。」
つまり場馴れさせるために置かれているだけで、別段戦力とはされないらしい。場数を踏んでいないので当然の扱いだ。ハヨンは、上司も期待しているのか、と少し期待してしまった自分を少し恨んだ。しかしこれは自分の力を見せる格好の機会だとハヨンは自分を奮い立たせる。
「その任務、必ず果たして見せます。」
「はい、頑張ってくださいね。」
ハイルはハヨンの真剣な顔を見て嬉しそうに頬笑む。
「そう言えばハヨン。お前はチェソン殿を知っているか。」
「はい…。」
ヘウォンが唐突にそんな問いをしてきたので少々面食らったが、ハヨンは頷く。チェソンは朱雀の隊長で、気難しそうな老齢の男だ。なぜかハヨンとすれ違うたびに苦々しい表情をしていたので印象深い人だった。
「あの人はな、お前が入隊したとき、しきりとお前を追い出したがっていたんだがな。やっと今回の武闘会であんたの実力を認めたみたいだ。」
「えっ⁉」
そんなことは全く知らなかったので、ハヨンは心底驚いた。そしてあの表情は自分をどう扱えば良いのか葛藤していたのだな、と合点が行く。
「今まで何かとあんたを追い出そうとしていた輩がいたが、これからはチェソン殿同様、諦めてくれるだろう。あんたが色々と苦労していたのは知っていたが、あんたの実力を見せつける方が効果覿面だと思ってな。あまり助けてやれなかった。悪かったな。」
「いえ。別にそれも大したことなかったので、気にしないでください。」
「でもハヨンさん、あなたに色々やらせていた彼らに1週間の掃除当番を任せるくらいはやったって構いませんよね?」
ハイルはニッコリと微笑んだ。人としてなってないようなので、少々罰を課さねばやってられません。
そう言った彼の姿は新たな一面かもしれなかった。
そしてヘウォンの部屋を離れ、ハヨンは花の間で持ち場についた。
「お前があの噂のチュ・ハヨンか。」
「はい。」
ヘウォンと同じくらいの年齢のガドンという男だった。よく日に焼けていて額に刻まれた深い皺が印象的だが、怖い雰囲気ではない。
「あんたの試合、見ていた。しっかしまぁえげつない事をするもんだと思ったよ…でも期待してるぞ、新人。」
「あ、ありがとうございます。」
どうやらハヨンの戦いかたは誰からでもえげつないと言われるようだった。
花の間に続く廊下の脇に立ち、方々を見渡してみる。
新人を置いておくような場所なのだから、大して危険なところでは無いのかも知れないが、とりあえずあの木は死角になるな、とか、侵入者がやって来たらどの位置を守れば良いだろう、などと考えを巡らせてみた。
今日は確か、第一王位継承者であるリョンヤン王子が来賓と共に食事をするらしい。
年もハヨンとそうかわらないらしいので、もしかするとあの恩人の王子では…と説明を受けたときに考えがよぎったが、そんな浮わついた考えは捨てておくことにした。それは任務を終えてからいくらでも考えれば良いのだから。
「…こちらが花の間です。」
そのとき、という話し声が風にのせて聞こえてきた。どうやら一行がこちらに向かっているらしい。
「すみません、楽団の者ですが。」
花の間に王子よりも一足早くついた芸人らしき一行が扉の従者に話しかける。
「もう少しでリョンヤン様達がこられます。急いでください!」
「すみません。」
どうやら彼らは予定よりも遅れてついたらしい。
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