28 / 221
武闘会
決勝戦
しおりを挟む
(だからと言って私も勝ちを譲りたくはない…。)
その時、鐘の音が聞こえる。もう少しで試合が始まるという合図だ。試合会場にたどり着いたハヨンは木刀を強く握りしめる。
(私も国とかそんな大きな規模では考えてはいなかったけれど、あの人に恩を返すために来たんだから…)
邪魔になる袖口をめくり、髪をもう一度ほどけないように結い直す。彼の方を見ると、彼は準備運動をしていた。特に緊張しているようでもなく、心理戦に持ち込むのは難しそうである。
審判がハヨンとベクホの二人が準備を終えたのを確認し、二人に位置につくように指示する。
「よおい」
神経を尖らせているせいか、ハヨンはぴーんという音が聞こえるような気がした。
「はじめっ!」
ハヨンが構えていた木刀を横に滑らせようとしたとき、ベクホは剣を大きく振りかぶろうとしていた。
(まずいっ!)
慌ててベクホの木刀を受け止める。
「悪いね、ハヨン。君の弱点を攻めさせていただくことにしたよ。」
ベクホはハヨンの受け止めている木刀にさらに力を加える。
(…!力わざで私を抑える気だ。)
女性にはどうしても補えない腕力で仕掛けてくるようだった。
「…っく」
まともに刀を受け止めるなんていつぶりだろうか。今までの戦いかたは力勝負にならないよう、注意を払いながら攻撃するという方法だった。
ハヨンの記憶が正しければ、ヨウに手合わせをしてもらって以来だ。ヘウォンに入隊試験の際にもこのようにされたが、あれは手首の力を抜いていたからか、ベクホのものよりも軽かった。
(どうしたものか…。)
ハヨンがそうこう考えているうちに、少しずつベクホの刀は沈んでくる。上段から狙われたことが一番大きな痛手だ。これで力を加えられると、ハヨンは膝をつかなければならない。そうすれば自然と失格の判定が出るだろう。
(…!でも、まだ手段はある…!!)
ハヨンは歯を食いしばり、刀を両手の力のみで支える。そして左足を軸にして、彼の腿を勢いよく蹴った。彼は大きく体を後退させたが、蹴りが弱かったようだ。彼はまだ立っている。
「…っ。まだまだ…。」
ハヨンは次々に刀をベクホに打ち込み、彼が怯んだすきに渾身の力で先ほどとは反対の腿を蹴った。
「…!」
彼は倒れこみ、そのまま立ち上がれなくなったようだった。上半身は動くものの、下半身は全く動かないようだ。
審判がハヨンの勝利を告げた。
「な、何でだ…。」
ベクホは自由の効かない自身の体に思わずそう洩らした。
「ごめん、腿は強く蹴られたりすると歩けなくなる急所があるの。でも、一時的なものだから安心して」
ハヨンはベクホの前に座り込む。
「…。結構えげつないことするな、ハヨン。」
ベクホは少し呆れたような表情を見せる。
「だってそうでもしないと力負けしちゃうじゃない。」
「…。あんたのやり方は把握した。次は絶対負けないからな。」
そう言ったあと、ハヨンは担架に乗せられていったベクホを見送った。彼がハヨンを責めなかったのは、実際の戦いは決して急所を狙ったりすることを責めたりはできないと知っているからだ。
戦場ではどんな手を使ってでも生き延びる根性がなければ死ぬ。お互いに武道における礼儀などに構ってなどいられないのだ。
(これは、街でいかに生き延びるかにも似ているよね…。)
街でも私腹を肥やし、のうのうと生きている者の大半は汚いやり口で利益を得ている者だった。戦いでは無いので、もちろんハヨンはそんな汚いやり口はしていなかったが。
(それにしても…。やっとだ、やっと夢への一歩が掴めた。)
この武闘会の優勝者は出世を約束されている。これは、他の新兵の中でも一番有利な位置についたとも言えるのだ。この事に浮かれずに気を引き締めていかなければ、とハヨンは自身の緩んだ頬を戒めた。
その時、鐘の音が聞こえる。もう少しで試合が始まるという合図だ。試合会場にたどり着いたハヨンは木刀を強く握りしめる。
(私も国とかそんな大きな規模では考えてはいなかったけれど、あの人に恩を返すために来たんだから…)
邪魔になる袖口をめくり、髪をもう一度ほどけないように結い直す。彼の方を見ると、彼は準備運動をしていた。特に緊張しているようでもなく、心理戦に持ち込むのは難しそうである。
審判がハヨンとベクホの二人が準備を終えたのを確認し、二人に位置につくように指示する。
「よおい」
神経を尖らせているせいか、ハヨンはぴーんという音が聞こえるような気がした。
「はじめっ!」
ハヨンが構えていた木刀を横に滑らせようとしたとき、ベクホは剣を大きく振りかぶろうとしていた。
(まずいっ!)
慌ててベクホの木刀を受け止める。
「悪いね、ハヨン。君の弱点を攻めさせていただくことにしたよ。」
ベクホはハヨンの受け止めている木刀にさらに力を加える。
(…!力わざで私を抑える気だ。)
女性にはどうしても補えない腕力で仕掛けてくるようだった。
「…っく」
まともに刀を受け止めるなんていつぶりだろうか。今までの戦いかたは力勝負にならないよう、注意を払いながら攻撃するという方法だった。
ハヨンの記憶が正しければ、ヨウに手合わせをしてもらって以来だ。ヘウォンに入隊試験の際にもこのようにされたが、あれは手首の力を抜いていたからか、ベクホのものよりも軽かった。
(どうしたものか…。)
ハヨンがそうこう考えているうちに、少しずつベクホの刀は沈んでくる。上段から狙われたことが一番大きな痛手だ。これで力を加えられると、ハヨンは膝をつかなければならない。そうすれば自然と失格の判定が出るだろう。
(…!でも、まだ手段はある…!!)
ハヨンは歯を食いしばり、刀を両手の力のみで支える。そして左足を軸にして、彼の腿を勢いよく蹴った。彼は大きく体を後退させたが、蹴りが弱かったようだ。彼はまだ立っている。
「…っ。まだまだ…。」
ハヨンは次々に刀をベクホに打ち込み、彼が怯んだすきに渾身の力で先ほどとは反対の腿を蹴った。
「…!」
彼は倒れこみ、そのまま立ち上がれなくなったようだった。上半身は動くものの、下半身は全く動かないようだ。
審判がハヨンの勝利を告げた。
「な、何でだ…。」
ベクホは自由の効かない自身の体に思わずそう洩らした。
「ごめん、腿は強く蹴られたりすると歩けなくなる急所があるの。でも、一時的なものだから安心して」
ハヨンはベクホの前に座り込む。
「…。結構えげつないことするな、ハヨン。」
ベクホは少し呆れたような表情を見せる。
「だってそうでもしないと力負けしちゃうじゃない。」
「…。あんたのやり方は把握した。次は絶対負けないからな。」
そう言ったあと、ハヨンは担架に乗せられていったベクホを見送った。彼がハヨンを責めなかったのは、実際の戦いは決して急所を狙ったりすることを責めたりはできないと知っているからだ。
戦場ではどんな手を使ってでも生き延びる根性がなければ死ぬ。お互いに武道における礼儀などに構ってなどいられないのだ。
(これは、街でいかに生き延びるかにも似ているよね…。)
街でも私腹を肥やし、のうのうと生きている者の大半は汚いやり口で利益を得ている者だった。戦いでは無いので、もちろんハヨンはそんな汚いやり口はしていなかったが。
(それにしても…。やっとだ、やっと夢への一歩が掴めた。)
この武闘会の優勝者は出世を約束されている。これは、他の新兵の中でも一番有利な位置についたとも言えるのだ。この事に浮かれずに気を引き締めていかなければ、とハヨンは自身の緩んだ頬を戒めた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。
発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。
何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。
そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。
残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる