華の剣士

小夜時雨

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リョンヤン王子

専属護衛として 弐

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「失礼します。」
「やぁ、ハヨン。これからよろしくお願いします。」
「はい。」

  ハヨンが執務室に入ったとき、どうやらリョンヤンは公務中だったようだ。書物に筆を走らせていた手を止める。

「ハヨン、あなたは強い女性だと思います。力もそうですが、心も。ヘウォン殿やハイル殿から聞きましたが、あなたも入隊時はいろいろとあったそうですね。」

   ハヨンが専属護衛を任せられる人材かどうか話し合うときにいろいろと聞いたのだろう。でもハヨンにとってはあんなこと、とるに足りないことだった。王族の人に恩返しができればそれで十分だったからだ。

「もしかすると、異例な大出世ですから、妬む人がいるかもしれません。あなたが私を守ってくださるように、私もあなたのことはできるだけ守りたいと思います。もし何かあったら、気兼ねなしに相談してくださいね。」
「はい。」

  リョンヤンの優しい笑みが見て、自然とハヨンも笑顔で答える。しかし、きっとそんなことしないだろうな、とも思っていた。

(そんな小さなことでこの方の手を煩わせる訳にはいかない。)

  今日二人に嫌がらせを受けるかもしれないと言われてしまったハヨンだったが、これまでのことが自信になって、それならかかってこい、とも思えるほどの余裕だった。

「では、今日はまず、私は今から講義の時間ですが、護衛、よろしくお願いします。」
「はい!」

  ハヨンは今日から始まる新たな生活に胸を踊らせた。
 公務を任されているといえど、リョンヤン王子もよわい十七。あと一年ほどで元服を迎えるが、それでもこの国の上に立つ者達として学ぶことはたくさんある。それゆえリョンヤン王子は大抵午前中は講義を受けて過ごすのだ。ハヨンはまだ、危険性の低い仕事からということだろう。今日は午前中の護衛をすることになっていた。

「私に教えてくださるイルウォン殿は、宰相と私の教育係を兼任されてるんですよ。厳しいお方ですが、とても丁寧に教えてくださいますし、頼りになる人です。」
「そうなんですか。私、宰相とまだお会いした事がないので、少し緊張しています。」

  戸口に立つハヨンに、リョンヤン王子は卓の前に座りながらもいろいろと声をかける。初任務のハヨンの気をまぎらわせるためだろう。ハヨンがいつでも戦闘態勢に入れるような姿勢でいると、

「大丈夫ですよ、ここの部屋にたどり着くまでの廊下は至るところに衛兵がたっています。ここではその衛兵を全員倒して、それでもここにやってくる者しか侵入できません。」

と、仮にもこの前まで命を狙われていたとは思えない肝の据わったことを言うのである。そしてこのようなやり取りが続いているのだが、ハヨンはひやひやした。もしその万が一があったらどうするのだ、と。リョンヤン王子は穏やかで、あまりにも危機感のない人物のようにも思えてくる。

(これから先、私がしっかりしなければ…。)

ハヨンは焦りにも似た気持ちが生まれていた。








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