華の剣士

小夜時雨

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人は恋に踊らされる

おかしな展開 參

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「あの、そんなことしていただかなくても結構です!私はこの仕事に誇りを持っています。ですのでお気遣いなく!」

  ハヨンはこの訳のわからない男に堪忍袋の緒が切れた。野蛮な仕事と言われたのも悔しかった。その上、勝手に自分の定規で相手の気持ちを推し量って、自分勝手な愛を押し付けてくることに我慢ができなかった。

「これ以上強引になさったら私も手荒な方法をとる他ありません。」

  ハヨンは掴まれた手を捻って逆に彼の手を掴みかえす。

「うっ」

  アンビョが痛みに顔を歪める。

「私に投げ飛ばされても文句は言えませんよ」

  ハヨンは今までにないほどの険しい顔を見せていた。

「あなたは私の言葉を何一つ受け入れてくれない…。」

  アンビョが怒りで肩を震わせた。

(それは私が言いたい…!!)

  一触即発といったところで、ハヨンの目の前に、誰かが立ちはだかった。

(…?誰?)

  目の前の背中の主が分からず、ハヨンは首をかしげる。均整のとれた背中から、武人かと思ったが、衣服には細かな刺繍が施されており、武人の着る服ではない。その上、こんなにも上質なものを着る人物とは限られている。

「ここで何をしていた。」

  その声を聞いて、ハヨンは大きく目を瞠った。凛と涼やかで、それでいて柔らかく響く声。紛れもなくリョンと同じ声だ。いつもリョンの姿の時は1つに纏めている艶やかな髪を下ろし、煌びやかな服を着た姿は、まさに王子だった。

「こ、これはリョンヘ様。私はただ彼女とこうして話をしていたのですよ。」

  ハヨンはアンビョが話始めたのをよそにリョンヘ王子を凝視してしまう。王子としての姿で直接関わることが少ないので、これからどうすればよいのだろうと少し混乱していたのだ。

「話?話にしては穏やかでないようだが…。」

  リョンヘはハヨンとアンビョの両方に目を向ける。ハヨンの手首は、アンビョが力一杯握っていたために赤い。そして、リョンヘが二人の姿を見かけた頃には、今にでも組手が始まりそうな格好であっただろう。

「私は彼女にこの仕事は向いていないので辞めるよう説得していたのです。女性には危ないですから」

これ以上黙っていては、アンビョの良いように話を持っていかれそうな気がしたのでハヨンは口を挟むことにした。

「あの…」
「そなたはこの者を愚弄しているのか。」

  ハヨンが話そうと口を開いたとき、リョンヘがそうアンビョに尋ねた。その姿は王族としての誇りを持ち、いつものリョンの時の気安さは一切無かった。

「そ、そんな愚弄など…。ただ、女性の仕事では無いと思ったので、心配でそう説得していたのです。殿下はそうは思われないのですか?」
「そんなこと、一度も思ったことが無い。彼女は高い志を持ってこの城に参り、白虎の一員としての誇りを持って仕事をしている。むしろそんな彼女に自分の考えを押し付けていては無礼ではないのか」

  アンビョは押し黙った。リョンヘから放たれるその雰囲気は重々しく、ハヨンでさえ口を開くことを臆してしまう。

「アンビョ様。私はあなたの説得に応じる気はありません。それと、私の叔父の家にもう尋ねて来ないでください。私はあなたを護衛する貴族の方の一人としか思っておりません。」

  ハヨンはその重たい空気の中でやっとそう伝えた。その言葉を聞いたアンビョは自分の好意をはねつけられたからか、リョンヘに恥ずかしい思いをさせられたからか赤している。そして、肩を震わせていたかと思うと、

「私はおしとやかな女性を好んでいる。あなたのことは好いていない!」

と憤然として立ち去った。
  予想外の捨て台詞に、ハヨンはぽかんとする。散々言っていたあの胸焼けするような言葉は一体何だったのか。

「あの、ありがとうございました」

  ハヨンが頭を下げると、そうかしこまるなと優しい声がかかった。

「私は大したことはしていない。ただ不思議に思ったことを口にしただけだ。礼には及ばない。」

  口調は依然として固かったが、目にはあのリョンらしい優しい光が宿っていた。その姿を見て、ハヨンはほっとする。もはや別人のように感じていたのだ。

「これからも誇りを持って励め。」

  そう口にした後リョンヘは立ち去っていく。ハヨンはあのもの言いや雰囲気に何か覚えのあるような気がした。








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