華の剣士

小夜時雨

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人は恋に踊らされる

おかしな展開 その後

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  あれからハヨンとリョンの関係について、誤解されたあの噂が広まっていったのに加え、アンビョがハヨンと言う者はとんでもない女だ、などといった噂を吹聴して回ったせいか、ハヨンに言い寄る貴族はもう、アンビョ以降現れなかった。
  ハヨンは多少妙な噂が流れても、貴族に言い寄られなくなるなら断然ましだと内心胸を撫で下ろしていた。

「それにしてもアンビョは自分をこけにされたと思っているのかな。どうもハヨンを貶めたいらしい。」

  二人きりの朝に、リョンは呆れ顔でそう言った。彼はいつも通り旅芸人の格好で、あの王子の堂々とした姿とはまるで違っている。

(実はリョンって2人いるんじゃないの…)

  笑顔で冗談を言うリョンを見ながら、ハヨンはこっそりそう考えた。

「アンビョ様は自尊心が異常に高そうだからね。でもまぁ、もともと彼の性格を城の人は知ってるから、私に関する彼の評価は、誰もまともに取り合ってないよね。」

  アンビョの言葉を信じた者は、ハヨンや彼と関わりの薄かった貴族達ぐらいだ。他の者はもう知っているという反応らしい。
  へウォンに至っては

「そうでしょうなぁ!彼女はいつか大物になりますから、ただの女性ではないですよ。彼女は素晴らしい女性ですなぁ!」

と大笑いしたらしい。何を今さらいっているのか、と。その話を直属の上官であるハイルに教えてもらった時、ヘウォンへの尊敬の念はますます増した。彼の懐は海よりも深い。

(ちょっとその場所にいたかったなぁ)

とそんなヘウォンへの反応を前に、アンビョがどうなったのかが気になったハヨンは、少し意地の悪いことを考えていた。

「なかなか懲りないやつだ。まだまだ若いな。自分がもうすぐ当主の座を継ぐことの自覚が足りていない。」

  そうアンビョを評価したリョンを見てハヨンは思わず笑いをこぼした。リョンの方がアンビョよりもはるかに年下だからだ。

「あんた今俺の方が年下だって思っただろ」

  少し不機嫌そうに眉を寄せたリョンは、隣に座っていたハヨンに向き直る。

「俺は自分の立場はわきまえているし、いずれどんなことが起きても受け止める覚悟ができている。だからこれくらい言わせろよ。アンビョはさんざん俺の友達をこけにしたやつだからな。少しは文句を言いたくなる。 」

  リョンのその覚悟と、照れたように告げた最後の言葉に驚いて、ハヨンはまじまじと彼を見つめそうになった。しかし、リョンはそれに気がついたのか、ふいと視線を逸らすのだった。
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