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まだ見ぬ先へとすすむため
召集
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「皆揃ったな。今日皆を呼び出したのは、これからのことについてだ。」
リョンヘが席についた一同を見渡しながらそう言った。
「以前話し合った末、我々の体勢を調え、リョンヤンやその他の城で自由を奪われている者達を救いだし、最終的には城を反逆者から奪い返そうとなっていたな」
城を追われることとなった時に、そうしようと決めたものの、再びリョンヘの口から聞くと、やはりかなり無茶なことを計画していると感じた。他の者達もそう考えたのか、黙したまま、リョンヘの次の言葉を待つ。
「そうなるとやはり、民に真実を伝え、こちら側についてもらうか、どこかへ援軍を要請するしかない。援軍も考えられるのは滓ぐらいだ…。さらに、私達が表向きは反逆者となっているため、援軍を出してもらえるかわからない。」
(やっぱり聴けば聴くほど絶望的だな…)
どんなことがあってもリョンヘの力になる。わけのわからない状況を打開したい。そう心には決めているものの、やはり心は沈んでしまう。
「私はこの真実を、民にも滓にも伝え、賛同してもらいたい。そのために、国でもまだ奴らの手に落ちていない郡や滓へ赴き、説得したい。手間のかかることだが、どうしても信頼のおける仲間がより多く欲しいのだ。」
リョンヘはどこまでも前向きだった。効率は悪い案だが、力を振るい、民を強制的に動かすのではなく、人として、一人一人と向き合おうというリョンヘの考えは、平民として暮らしてきた期間の長いハヨンとってありがたかった。
他の兵士もそう思ったのだろう。互いにちらりと視線を交わしては、その方法で良いのだと頷き合っている。しかし、老婆は元からあった皺をさらに眉間に寄せて、眼を眇めている。どこか不満に思う点があるのかとハヨンは首を傾げた。
「…そんなまどろっこしいことしなくても、いいじゃないか。なんたって、王族は獣が操れる。熊や虎のような猛獣も、あんたに従順に従う兵士となる。まぁ、何匹もの獣が戦に用いられるなんて、わしとしてはして欲しくない方法ではあるが。」
老婆の言葉に、一気に部屋の温度が下がったような気がした。誰も口を開かず、気まずい沈黙が訪れる。
リョンヘは王族でありながら、獣を操る力を持たない。と言うよりも、幼い頃に何者かに襲撃され、その際に記憶と共に操る力を失ったのだ。
この国での王としての資質は、操れる獣の種類、数、範囲などで決められる。頭脳や武術の腕前などは二の次だ。
力を失う前までは将来有望だとされていた彼は、その日から一転して落ちこぼれと言われることになったのだ。
この気まずい沈黙に、老婆も気がついたらしい。何があるのだ、とまでは声にはしなかったが、表情から見てとれた。
(こんなのリョンヘ様のいらっしゃる前で言えない…。)
この国の常識となっている王族の力。王子にはその資質がないのだと、部下の皆が口にするのは難しいことだ。
「…何やらその手は使えない理由があるようだね…。私はそこまで深入りして訊かないから安心しとくれ。」
老婆の言葉に、その張りつめた空気がほんのわずかに緩む。ハヨンはリョンヘへと視線を向けると、彼は顔色も表情も、一つも変えずにその場にいた。ハヨンは彼がリョンとして過ごしている時の、明るく様々な表情を見せる姿を知っているため、彼が無理をしてはいないかと、気にかかった。
しかし、ハヨンの心配をよそに、話は次へと進んでいく。
「王子。」
この城ではリョンヘの補佐をしているセチャンが静かに手を挙げた。
「なんだ。」
「一つ質問してもよろしいでしょうか。」
「構わぬ。続けよ。」
「王子はもしや、それらの当てはまる郡、そして滓までも御自身で見て回られる訳ではないでしょうな?」
「本来ならばそうしたいが…交渉の段階はお前たちに任せることもあるだろうな。ただし、その地の民や、滓の者達には、一度前に立つ機会が欲しいな。」
燐の国は大国ではないものの、山地が多いため、国中を巡るとなれば、かなりの時間と労力を要するだろう。全てにリョンヘがっつり出向くとなれば、体勢が整う前に王城の反逆者との戦が始まるに違いない。
その上、国王は崩御し、それは王子の手によって引き起こされたものだとされ、一人の王子は追放され、また一人の王子は即位するという、何とも慌ただしく、国は不安定な状態だ。今は民達も、王城からの命にただ従っている状態だが、次第にこの状況に気がついて、混乱することは目に見えている。
そのような中で、追放された王子が、自身の元につけと言うのだ。先が見えぬ状況で、民達はどう動くか。_____答えは明白である。より自身が生きられる、より良い生活を送ることができると感じる方につく。それは言えば、上に立つ者が何を考えているのかをより実感できるかどうかということに繋がる。そしてそれは目で見ることでより強いものとなる。
そのため、リョンヘが民の前に立ち、民に戦に参戦することを説くことはとても効果的だろう。
しかし、リョンヘは効果的だから、と前に立ちたいわけではないことも、ハヨンは理解していた。付いて来てくれる民達が、より安心して過ごせるように、信頼関係を築いておきたいのだ。
リョンヘが席についた一同を見渡しながらそう言った。
「以前話し合った末、我々の体勢を調え、リョンヤンやその他の城で自由を奪われている者達を救いだし、最終的には城を反逆者から奪い返そうとなっていたな」
城を追われることとなった時に、そうしようと決めたものの、再びリョンヘの口から聞くと、やはりかなり無茶なことを計画していると感じた。他の者達もそう考えたのか、黙したまま、リョンヘの次の言葉を待つ。
「そうなるとやはり、民に真実を伝え、こちら側についてもらうか、どこかへ援軍を要請するしかない。援軍も考えられるのは滓ぐらいだ…。さらに、私達が表向きは反逆者となっているため、援軍を出してもらえるかわからない。」
(やっぱり聴けば聴くほど絶望的だな…)
どんなことがあってもリョンヘの力になる。わけのわからない状況を打開したい。そう心には決めているものの、やはり心は沈んでしまう。
「私はこの真実を、民にも滓にも伝え、賛同してもらいたい。そのために、国でもまだ奴らの手に落ちていない郡や滓へ赴き、説得したい。手間のかかることだが、どうしても信頼のおける仲間がより多く欲しいのだ。」
リョンヘはどこまでも前向きだった。効率は悪い案だが、力を振るい、民を強制的に動かすのではなく、人として、一人一人と向き合おうというリョンヘの考えは、平民として暮らしてきた期間の長いハヨンとってありがたかった。
他の兵士もそう思ったのだろう。互いにちらりと視線を交わしては、その方法で良いのだと頷き合っている。しかし、老婆は元からあった皺をさらに眉間に寄せて、眼を眇めている。どこか不満に思う点があるのかとハヨンは首を傾げた。
「…そんなまどろっこしいことしなくても、いいじゃないか。なんたって、王族は獣が操れる。熊や虎のような猛獣も、あんたに従順に従う兵士となる。まぁ、何匹もの獣が戦に用いられるなんて、わしとしてはして欲しくない方法ではあるが。」
老婆の言葉に、一気に部屋の温度が下がったような気がした。誰も口を開かず、気まずい沈黙が訪れる。
リョンヘは王族でありながら、獣を操る力を持たない。と言うよりも、幼い頃に何者かに襲撃され、その際に記憶と共に操る力を失ったのだ。
この国での王としての資質は、操れる獣の種類、数、範囲などで決められる。頭脳や武術の腕前などは二の次だ。
力を失う前までは将来有望だとされていた彼は、その日から一転して落ちこぼれと言われることになったのだ。
この気まずい沈黙に、老婆も気がついたらしい。何があるのだ、とまでは声にはしなかったが、表情から見てとれた。
(こんなのリョンヘ様のいらっしゃる前で言えない…。)
この国の常識となっている王族の力。王子にはその資質がないのだと、部下の皆が口にするのは難しいことだ。
「…何やらその手は使えない理由があるようだね…。私はそこまで深入りして訊かないから安心しとくれ。」
老婆の言葉に、その張りつめた空気がほんのわずかに緩む。ハヨンはリョンヘへと視線を向けると、彼は顔色も表情も、一つも変えずにその場にいた。ハヨンは彼がリョンとして過ごしている時の、明るく様々な表情を見せる姿を知っているため、彼が無理をしてはいないかと、気にかかった。
しかし、ハヨンの心配をよそに、話は次へと進んでいく。
「王子。」
この城ではリョンヘの補佐をしているセチャンが静かに手を挙げた。
「なんだ。」
「一つ質問してもよろしいでしょうか。」
「構わぬ。続けよ。」
「王子はもしや、それらの当てはまる郡、そして滓までも御自身で見て回られる訳ではないでしょうな?」
「本来ならばそうしたいが…交渉の段階はお前たちに任せることもあるだろうな。ただし、その地の民や、滓の者達には、一度前に立つ機会が欲しいな。」
燐の国は大国ではないものの、山地が多いため、国中を巡るとなれば、かなりの時間と労力を要するだろう。全てにリョンヘがっつり出向くとなれば、体勢が整う前に王城の反逆者との戦が始まるに違いない。
その上、国王は崩御し、それは王子の手によって引き起こされたものだとされ、一人の王子は追放され、また一人の王子は即位するという、何とも慌ただしく、国は不安定な状態だ。今は民達も、王城からの命にただ従っている状態だが、次第にこの状況に気がついて、混乱することは目に見えている。
そのような中で、追放された王子が、自身の元につけと言うのだ。先が見えぬ状況で、民達はどう動くか。_____答えは明白である。より自身が生きられる、より良い生活を送ることができると感じる方につく。それは言えば、上に立つ者が何を考えているのかをより実感できるかどうかということに繋がる。そしてそれは目で見ることでより強いものとなる。
そのため、リョンヘが民の前に立ち、民に戦に参戦することを説くことはとても効果的だろう。
しかし、リョンヘは効果的だから、と前に立ちたいわけではないことも、ハヨンは理解していた。付いて来てくれる民達が、より安心して過ごせるように、信頼関係を築いておきたいのだ。
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