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まだ見ぬ先へとすすむため
召集 弐
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「今のあの城の中にいる反逆者が表向きには正しいとされ、即位したリョンヤンは傀儡となっている。そして私が表向きは反逆者だ。父上を弑虐した犯人だ。そんなとき同時に徴兵をすると言ったら民はどちらに動くと思う?」
その場にいた者全てが静まり返った。誰も言葉にはしないものの、皆が同じ様に考えていると言うことが瞬時に見て取れる。
「私は真実を知らぬ民達が反逆者にいいように使われ、いつか捨てられてしまうことは避けたい。それに、こちらに付いてくれるのならば、私たちを信じ、そしてそのことで困ることがないようにしたい。」
リョンヘはよくリョンとして、旅芸人に扮し町を歩いていた。彼は城下のことをよく知っている。民達のことはどの王族、どの貴族よりも熟知していた。しかし彼は、民達の近くにいたとは言え、知っているのは民の生活のごく一部である。現実は彼の思っている以上に厳しいだろう。
この場にいた大半の者も、目を伏せ、浮かない顔をしている。軍には平民の出身の者も多いのだ。
「…そんなまどろっこしいことをしなくともね、あんたには強力な味方がいるんだよ。」
その場を見かねたのか、老婆がその沈黙を破る。皆が視線を一斉に彼女に向ける。礼儀正しく座っていた彼女はいつの間にか椅子の上であぐらをかいていた。
「…それは何者だ?」
リョンヘの声は少し上ずっていた。予想外のことに動揺したからだろう。
一方で老婆はやはり言ってもいいのかとためらっているようにも見えた。しかし、知りたいが為に、熱のこもった視線をに向けるリョンヘを見て、ため息をつく。
「四獣だよ」
その場にいた者が一斉にざわめく。そしてその場にいた青龍のムニルにちらちらと視線を投げかけた。あんなにも不遜で、王族は別に好きではないと言った彼が、老婆の言う強力な助っ人には見えないと思ったのだろう。
ムニル自身も拍子抜けしたような表情だった。しかし、そのあとは苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない表情を見せたあと、諦めきったようにこっそりため息をついたのをハヨンは見逃さなかった。
「それはどういうことだ?現にムニルには協力してほしいと言ったが、返事を保留にされているし、王族に思い入れはないとも言われた。」
リョンヘは老婆に問いかける。老婆は少し呆れた様子で鼻を鳴らした。
「そもそも四獣というのは王族と、古からの繋がりがある。それは簡単には切っても切れない縁だよ。確かにムニルはそう言ったかも知れないが、四獣とはどうしても王族を守ってしまうのさ。」
守ってしまうというのはどういう意味なのか。皆が顔を見合わせ、言葉の真意を知るものがいないかと視線を交わす。しかし知る者はおらず、次第に渦中の人であるムニルに視線が集まった。
老婆の言葉を、眉を寄せながら聞いていたムニルは暫く黙っていたが、諦めたように肩をすくめる。
「あーあ、こんなに早くばらされちゃうなんてね。ほんとはみんなが私を意識しなくなった頃に、こっそりこの城を抜け出そうと思ってたのに。」
と心底がっかりした様子だったので、実際にそのつもりだったらしい。不満気に口を尖らせていたムニルは、意を決したよう顔を上げる。
「そうよ。四獣というのは王族が危機に陥っているのを見ると、守らずにはいられない。本能的な使命があるの。」
と、ムニルが老婆の言葉に言添えたが、皆は抽象的な表現に感じる。それならば、今までの四獣達は王族の前に姿を現さなかったのか。
「…それは、王城を去る前の様に、王族が誰かに刀を向けられた場合か?」
「まぁ、そんなところね。王族の人間が暗殺されそうになったり、事故に遭いそうになったりした時が当てはまるわ。ただし、私たちも万能じゃないから、自分の目の前で起きたことだけにしか対応できないわよ。後は自分の意思しだい。だから、あなたの傍から離れてしまえば私はあなたを守らないという選択もできるの。」
ムニルはリョンヘの問いにあっさり頷いた。もしかすると、観念して全て質問に答えてしまおうと思っているようだ。
「なら、この前は近くにいたから、ムニルが現れたんだな…?」
「あのときはね、お城のお堀に簪を落とした女の子のために探しに来ていたのよ。水辺の捜索は私の得意分野だから」
堀の周辺を彷徨いていると、そこで偶然取り囲まれているリョンヘ一行を見かけた。そして、四獣としての本能が働いたらしい。
あの日の彼は水に濡れてなどいなかった。それなのに、堀に落ちた簪をどう探したのか。ハヨン達にはそれが疑問だった。しかし、今の会議の内容は援護を誰に求めるか、そして四獣に助けを求められるかということだ。話題が逸れてはいけないので、いつか尋ねようと心にとめておく。
「…四獣は朱雀、白虎、玄武の三人がどこにいるかだな…。ムニル。」
リョンヘが彼を名前で呼んだ。今まで青龍とも名前でも呼んでこなかったが、急に呼び方を決めたのは、もしかしたら彼との関係性を自分の中で決めたからかもしれない。
ムニルも大して嫌そうな表情も見せず、リョンヘの視線を受け止めた。
「私は以前、あなたに仲間になってほしいという願いを断られた。でもやはり、あなたの力が欲しい。あなた無くしては私は兄弟も城にいる仲間も助けられない。どうか考え直してはくれないだろうか?」
浮かない表情ではあったが、ムニルは彼の言葉を遮ること無く耳を傾けていた。
その場にいた者全てが静まり返った。誰も言葉にはしないものの、皆が同じ様に考えていると言うことが瞬時に見て取れる。
「私は真実を知らぬ民達が反逆者にいいように使われ、いつか捨てられてしまうことは避けたい。それに、こちらに付いてくれるのならば、私たちを信じ、そしてそのことで困ることがないようにしたい。」
リョンヘはよくリョンとして、旅芸人に扮し町を歩いていた。彼は城下のことをよく知っている。民達のことはどの王族、どの貴族よりも熟知していた。しかし彼は、民達の近くにいたとは言え、知っているのは民の生活のごく一部である。現実は彼の思っている以上に厳しいだろう。
この場にいた大半の者も、目を伏せ、浮かない顔をしている。軍には平民の出身の者も多いのだ。
「…そんなまどろっこしいことをしなくともね、あんたには強力な味方がいるんだよ。」
その場を見かねたのか、老婆がその沈黙を破る。皆が視線を一斉に彼女に向ける。礼儀正しく座っていた彼女はいつの間にか椅子の上であぐらをかいていた。
「…それは何者だ?」
リョンヘの声は少し上ずっていた。予想外のことに動揺したからだろう。
一方で老婆はやはり言ってもいいのかとためらっているようにも見えた。しかし、知りたいが為に、熱のこもった視線をに向けるリョンヘを見て、ため息をつく。
「四獣だよ」
その場にいた者が一斉にざわめく。そしてその場にいた青龍のムニルにちらちらと視線を投げかけた。あんなにも不遜で、王族は別に好きではないと言った彼が、老婆の言う強力な助っ人には見えないと思ったのだろう。
ムニル自身も拍子抜けしたような表情だった。しかし、そのあとは苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない表情を見せたあと、諦めきったようにこっそりため息をついたのをハヨンは見逃さなかった。
「それはどういうことだ?現にムニルには協力してほしいと言ったが、返事を保留にされているし、王族に思い入れはないとも言われた。」
リョンヘは老婆に問いかける。老婆は少し呆れた様子で鼻を鳴らした。
「そもそも四獣というのは王族と、古からの繋がりがある。それは簡単には切っても切れない縁だよ。確かにムニルはそう言ったかも知れないが、四獣とはどうしても王族を守ってしまうのさ。」
守ってしまうというのはどういう意味なのか。皆が顔を見合わせ、言葉の真意を知るものがいないかと視線を交わす。しかし知る者はおらず、次第に渦中の人であるムニルに視線が集まった。
老婆の言葉を、眉を寄せながら聞いていたムニルは暫く黙っていたが、諦めたように肩をすくめる。
「あーあ、こんなに早くばらされちゃうなんてね。ほんとはみんなが私を意識しなくなった頃に、こっそりこの城を抜け出そうと思ってたのに。」
と心底がっかりした様子だったので、実際にそのつもりだったらしい。不満気に口を尖らせていたムニルは、意を決したよう顔を上げる。
「そうよ。四獣というのは王族が危機に陥っているのを見ると、守らずにはいられない。本能的な使命があるの。」
と、ムニルが老婆の言葉に言添えたが、皆は抽象的な表現に感じる。それならば、今までの四獣達は王族の前に姿を現さなかったのか。
「…それは、王城を去る前の様に、王族が誰かに刀を向けられた場合か?」
「まぁ、そんなところね。王族の人間が暗殺されそうになったり、事故に遭いそうになったりした時が当てはまるわ。ただし、私たちも万能じゃないから、自分の目の前で起きたことだけにしか対応できないわよ。後は自分の意思しだい。だから、あなたの傍から離れてしまえば私はあなたを守らないという選択もできるの。」
ムニルはリョンヘの問いにあっさり頷いた。もしかすると、観念して全て質問に答えてしまおうと思っているようだ。
「なら、この前は近くにいたから、ムニルが現れたんだな…?」
「あのときはね、お城のお堀に簪を落とした女の子のために探しに来ていたのよ。水辺の捜索は私の得意分野だから」
堀の周辺を彷徨いていると、そこで偶然取り囲まれているリョンヘ一行を見かけた。そして、四獣としての本能が働いたらしい。
あの日の彼は水に濡れてなどいなかった。それなのに、堀に落ちた簪をどう探したのか。ハヨン達にはそれが疑問だった。しかし、今の会議の内容は援護を誰に求めるか、そして四獣に助けを求められるかということだ。話題が逸れてはいけないので、いつか尋ねようと心にとめておく。
「…四獣は朱雀、白虎、玄武の三人がどこにいるかだな…。ムニル。」
リョンヘが彼を名前で呼んだ。今まで青龍とも名前でも呼んでこなかったが、急に呼び方を決めたのは、もしかしたら彼との関係性を自分の中で決めたからかもしれない。
ムニルも大して嫌そうな表情も見せず、リョンヘの視線を受け止めた。
「私は以前、あなたに仲間になってほしいという願いを断られた。でもやはり、あなたの力が欲しい。あなた無くしては私は兄弟も城にいる仲間も助けられない。どうか考え直してはくれないだろうか?」
浮かない表情ではあったが、ムニルは彼の言葉を遮ること無く耳を傾けていた。
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