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まだ見ぬ先へとすすむため
召集 參
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「…私は権力を持つ奴らのどろどろした関係は大っ嫌いなのよ。だから、できるなら関わりたくないと思っていたわ…。でも、もう遅いわね。あなたに力を貸した時点で関わってる…。いいわ。力を貸す。でもあなた達に力を貸すというのは私の人生を大きく変えることになる。流石に奉仕するのは無理よ。あなたは私に何をくれるの?」
ムニルはそう言ってリョンヘを見返す。微笑んだその表情は諦めからか、もしくは観念したからか。
そして彼は潔く見返りを求める。確かに、これは王族と反逆者との争いで、彼は国を二部する戦いの中核を担うのだ。
(最近は見返りを求めるのが流行りなんだろうか…)
老婆が力を貸すと約束したときもそうだったことを思いだし、ハヨンは少々間の抜けたことを考えた。しかし人と言うのは善意だけで動くわけではない。何にしても動機付けはあるものだ。
「…私は、今は何も持ってはいない。しかし、出来ることには応えようとは思う。ムニルは何が望みなんだ?」
そうねぇ、とムニルは目を伏せながらぽつりと呟く。しばらく考えていたようだったが、
「穏やかに暮らせる家が欲しいかしら。」
と答えた。
老婆の時もそうだったが、これもまた意外な返答である。王族から何でも望みのものを与えられるのであれば、巨万の富を得たいと思う者も多いはずである。
(どちらも並大抵な人生を送ってないんだろうなぁ…)
ハヨンは老婆とムニルの対照的な姿と、彼らの望むものを比べながら考える。ムニルの願いもささやかなものだ。
「青龍がこちら側についてくれるので、非常に心強いが…。それだけではムニルへの負担が多い。私たちも、もちろん力を尽くすべく、そのときまで鍛練を忘れぬようにせねば。」
「もちろんでございます。私もそのような心積りです。」
リョンヘの言葉にセチャンは真っ先に応じた。ハヨンももちろんそのつもりだ。青龍と言えど人の心を持つ。それに神ではない。彼にばかり頼ってしまっては彼も疲れきってしまうだろう。
「…王子、あんたは…。他の四獣へも援護を求めないのかい?」
老婆はそう問いかける。リョンヘはその言葉を聴いて、困ったような表情を浮かべた。
「欲張りかもしれぬが、本当はそうしたい…。ただ、彼らがどこに居るのかわからぬのではどうしようもない…。」
ムニルとは運よく出会い、そこから今日までに至ったが、なにしろ四獣は伝説の話となってしまっている。しかも初代の王が倒れてから、その後の行方は誰も知らない。
その上、ムニルが以前話していた通りなら、四獣の血は遺伝するものではない。ごく普通の人間の両親から生まれる。もしかすると四獣は歩き方も知らない赤ん坊かもしれないし、もう命もつきようとする老人かもしれない。どこに住んでいるのかもどんな人物かもわからない。そんな状況ではどうしても探しにくい。
「何となくで良いのなら、白虎と玄武の所在を知っとるよ。」
老婆の言葉に衝撃が走る。本人はけろっとしていたが、みなは相変わらず老婆の得体が知れず、不思議でならなかった。
「何も驚かんでいい。わしは長いこと四獣の行方を追っていたんじゃ。まぁ、別段見つけても関わりを持とうとはしなかったがの。」
大したことの無いような口ぶりだが、どこに生まれるかわからない、たった四人のことを調べるなど、とても難しいだろう。この燐国は街から街へと行くにも、山々に阻まれることが多い。そんな中で、あてもなく目当ての人を探すなど至難の技だ。
「それに場合によっては見つからなかった四獣もいる。現に今の代では朱雀はわかっておらんしな。」
そのときムニルが老婆の方へと身を乗り出した。かたりと椅子が物音を立てる。彼にしては荒々しい動作から、どうやら動揺しているらしい。
「なら、私のことも知っていたの?」
「幼い折に一度あんたを見つけたよ。ただ、その後の行方は把握できなかったがな。まさかこんな所で会えるとは。」
「…そう。」
ムニルの表情は目を彷徨わせたあと、伏せる。その後は静かに椅子に座り直し、静かだったが老婆は何も言わなかった。ほんの僅かな間だが、ハヨンたちは老婆とムニルが漂わせる雰囲気に、割ってはいることが出来なかった。
その妙な空気を破ったのは、この場を治めるリョンヘだった。
「ならば今のところは分かっているのは白虎と玄武か。」
「探すなら白虎の方がいいだろうね。白虎はまだ孟に近い元という街に住んでいたはずだ。」
リョンヘの言葉を受けて、老婆は即座に答える。
たしかに元は西隣の郡を挟んだ向こう側にある。元ならまだ近いな、早馬で一日といったところか、と何者かがそう言葉を交わしているのが聞こえる。当分の目的が定まり、みなの雰囲気も俄に活気づいてきた。
「当分元の周辺を捜索するならば班を作り、定期的に交代で訪ねるのはどうでしょう。」
セチャンがそうリョンヘに問うた。リョンヘも異論は無いらしく、頷く。
「そうだな。もし私が居ないときに見つかったのならば、見つけ次第白虎に声をかけて会う約束を取り付けてもらえぬか。そして即刻、私にも報告して欲しい。」
「承知いたしました。」
(白虎の人はどんな人なんだろう…。ムニルさんも不思議な人だし、白虎の人もそうなのだろうか…)
これからセチャンが班を決めて行くだろう。ハヨンは伝説の人物に会えることに少し胸が高鳴っていた。
ムニルはそう言ってリョンヘを見返す。微笑んだその表情は諦めからか、もしくは観念したからか。
そして彼は潔く見返りを求める。確かに、これは王族と反逆者との争いで、彼は国を二部する戦いの中核を担うのだ。
(最近は見返りを求めるのが流行りなんだろうか…)
老婆が力を貸すと約束したときもそうだったことを思いだし、ハヨンは少々間の抜けたことを考えた。しかし人と言うのは善意だけで動くわけではない。何にしても動機付けはあるものだ。
「…私は、今は何も持ってはいない。しかし、出来ることには応えようとは思う。ムニルは何が望みなんだ?」
そうねぇ、とムニルは目を伏せながらぽつりと呟く。しばらく考えていたようだったが、
「穏やかに暮らせる家が欲しいかしら。」
と答えた。
老婆の時もそうだったが、これもまた意外な返答である。王族から何でも望みのものを与えられるのであれば、巨万の富を得たいと思う者も多いはずである。
(どちらも並大抵な人生を送ってないんだろうなぁ…)
ハヨンは老婆とムニルの対照的な姿と、彼らの望むものを比べながら考える。ムニルの願いもささやかなものだ。
「青龍がこちら側についてくれるので、非常に心強いが…。それだけではムニルへの負担が多い。私たちも、もちろん力を尽くすべく、そのときまで鍛練を忘れぬようにせねば。」
「もちろんでございます。私もそのような心積りです。」
リョンヘの言葉にセチャンは真っ先に応じた。ハヨンももちろんそのつもりだ。青龍と言えど人の心を持つ。それに神ではない。彼にばかり頼ってしまっては彼も疲れきってしまうだろう。
「…王子、あんたは…。他の四獣へも援護を求めないのかい?」
老婆はそう問いかける。リョンヘはその言葉を聴いて、困ったような表情を浮かべた。
「欲張りかもしれぬが、本当はそうしたい…。ただ、彼らがどこに居るのかわからぬのではどうしようもない…。」
ムニルとは運よく出会い、そこから今日までに至ったが、なにしろ四獣は伝説の話となってしまっている。しかも初代の王が倒れてから、その後の行方は誰も知らない。
その上、ムニルが以前話していた通りなら、四獣の血は遺伝するものではない。ごく普通の人間の両親から生まれる。もしかすると四獣は歩き方も知らない赤ん坊かもしれないし、もう命もつきようとする老人かもしれない。どこに住んでいるのかもどんな人物かもわからない。そんな状況ではどうしても探しにくい。
「何となくで良いのなら、白虎と玄武の所在を知っとるよ。」
老婆の言葉に衝撃が走る。本人はけろっとしていたが、みなは相変わらず老婆の得体が知れず、不思議でならなかった。
「何も驚かんでいい。わしは長いこと四獣の行方を追っていたんじゃ。まぁ、別段見つけても関わりを持とうとはしなかったがの。」
大したことの無いような口ぶりだが、どこに生まれるかわからない、たった四人のことを調べるなど、とても難しいだろう。この燐国は街から街へと行くにも、山々に阻まれることが多い。そんな中で、あてもなく目当ての人を探すなど至難の技だ。
「それに場合によっては見つからなかった四獣もいる。現に今の代では朱雀はわかっておらんしな。」
そのときムニルが老婆の方へと身を乗り出した。かたりと椅子が物音を立てる。彼にしては荒々しい動作から、どうやら動揺しているらしい。
「なら、私のことも知っていたの?」
「幼い折に一度あんたを見つけたよ。ただ、その後の行方は把握できなかったがな。まさかこんな所で会えるとは。」
「…そう。」
ムニルの表情は目を彷徨わせたあと、伏せる。その後は静かに椅子に座り直し、静かだったが老婆は何も言わなかった。ほんの僅かな間だが、ハヨンたちは老婆とムニルが漂わせる雰囲気に、割ってはいることが出来なかった。
その妙な空気を破ったのは、この場を治めるリョンヘだった。
「ならば今のところは分かっているのは白虎と玄武か。」
「探すなら白虎の方がいいだろうね。白虎はまだ孟に近い元という街に住んでいたはずだ。」
リョンヘの言葉を受けて、老婆は即座に答える。
たしかに元は西隣の郡を挟んだ向こう側にある。元ならまだ近いな、早馬で一日といったところか、と何者かがそう言葉を交わしているのが聞こえる。当分の目的が定まり、みなの雰囲気も俄に活気づいてきた。
「当分元の周辺を捜索するならば班を作り、定期的に交代で訪ねるのはどうでしょう。」
セチャンがそうリョンヘに問うた。リョンヘも異論は無いらしく、頷く。
「そうだな。もし私が居ないときに見つかったのならば、見つけ次第白虎に声をかけて会う約束を取り付けてもらえぬか。そして即刻、私にも報告して欲しい。」
「承知いたしました。」
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