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形単影隻
贖罪
しおりを挟むハヨンは白虎について思いを巡らせ、リョンヘとムニルは何やら二人で話し込んでいる時だった。三人に向かって、何者かが近づいてくる気配がする。ハヨンは刀の柄に手を伸ばし、身構えた。その気配は何か悩んでいるかのように、時折歩みを止める様子が窺える。リョンヘとムニルも感づいたらしく、振り返った。
三人が身構えながらその正体を見極めようとしている時、曲がり角からゆっくりと現れたのは、一人の老人だった。老人は細く、枯れ木のようだった。それでいて眼光は鋭く、皺は彫刻のように深く刻まれている。
「…そこのお三方。もしやあの子を追っているのか…?」
老人の言葉に、三人は顔を見合わせた。あの子というのが白虎を指すのかわからなかった。この街の人間にしては、白虎に対して比較的、親しげに呼ぶような響きがあったのだ。
(私達が白虎を追っていたのに気がついていたのか…。あの子と言うのは、白虎のことを言っているに違いない…)
他の二人もそう思ったらしい。この老人をどうやり過ごそうかと目配せをしたときに、お互いに焦りの色が浮かんでいるのが窺えた。
「…あの子って誰のことかしら?」
そんな時、ムニルが首を傾げてとぼけて見せた。さらりと彼の長い髪がその動きに合わせて揺れる。彼は人に本心を隠し、うまくやり過ごすことが格段に上手い。
「…この赤架の中で、一番の厄介者とされている子のことだ。」
やはり白虎で合っていたようだが、この町の人に、白虎を探している事を知られるのはあまり良いことではない。
白虎は皆の中で腫れ物のようなものだ。不用意に白虎のことに関わると、皆何をするのか先が見えない。しかし、確実に面倒なことが起きるのはわかっていた。
「わしはあの子に迎えが来たのならば、あの子に起きたことを話しておく義務がある。しかし、お前たちが何かあの子に危害を加えようとしているなら、わしはあの子を引き渡すわけにはいかんのだ。」
その老人の物言いは奇妙だった。親のように白虎を守ろうとしているような口ぶりでいて、そのくせ、一番の厄介者とも言う。何か矛盾しているようにハヨンは感じた。
白虎はこの辺りでは疎まれており、住む場所もない孤独な存在だと思っていた。それは違っていたのだろうか。
(私達は白虎に危害を加えるつもりはない。でも、白虎の力を利用しようとしている。決して無理強いしないけれど、白虎とは関わりのないことに力をかしてもらおうとしてる…。)
ハヨンは自分達が老人の言う危害を加える者なのかどうか、悩み始める。その上、ハヨン達はこれから王城と必ず戦をすることになる。このことが危害を及ぼすことに入るのか、ハヨンは必死に考えを巡らし始めた。
・・・
一方、ハヨンと同様にリョンヘも、この老人に自分達の事情を打ち明けてよいのか、そして自分達の目的は何なのかをしばらく考えていた。
お互いに出方を伺っているからか、四人の間では緊迫感のある沈黙が降りる。と、リョンヘが老人の方へと一歩足を踏み出した。
「確かに私達は彼を探している。それは彼の力を貸して欲しいからだ。…拒否をされたら身を引こうとは思っている。彼を無理やり連れて行こうとは思っていない。」
リョンヘはそう静かに告げた。嘘はついていない。しかし、隠していることは多くあった。リョンヘはその己の後ろ暗い部分を必死に見ないようにする。ちくりと心の臓を針が刺した。
傍にいるハヨンはリョンヘに口添えも反論もしない。ムニルもリョンヘと老人をじっと見つめるだけで、無言だった。しかし、彼のその目は、湖面のように静かだったが、決して揺るがずにリョンヘを見ている。それはリョンヘを試しているように見えた。
「力を貸して欲しいねぇ…。お主の言葉はどちらともとりがたいものじゃな。まぁしかし、わしはお前たちがあの子を追っていた時の姿を見た。だから、お前たちがただ者ではないのはわかる。」
老人は目を閉じ、腕を組んで考え込む。
(…見られていたのか。)
リョンヘは背筋に氷を押し当てられたような感覚を覚えた。これでも周囲の目を気にしているつもりだった。だが、こうして得体の知れない老人にいつのまにか姿を見られている。ムニルが四獣の力を使ったわけではない。しかし、こうして只者ではないと言われたと言うことは、この老人以外にも、リョンヘ達のことを怪しいと思っている者がいてもおかしくはないのだ。リョンヘは改めて気を引き締めようと心に決める。
リョンヘがそう後悔しているのを余所に、
「ならば教えよう。この老いぼれの恥ずかしい話と、あの子の昔の事をな。その事を知った上でないと、お前たちはきっと、あの子と打ち解けるのには時間がかかるだろう。」
と、老人はそう言うのだった。
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