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揺らぎ
王城にて 弍
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「あれは王と次の王となる者のみが在処を知っています。父上はまだ、私にするかリョンヘにするか決めていらっしゃらなかった…。そう何度も言ったでしょう?」
(この小僧にこんな一面があったとは思いもしなかったな。生まれつき体も弱く、柔和な性格だったから、容易に屈すると思っていたが。)
「ならば言おう。リョンヘというあの逆賊は王族でありながら獣を操る力を持っていない。そんな能無しの王子なんぞに、王位を譲る王などどこに居ましょう?」
リョンヤンの視線に怯むことなく、イルウォンはそう言いながらリョンヤンの座る椅子の背もたれに手をかけた。人の悪い笑みを浮かべているイルウォンに対して、リョンヤンは深いそうに眉を潜める。
「いつも言っていることではありますが、私はリョンヘが父上を殺したと言う言葉は信じていません。そしてリョンヘは能無しでもありません…。もともと幼い頃は私よりも獣を操る才に長けていました。それに、何に関しても人並み以上にできる、優秀な弟だ。」
リョンヤンの答えをイルウォンは鼻で笑ってから、呆れたようにため息をついた。
「確かに、あの者は優秀なのかもしれない。しかし、今では逆賊となり、この城に二度と帰れぬようになってしまった…。だが、この事は今は関係ない。せっかくあなたは今、亡き父上の執務室にいるのに、まだあれの在処の手がかりは見つからないのか?あれが見つからないのならば、どうなるか前に話したはずなのだが。」
そのイルウォンの言葉を聴いて、リョンヤンの目には憤怒の色が映し出された。イルウォンはリョンヤンが武闘派でないことを改めて感謝した。リョンヘであればこのような拘束から抜け出したり、交渉にも危険が及んだだろうが、リョンヤンならば捕らえることは容易かった。彼がどんなに感情に任せて動こうとも、イルウォンや操った人間で対処できる。
「卑怯者。探し当てたらすぐに教えると言ったでしょう。よりにもよって、リョンヘの命を引き換えにするなど…」
イルウォンは鼻で笑いそうになった。だが、ここでこれ以上リョンヤンと必要以上に罵り合ったところで利点はない。
「卑怯者?以前あなたへの講義で言ったでしょう、リョンヤン様。真に国を治めるものは、優しさだけではなく、上に立つ者として冷酷さを持てと。あなたは馬鹿ではない。大人しく条件を呑んで動くのであれば、多少はこの状況が良くなることは分かっているでしょうに」
イルウォンは皮肉を込めて慇懃な態度で話を続けた。これ以上言い合っても無駄だと思ったのだろう。リョンヤンは悔しそうに唇を噛み締めながら、黙りこくった。
(これもなかなかしぶといものだ…)
術も効かず、精神的に揺さぶっても反抗するリョンヤンは、イルウォンにとって最大の苛立ちの種の一つとなっていた。
「それでは失礼します。我が王よ」
最大の皮肉を受け取ったリョンヤンの顔は見もので、少しだけ苛立ちが和らぐ。イルウォンはその場から立ち去り、会議に参加するために別の部屋へと向かった。
リョンヤンは病に臥していることになっており、イルウォンが彼の意向を伝えていることにしているので、実質はイルウォンの提案を皆が賛同するという形だけの会議だ。頭の固い官吏や反旗を翻しかねない者は既に全て操った状況であるため、イルウォンの意のままに国は動いて行く。
出陣についての命をどうすべきかと考えていると、イルウォンの数少ない手下が、どたばたと慌てて駆け寄ってくる。
この手下はイルウォンに忠誠を誓っており、以前から諜報活動を主に引き受けていた。城内ではイルウォンの本性と今までに行ったことを全て把握しているのは彼だろう。
「い、イルウォン様!ヘウォン殿に…逃げられました…!」
「何だと?」
しかし、それほどイルウォンのことを知っている彼でも、たじろぐような声をイルウォンは出した。
「どうやらイルウォン様が操って監視させていた者が、何者かに気を取られた隙に逃げ出したようで…。」
ヘウォンは王の専属護衛であり、この国で最強とも言われた武人だ。イルウォンがリョンヘを反逆者として仕立て上げた時に行った工作を、王族にもっとも近しい存在であったヘウォンは知ってしまった。
ヘウォンは豪放磊落な男で、白虎隊の隊長となったのも、類稀なる武術の才と人を惹きつけ、纏める性格が大きな理由であると考えられる。そのため、王を弑した後は上手く言葉で騙すか呪術を使えば丸め込めると予想していたのだ。しかし、その読みは外れた。ヘウォンは武人としての勘が鋭く、イルウォンの説明が嘘であるとすぐさま見抜いたのだった。
さらに、大きな誤算があり、ヘウォンの凄まじい精神力はイルウォンの呪術が全く効かなかった。イルウォンの呪術は神の加護を受ける王族を除けば大概のものに通用していた。イルウォンが人間達に紛れ込んで生きるようになってから、このようなことは一度もなかったのだ。かと言って、人並外れた戦闘能力と、城内での厚い人望を有するヘウォンを手放すのは惜しい。イルウォンは仕方なく様々な脅しによって城内にとどまらせ、監視していたのだ。
(この小僧にこんな一面があったとは思いもしなかったな。生まれつき体も弱く、柔和な性格だったから、容易に屈すると思っていたが。)
「ならば言おう。リョンヘというあの逆賊は王族でありながら獣を操る力を持っていない。そんな能無しの王子なんぞに、王位を譲る王などどこに居ましょう?」
リョンヤンの視線に怯むことなく、イルウォンはそう言いながらリョンヤンの座る椅子の背もたれに手をかけた。人の悪い笑みを浮かべているイルウォンに対して、リョンヤンは深いそうに眉を潜める。
「いつも言っていることではありますが、私はリョンヘが父上を殺したと言う言葉は信じていません。そしてリョンヘは能無しでもありません…。もともと幼い頃は私よりも獣を操る才に長けていました。それに、何に関しても人並み以上にできる、優秀な弟だ。」
リョンヤンの答えをイルウォンは鼻で笑ってから、呆れたようにため息をついた。
「確かに、あの者は優秀なのかもしれない。しかし、今では逆賊となり、この城に二度と帰れぬようになってしまった…。だが、この事は今は関係ない。せっかくあなたは今、亡き父上の執務室にいるのに、まだあれの在処の手がかりは見つからないのか?あれが見つからないのならば、どうなるか前に話したはずなのだが。」
そのイルウォンの言葉を聴いて、リョンヤンの目には憤怒の色が映し出された。イルウォンはリョンヤンが武闘派でないことを改めて感謝した。リョンヘであればこのような拘束から抜け出したり、交渉にも危険が及んだだろうが、リョンヤンならば捕らえることは容易かった。彼がどんなに感情に任せて動こうとも、イルウォンや操った人間で対処できる。
「卑怯者。探し当てたらすぐに教えると言ったでしょう。よりにもよって、リョンヘの命を引き換えにするなど…」
イルウォンは鼻で笑いそうになった。だが、ここでこれ以上リョンヤンと必要以上に罵り合ったところで利点はない。
「卑怯者?以前あなたへの講義で言ったでしょう、リョンヤン様。真に国を治めるものは、優しさだけではなく、上に立つ者として冷酷さを持てと。あなたは馬鹿ではない。大人しく条件を呑んで動くのであれば、多少はこの状況が良くなることは分かっているでしょうに」
イルウォンは皮肉を込めて慇懃な態度で話を続けた。これ以上言い合っても無駄だと思ったのだろう。リョンヤンは悔しそうに唇を噛み締めながら、黙りこくった。
(これもなかなかしぶといものだ…)
術も効かず、精神的に揺さぶっても反抗するリョンヤンは、イルウォンにとって最大の苛立ちの種の一つとなっていた。
「それでは失礼します。我が王よ」
最大の皮肉を受け取ったリョンヤンの顔は見もので、少しだけ苛立ちが和らぐ。イルウォンはその場から立ち去り、会議に参加するために別の部屋へと向かった。
リョンヤンは病に臥していることになっており、イルウォンが彼の意向を伝えていることにしているので、実質はイルウォンの提案を皆が賛同するという形だけの会議だ。頭の固い官吏や反旗を翻しかねない者は既に全て操った状況であるため、イルウォンの意のままに国は動いて行く。
出陣についての命をどうすべきかと考えていると、イルウォンの数少ない手下が、どたばたと慌てて駆け寄ってくる。
この手下はイルウォンに忠誠を誓っており、以前から諜報活動を主に引き受けていた。城内ではイルウォンの本性と今までに行ったことを全て把握しているのは彼だろう。
「い、イルウォン様!ヘウォン殿に…逃げられました…!」
「何だと?」
しかし、それほどイルウォンのことを知っている彼でも、たじろぐような声をイルウォンは出した。
「どうやらイルウォン様が操って監視させていた者が、何者かに気を取られた隙に逃げ出したようで…。」
ヘウォンは王の専属護衛であり、この国で最強とも言われた武人だ。イルウォンがリョンヘを反逆者として仕立て上げた時に行った工作を、王族にもっとも近しい存在であったヘウォンは知ってしまった。
ヘウォンは豪放磊落な男で、白虎隊の隊長となったのも、類稀なる武術の才と人を惹きつけ、纏める性格が大きな理由であると考えられる。そのため、王を弑した後は上手く言葉で騙すか呪術を使えば丸め込めると予想していたのだ。しかし、その読みは外れた。ヘウォンは武人としての勘が鋭く、イルウォンの説明が嘘であるとすぐさま見抜いたのだった。
さらに、大きな誤算があり、ヘウォンの凄まじい精神力はイルウォンの呪術が全く効かなかった。イルウォンの呪術は神の加護を受ける王族を除けば大概のものに通用していた。イルウォンが人間達に紛れ込んで生きるようになってから、このようなことは一度もなかったのだ。かと言って、人並外れた戦闘能力と、城内での厚い人望を有するヘウォンを手放すのは惜しい。イルウォンは仕方なく様々な脅しによって城内にとどまらせ、監視していたのだ。
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