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四獣
孤独な神様
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「わかった。あんたの言う通りにしよう。これからの戦では、今回以上の被害が出るのはわかりきっている。戦によって民や獣達が飢えで苦しまずに済むように力を貸してもらえるのであれば十分だ。」
ジイルはリョンヘの言葉にほっとした。
(さっき四獣だと名乗った人達が言う様に、僕の力を狙っている者がいるなら、確かにこちら側についた方が良さそうだ)
己の望まない力を使うことになるのは、もうこりごりだった。自分が進んでしたのであれば、失敗しても責任を持つことができる。しかし強制された場合は自分自身も他人も責めてしまうため、それが心底嫌だった。
「交渉妥結といったところかの」
老婆が嬉しそうに何度も頷きながら言った。この場にジイル以外の四獣と、王子が居は分かる。ジイルにはなぜ老婆がこの場にいるのかわからなかった。
(この人は何者なんだろう…?)
ジイルに向かって四獣に間違いないと断言したことから考えると、四獣の伝説や力について詳しいのだろうか。
老婆の方こそ呪い師のような怪しい力を持っているように見える。腰は大きく曲がっているが、矍鑠と歩いているため年齢は計り知れない。
「四獣全員が集まれば、信心深い民はこちら側についてくれる可能性があるし、この国での人達の動きは変わっていきそうね。」
そう言った彼はかなりの美丈夫で、女人のような言葉遣いをする。先程まで静かに話を聴いていたため、想像と異なる口調にジイルは驚いた。
「それだけじゃない。四獣の力はかなり強大だ。イルウォンの兵力と互角になることも夢じゃないな。」
リョンヘは特に気にする様子もなく相槌を打つ。どうやら普段からこの口調らしい。
「そんなにすげえのか?確かにそこらの一般人であれば束になってかかってこようと負ける気はしねぇけど。俺は戦に出てなかったからわからねぇな…」
「私は自分の力を知ったのはついこの前だけど…ムニルの戦い方を見ると、力に加えて地の利を活かすと武人でもかなり対抗できると思ったよ。ただ、自分の力を熟知していないとだめだけどね」
赤い瞳を持つ彼女は、鎧で固め、剣を携えていた。女人が戦に出るというのは聞いたことがない。そして、この口ぶりからすると彼女も四獣の一人である。ジイルにとって、この集団の全てが型破りで未知の存在だった。
「その点に至っては、ソリャも詳しいと思うわよ。だって、力を自覚したのも何年も前だし、私達と出会った時の逃げ方は凄まじかったもの。」
「それ、褒められてんのか?」
ムニルと呼ばれた美丈夫に、ソリャがやや不満そうに呟いた。気やすいやりとりが、お互いを信頼していることを雄弁に語っている。
「つまりは、工夫すれば闘い方はいくらでもありそうだな。」
「その口ぶりだと、何か考えが?」
リョンヘの含みのある言葉に、すかさず女剣士が反応する。
「ああ。ただし、成功するのはかなり難しいな。」
「それはいったい…」
「滓国へ支援の要請をしようかと思う。」
滓国とは確か隣の国だっただろうか。ジイルは幼い頃に読み書きや簡単なことは教えられた。とはいえ燐国でも北部で、長い間雪に閉ざされた村では教えらることは限られている。知っていることといえば、周辺の国の位置程度だ。
「滓国…。滓は燐と同盟は結んだけど、ヒチョル王が崩御された後となると反故となっていてもおかしくないね。そんなに軽々と無かったことにされても困るけど…」
女剣士の言葉尻は、弱々しかった。何か思い入れがあるのだろうか。
「そもそも、俺が使節として同盟を結び、その帰りに王城で反逆があったのだから、話を聞いた滓がイルウォン側につく可能性もあるしな。」
ジイルはリョンヘの言葉で合点がいった。この二人は滓国と直接的に関わりがあるのだ。
「どちらにつけば有利と考えるか、それは滓国次第だ。それに、この国の現状の細部まで伝わっているとは考えづらい。経緯を知ってもらうためには直接誰か遣いに行ってもらうしかない。そして滓国がどちらにつくかによっては、その使者も危険に晒される。これは賭けとも言えるな」
先程のジイルを歓迎する空気から打って変わって、緊張感が漂っている。
(王子と城の人間とどちら側に着いたほうがましかで考たけど…。わかってはいたけど、どちらもややこしそうだ。)
何せ国の王族が争っているようなものである。この国の存在すら危ぶまれるのだ。どちらを選んでも、多かれ少なかれ後悔や迷いが出てくるのは間違いない。
(…でも、もう悩んでもしょうがない。)
ジイルは乗りかかった船だと、考えることを止めたのだった。
ジイルはリョンヘの言葉にほっとした。
(さっき四獣だと名乗った人達が言う様に、僕の力を狙っている者がいるなら、確かにこちら側についた方が良さそうだ)
己の望まない力を使うことになるのは、もうこりごりだった。自分が進んでしたのであれば、失敗しても責任を持つことができる。しかし強制された場合は自分自身も他人も責めてしまうため、それが心底嫌だった。
「交渉妥結といったところかの」
老婆が嬉しそうに何度も頷きながら言った。この場にジイル以外の四獣と、王子が居は分かる。ジイルにはなぜ老婆がこの場にいるのかわからなかった。
(この人は何者なんだろう…?)
ジイルに向かって四獣に間違いないと断言したことから考えると、四獣の伝説や力について詳しいのだろうか。
老婆の方こそ呪い師のような怪しい力を持っているように見える。腰は大きく曲がっているが、矍鑠と歩いているため年齢は計り知れない。
「四獣全員が集まれば、信心深い民はこちら側についてくれる可能性があるし、この国での人達の動きは変わっていきそうね。」
そう言った彼はかなりの美丈夫で、女人のような言葉遣いをする。先程まで静かに話を聴いていたため、想像と異なる口調にジイルは驚いた。
「それだけじゃない。四獣の力はかなり強大だ。イルウォンの兵力と互角になることも夢じゃないな。」
リョンヘは特に気にする様子もなく相槌を打つ。どうやら普段からこの口調らしい。
「そんなにすげえのか?確かにそこらの一般人であれば束になってかかってこようと負ける気はしねぇけど。俺は戦に出てなかったからわからねぇな…」
「私は自分の力を知ったのはついこの前だけど…ムニルの戦い方を見ると、力に加えて地の利を活かすと武人でもかなり対抗できると思ったよ。ただ、自分の力を熟知していないとだめだけどね」
赤い瞳を持つ彼女は、鎧で固め、剣を携えていた。女人が戦に出るというのは聞いたことがない。そして、この口ぶりからすると彼女も四獣の一人である。ジイルにとって、この集団の全てが型破りで未知の存在だった。
「その点に至っては、ソリャも詳しいと思うわよ。だって、力を自覚したのも何年も前だし、私達と出会った時の逃げ方は凄まじかったもの。」
「それ、褒められてんのか?」
ムニルと呼ばれた美丈夫に、ソリャがやや不満そうに呟いた。気やすいやりとりが、お互いを信頼していることを雄弁に語っている。
「つまりは、工夫すれば闘い方はいくらでもありそうだな。」
「その口ぶりだと、何か考えが?」
リョンヘの含みのある言葉に、すかさず女剣士が反応する。
「ああ。ただし、成功するのはかなり難しいな。」
「それはいったい…」
「滓国へ支援の要請をしようかと思う。」
滓国とは確か隣の国だっただろうか。ジイルは幼い頃に読み書きや簡単なことは教えられた。とはいえ燐国でも北部で、長い間雪に閉ざされた村では教えらることは限られている。知っていることといえば、周辺の国の位置程度だ。
「滓国…。滓は燐と同盟は結んだけど、ヒチョル王が崩御された後となると反故となっていてもおかしくないね。そんなに軽々と無かったことにされても困るけど…」
女剣士の言葉尻は、弱々しかった。何か思い入れがあるのだろうか。
「そもそも、俺が使節として同盟を結び、その帰りに王城で反逆があったのだから、話を聞いた滓がイルウォン側につく可能性もあるしな。」
ジイルはリョンヘの言葉で合点がいった。この二人は滓国と直接的に関わりがあるのだ。
「どちらにつけば有利と考えるか、それは滓国次第だ。それに、この国の現状の細部まで伝わっているとは考えづらい。経緯を知ってもらうためには直接誰か遣いに行ってもらうしかない。そして滓国がどちらにつくかによっては、その使者も危険に晒される。これは賭けとも言えるな」
先程のジイルを歓迎する空気から打って変わって、緊張感が漂っている。
(王子と城の人間とどちら側に着いたほうがましかで考たけど…。わかってはいたけど、どちらもややこしそうだ。)
何せ国の王族が争っているようなものである。この国の存在すら危ぶまれるのだ。どちらを選んでも、多かれ少なかれ後悔や迷いが出てくるのは間違いない。
(…でも、もう悩んでもしょうがない。)
ジイルは乗りかかった船だと、考えることを止めたのだった。
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