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援助要請
父の生家 伍
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「お分かりかとは思いますが、私がここに来たのは燐国の危機を知らせに来た訳ではありません。叔母様に力を貸していただきたいのです。」
「ええ。そうでしょうね。叔母とはいえイルウォンの息がかかっている可能性があるのに、こうして屋敷に単身で話をしに来るというのだから。」
ドゥナは非難するわけでも無く、ただ淡々と事実を述べている。随分前からハヨンがここに来た目的に気づいていたのだろう。
「簡潔に言います。叔母様に協力してもらいたい事は二つです。一つは次の戦ではこちら側について欲しい事。二つ目は他の貴族にも呼びかけて欲しいということです。」
「簡潔だけどかなり難しい話よね。特に二つ目。」
「はい、家門ごとで無く個人でもいいです。秘密裏に着実に味方を増やしたいのです。由緒正しく、武官を多く輩出してきた朱家だからこそ出来る事だと思います。」
朱家の力を持ってしても城内で自由に動く事は難しい。しかし城外であれば密かに働きかける事は難しくはないだろう。城内を徹底的に閉鎖する事で手中に収めているのなら、反対に外の事情を把握するには時間を要すると言うことだ。
「できないわけじゃないけれど、かなりの危険を伴うわ。…いいでしょう、出来る限りのことはする。ただ、頭に入れておいて欲しいことがある。私は当主として朱家の存続を最優先にするわ。だから勝算が無くなれば直ぐに手を引く。」
「わかりました。」
これがドゥナ、いや朱家としての最大限の譲歩なのだろう。
今まではリョンヘやハヨンと共に城を追われた兵士や、孟の領民、先日の戦で王城の動きに不信感を抱いた者が仲間となっていた。このように王城側のように勅命を出すことも出来ないリョンヘは徐々に人を集めるしかないのだ。例え四獣の力が強大だとしても、人心を捉え、士気を高めるためには少ない数と言えよう。
朱家やその他貴族が王城側から不意に寝返るとなればイルウォンからすれば大きな痛手となるに違いない。
これは大きな前進だ。ハヨンの心の臓は小気味のいい音を立ている。気分が高揚しているのがよくわかった。
「そうとなれば、これから連絡をする手段を決めなければね。」
「怪しまれないように決まった場所で落ち合えるといいのですが…」
「一つ方法があるわ。この屋敷にはいくつか隠し通路があるの。そこを使えば王都の外れにある朱家の武器庫に繋がっている。会うとすればそこにしましょう。そして文でやり取りする場合は、孟から直接行うと王城から見張られている場合が多い。孟の隣の群は緋中よね?そこから早馬を出して欲しいの。緋中は朱家の分家筋の者が治めているから私達とのやりとりをしていても怪しまれないわ。」
「わかりました。」
ハヨンは緋中と朱家の繋がりについて初耳だった。そもそも王城で仕える身になるまでは貴族の関わりについて一切触れてこなかったのだから、仕方がないだろう。
「ではそのようにリョンヘ様にもお伝えします。これからよろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ」
深々と頭を下げるハヨンにドゥナが手を差し出した。突然のことで驚くが、ハヨンは握手で応える。
ドゥナの手はところどころ皮膚が硬くなっており、彼女も武術の心得があることがわかる。
ハヨンは武術をヨウから教わった時、白虎隊に入った時のことをふと思い出す。女人が武芸を嗜むことについて、大半は肯定的ではなかった。実力で反対意見を抑え込めばいいとは思っていたが、それでも多少は傷ついてきた。そのためドゥナの硬さのある手は、ハヨンに親しみを抱かせ、孤独感を和らげた。
「では私が孟に到着次第、試験的に一度、緋中から文を送ります。」
「わかったわ」
ハヨンは椅子から腰を上げようとしたが途中で留まる。これで用件は済んだが、淡白に礼を述べて退室するのは何かが違うと思ったのだ。今まで関わりが少なかったとはいえ父の生家で、今後協力する間柄だ。
「ここからはあなたの叔母としての言葉だけど…。まずは自分の安全を第一に考えるのよ。あなたを心配している人は、チャンヒさんだけではないわ。それに王子に仕える身としては抵抗があるでしょうけど、あなたが生きているからこそ王子を守れるのよ。」
「はい。肝に銘じます。ありがとうございます。」
ハヨンは深々と頭を下げ、部屋を後にした。ドゥナとは接点が多いわけではない。だが、こうして互いに情を持っているというとはやはり血の繋がりは強いと言うことだろうか。
部屋を出るとすぐそばに護衛役の男は立っていた。
「お返しします。」
約束通りハヨンは自身の剣や暗器を護衛役から受け取った。丸腰で過ごすことがここ最近は稀であるため、この重みにほっとする。
「その剣、ソンヒョン様のものでございますか?」
護衛役の問に、ハヨンは誇らしさと喜びで満たされた。剣の紋様で作り手がわかるようになってはいるが、武芸に秀でた者が全ての鍛冶屋の紋様を覚えているわけではない。ハヨンの父親の剣が朱家でも重宝されていたのかはわからないが、注目されていたのは確かだろう。ハヨンは父の生家を城に上がるまで知らなかった。だがそれは父が朱家を勘当されたわけではなく、朱家の一員として、さらには一職人として尊重されているように感じたのだ。
「ええ。そうでしょうね。叔母とはいえイルウォンの息がかかっている可能性があるのに、こうして屋敷に単身で話をしに来るというのだから。」
ドゥナは非難するわけでも無く、ただ淡々と事実を述べている。随分前からハヨンがここに来た目的に気づいていたのだろう。
「簡潔に言います。叔母様に協力してもらいたい事は二つです。一つは次の戦ではこちら側について欲しい事。二つ目は他の貴族にも呼びかけて欲しいということです。」
「簡潔だけどかなり難しい話よね。特に二つ目。」
「はい、家門ごとで無く個人でもいいです。秘密裏に着実に味方を増やしたいのです。由緒正しく、武官を多く輩出してきた朱家だからこそ出来る事だと思います。」
朱家の力を持ってしても城内で自由に動く事は難しい。しかし城外であれば密かに働きかける事は難しくはないだろう。城内を徹底的に閉鎖する事で手中に収めているのなら、反対に外の事情を把握するには時間を要すると言うことだ。
「できないわけじゃないけれど、かなりの危険を伴うわ。…いいでしょう、出来る限りのことはする。ただ、頭に入れておいて欲しいことがある。私は当主として朱家の存続を最優先にするわ。だから勝算が無くなれば直ぐに手を引く。」
「わかりました。」
これがドゥナ、いや朱家としての最大限の譲歩なのだろう。
今まではリョンヘやハヨンと共に城を追われた兵士や、孟の領民、先日の戦で王城の動きに不信感を抱いた者が仲間となっていた。このように王城側のように勅命を出すことも出来ないリョンヘは徐々に人を集めるしかないのだ。例え四獣の力が強大だとしても、人心を捉え、士気を高めるためには少ない数と言えよう。
朱家やその他貴族が王城側から不意に寝返るとなればイルウォンからすれば大きな痛手となるに違いない。
これは大きな前進だ。ハヨンの心の臓は小気味のいい音を立ている。気分が高揚しているのがよくわかった。
「そうとなれば、これから連絡をする手段を決めなければね。」
「怪しまれないように決まった場所で落ち合えるといいのですが…」
「一つ方法があるわ。この屋敷にはいくつか隠し通路があるの。そこを使えば王都の外れにある朱家の武器庫に繋がっている。会うとすればそこにしましょう。そして文でやり取りする場合は、孟から直接行うと王城から見張られている場合が多い。孟の隣の群は緋中よね?そこから早馬を出して欲しいの。緋中は朱家の分家筋の者が治めているから私達とのやりとりをしていても怪しまれないわ。」
「わかりました。」
ハヨンは緋中と朱家の繋がりについて初耳だった。そもそも王城で仕える身になるまでは貴族の関わりについて一切触れてこなかったのだから、仕方がないだろう。
「ではそのようにリョンヘ様にもお伝えします。これからよろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ」
深々と頭を下げるハヨンにドゥナが手を差し出した。突然のことで驚くが、ハヨンは握手で応える。
ドゥナの手はところどころ皮膚が硬くなっており、彼女も武術の心得があることがわかる。
ハヨンは武術をヨウから教わった時、白虎隊に入った時のことをふと思い出す。女人が武芸を嗜むことについて、大半は肯定的ではなかった。実力で反対意見を抑え込めばいいとは思っていたが、それでも多少は傷ついてきた。そのためドゥナの硬さのある手は、ハヨンに親しみを抱かせ、孤独感を和らげた。
「では私が孟に到着次第、試験的に一度、緋中から文を送ります。」
「わかったわ」
ハヨンは椅子から腰を上げようとしたが途中で留まる。これで用件は済んだが、淡白に礼を述べて退室するのは何かが違うと思ったのだ。今まで関わりが少なかったとはいえ父の生家で、今後協力する間柄だ。
「ここからはあなたの叔母としての言葉だけど…。まずは自分の安全を第一に考えるのよ。あなたを心配している人は、チャンヒさんだけではないわ。それに王子に仕える身としては抵抗があるでしょうけど、あなたが生きているからこそ王子を守れるのよ。」
「はい。肝に銘じます。ありがとうございます。」
ハヨンは深々と頭を下げ、部屋を後にした。ドゥナとは接点が多いわけではない。だが、こうして互いに情を持っているというとはやはり血の繋がりは強いと言うことだろうか。
部屋を出るとすぐそばに護衛役の男は立っていた。
「お返しします。」
約束通りハヨンは自身の剣や暗器を護衛役から受け取った。丸腰で過ごすことがここ最近は稀であるため、この重みにほっとする。
「その剣、ソンヒョン様のものでございますか?」
護衛役の問に、ハヨンは誇らしさと喜びで満たされた。剣の紋様で作り手がわかるようになってはいるが、武芸に秀でた者が全ての鍛冶屋の紋様を覚えているわけではない。ハヨンの父親の剣が朱家でも重宝されていたのかはわからないが、注目されていたのは確かだろう。ハヨンは父の生家を城に上がるまで知らなかった。だがそれは父が朱家を勘当されたわけではなく、朱家の一員として、さらには一職人として尊重されているように感じたのだ。
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