オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

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第1章「出会いと最初のオカルト事件」

第2話《映してはいけない鏡》

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 俺は今、旧校舎の廊下に立っている。

 違う、立たされている。

「ほら、着いたよ!」

「着いたって……やめよう、マジで……」

「なにビビってんの? まだ何も起こってないじゃん」

「いや、十分起こってるから! 俺の心の中では絶賛パニック祭り開催中だから!」

 目の前に広がるのは、数年前まで使われていたという旧校舎の廊下。
 古びた木造の廊下は、踏み込むたびにギシギシと不吉な音を立てる。窓ガラスは薄汚れ、夕暮れの光を鈍く反射していた。

 とはいえ、まだ完全に日が落ちたわけではない。
 だからこそ、今ならまだ……今ならまだ引き返せるのでは!?

「なあ彩華、やっぱやめない? まだ間に合うって!」

「は? 何が間に合うの?」

「俺の平穏な放課後生活が!!」

「いや、それもうとっくに終わってるよ?」

「うおおおおおおおお!!!」

 俺の絶叫をガン無視し、彩華はズカズカと旧校舎の奥へと進んでいく。
 おかしい。この状況、俺の意見って一ミリも尊重されてなくない?

「さ、行くよ!」

「なんでそんなに楽しそうなんだよ!!」

 この子、絶対に脳の作りが普通じゃない。
 いや、彩華はもともと"オカルト大好き"なやつだし、多少の異常行動には慣れてきた……つもりだったが、自ら心霊スポットに突撃しようとする中学生が普通にいるか!?

 せめてもの抵抗として俺は足を踏ん張るが、彩華はそんなもの気にせず、グイグイと俺の腕を引っ張る。

「うおおおお! 俺はこの世に生まれた瞬間からホラー耐性ゼロなんだぞ!?」

「むしろ今から育てればいいじゃん」

「何その前向きな提案!? 俺は成長したくない!!」

 なんの修行だよ、これ。
 そのままズルズルと引きずられるように歩かされ、気づけば俺たちは旧校舎の最奥にたどり着いていた。

 そこに、"映してはいけない鏡"があった。



「うわ……ガチであるじゃん」

 埃まみれの鏡が、ぽつんと廊下の奥に立てかけられていた。
 思っていたよりも大きく、大人の背丈ほどはある。全体が薄汚れていて、ガラスの端にはヒビが入っている。それだけなら「古い鏡」で済むのだが……。

 おかしい。

 この鏡、なんか変じゃないか?

「おー、噂通り雰囲気あるねぇ」

「いや、雰囲気ってレベルじゃなくね?」

 鏡の中が、異様に黒い。

 普通なら、こんなに埃をかぶっていても、周囲の壁や天井くらいは映るはずだ。
 なのに、この鏡は——まるで液体のように真っ黒で、奥行きを感じさせない。

「……これ、マジでヤバいやつじゃね?」

「えー、でもちゃんと"何か"はいるっぽいね」

「やめろやめろやめろ!! そういうのは希望のある言い方をしろ!!」

 彩華がニヤリと笑う。

「じゃ、ちょっと触ってみる?」

「やめろおおおおおおお!!!」

 俺の制止も聞かず、彩華はぺたりと鏡の表面に手を当てた。

 瞬間——

ヒュウウウウウウウウ……

 どこからともなく、不気味な風が吹き抜ける。

 俺は背筋をぞくりとさせた。明らかに、さっきまでの空気とは違う。

 そして。

 俺の耳に——

 誰かの声が聞こえた。

「……お前、今喋った?」

「え? 何も言ってないけど?」

 じゃあ、今の声は——

 「……かえ……せ……」

 耳元で、囁かれた。

「……」

「……」

「おい、聞いたか?」

「……うん」

「じゃあ、さっさと帰ろうな?」

「いやいや、むしろ今から調べるでしょ」

「何で!?」

「だって本物のオカルトじゃん!! これは超アツい!!」

「俺は超ヤバい!!」

 彩華は目を輝かせ、鏡をじっと見つめる。

 俺はもう駄目だ。この人、オカルト愛が強すぎて恐怖心が欠落している。

「……うわ、なんか動いてない?」

「は? 動くなよ!?」

「ほらほら、あそこ!」

「やめて! そういう指差し確認いらない!!」

 俺はガタガタと震えながら鏡を覗き込んだ。

 そこには、俺と彩華が映っていた。

 ——違う。

 俺たちの背後に、何かいる。

 真っ黒な影が、ゆっくりと動き出していた。
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