オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

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第1章「出会いと最初のオカルト事件」

第9話《鏡の向こう側》

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「……」

「……」

 俺は、絶望の中にいた。

 目の前の"映してはいけない鏡"が、今までとは明らかに違う空気を纏っている。
 鏡に映る俺たちの姿は完全にズレていた。

 いや、もう"ズレ"のレベルではない。

 "別の何か"が、俺たちの姿を真似て動いている——そんな感覚すらあった。

「……これ、もう普通にヤバいよな?」

「うん、めっちゃヤバいね」

「なら帰ろう!!」

「いやいや、ここまで来たらもっと見なきゃでしょ!」

「この女ぁぁぁぁ!!!」

 俺の叫びは、誰の耳にも届かない。
 いや、届かないどころか——鏡の向こう側にいる"何か"に、むしろ聞かれているのでは?

「……」

 そう考えた瞬間、全身に鳥肌が立った。



「さて、どうする?」

 彩華はいつもの調子で言うが、俺はすでに限界に近かった。

「どうするも何も、選択肢は"帰る"しかないだろ!!」

「それはないかなぁ」

「えぇぇ……」

「ほら、"かえせ"って言ってるってことは、まだ何かが足りないんだよ。昨日の鏡の破片を置いたけど、それだけじゃ足りなかったんでしょ?」

「……じゃあ、"何"を返せばいいんだよ?」

「それを今から探す!」

「帰らせてくれえええええ!!!」

 このままでは話が進まない。

 いや、進んでほしくないのに、進んでしまう。

 俺はもう、どうすればいいのか分からなくなっていた。



 そのとき——

 ギィ……

「!!?」

 突然、鏡の中の"俺"が勝手に動いた。

 俺は動いていないのに。

「……」

「……」

 彩華もさすがに緊張感を感じたのか、静かに鏡を見つめている。

 鏡の中の"俺"は、ゆっくりと手を上げ——

 「かえせ……」

 そう口を動かした。

 その瞬間、俺の心臓が跳ね上がる。

 だって、それって——

「おい、彩華……あれって、"俺"なのか?」

「……」

 彩華も答えられない。

 いや、答えられないというより、答えたくない、が正しいのかもしれない。

 鏡の中の"俺"は、確かに俺と同じ姿をしていた。
 だけど、雰囲気が違った。

 影のように、輪郭が微妙にブレている。
 瞳が黒く沈み込み、感情のない"何か"を感じさせる。

 そして——

 その"俺"が、鏡の向こう側から出ようとしている。



「……おい、マジで帰ろう」

「……うん、さすがに私もそろそろやばい気がしてきた」

「今さらぁぁぁぁぁ!!?」

 彩華が珍しくビビっている。
 いや、むしろ、今までビビらなかった方がおかしいのでは!?

 それより、問題は——

「おい、動いてる、動いてるって!!」

 鏡の中の"俺"が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 ……いや、違う。

 俺たちのいる"この世界"に、出ようとしている!!

 そんなことが、本当に可能なのか?

 いや、そんなことが"起きていいはずがない"のに、起きてしまっている!!

「やばい、やばいやばいやばい!!」

 俺は本能的に走り出そうとした。

 だが、足が動かない。

「っ……!!」

 夢と同じだ。

 俺は、またしても"見えない何か"に足を掴まれているような感覚に陥っていた。

「拓海!!」

 彩華の声が聞こえる。

 だけど、俺の意識は、鏡の"向こう側"に引き込まれていく。

 俺と同じ姿をした"何か"が、鏡のガラスに手を当てる。

 そして——

 そのまま、ガラスをすり抜けて、俺のいる世界へと出てこようとした。



「———っ!!!」

 その瞬間、俺は反射的に叫び、体を動かした。

 バキィィィィン!!!

 次の瞬間、鏡が砕け散る。

 俺の手が、無意識に鏡を殴りつけていたのだ。

「……」

「……」

「……終わった?」

「……さあ?」

 俺たちは、砕け散った鏡の破片を見つめた。

 さっきまで映っていた"俺"はいない。

 ただ、床には無数の破片が散らばっているだけだった。

 それだけのはずなのに——

 俺は、背筋に強烈な悪寒を感じた。

「……まだ、終わってない」

 どこかで、誰かが見ている。

 そんな"確信"だけが、俺の中に残っていた。
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