オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

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第3章《新たな怪異》

第43話《書き換わる記録》

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 図書室の前に立った瞬間、背筋に冷たいものが流れた。
 昼間に何度も訪れているはずなのに、今ここに立っている図書室は、明らかに異質な空気を漂わせていた。

「……なんだろう、この違和感」

 彩華が小さく呟く。普段は楽しそうに怪異を追いかける彼女でさえ、表情に緊張が浮かんでいる。

「明らかに様子がおかしいな。ここも『狭間』に飲まれてるんだろう」

 久瀬先輩は表情を険しくしたまま、静かに言った。

「つまり、この先にはまた『何か』があるってことですよね?」

「そう考えるのが自然だろうな」

 彩華が扉のノブに手を伸ばす。
 扉がゆっくりと開かれると、部屋の中に重たい空気が満ちているのがわかった。

「うわ……何これ……」

 俺は思わず息を飲んだ。

 図書室はいつものそれとは違い、壁一面の本棚がまるで深い影に包まれているようだった。
 光があるのに妙に暗く、どこか色あせている。

「気をつけろ。ここも記憶が歪められている場所の一つだ」

「記憶が歪められている?」

 俺が問いかけると、久瀬先輩は本棚に指を差した。

「あの棚をよく見てみろ」

 俺たちは静かに本棚へ近づく。
 そこに並んでいる本は、確かに見覚えのあるものばかりだが——

「タイトルが……違う?」

 彩華が息を呑んだ。
 確かに、見慣れた表紙なのにタイトルだけが別のものに書き換わっている。

『学校の歴史』と書かれているはずの本が、『歪んだ記憶』に変わっている。

「なにこれ……」

 他の本も、どれも奇妙なタイトルへと書き換えられている。

『私ではない私』『消された名前』『偽物の記録』——。

「本が書き換わるって、こういうことだったのか」

「つまり、ここにある本は全部、俺たちの記憶の『書き換えられた部分』を示している可能性があるってことですね」

 彩華が鋭い表情で先輩を見る。

「その可能性は高いな。何かヒントがあるはずだ。手分けして調べよう」

 久瀬先輩の合図で、俺たちは慎重に本を手に取った。

 一冊目、『消された名前』を開いてみる。

『名前を消された者は、自分の存在を維持できずに消えていく——』

 背筋に冷たいものが走る。

 二冊目、『偽物の記録』。

『彼らの記憶は書き換えられた。だが書き換えられた記憶こそが、彼らにとっての真実である——』

「なんだよ、これ……」

 俺は本を閉じ、別の一冊を開いた。

 三冊目、『私ではない私』。

『篠崎彩華は、三年前、狭間に囚われたまま、現実に戻った。しかし、その彩華は本物ではない——』

「彩華! これを見ろ!」

「え?」

 俺が示したページを覗き込み、彩華が息を呑む。

「……私が、本物じゃない?」

「そんなはず、ないよな?」

「当然だよ! 私は私だよ……!」

 しかし彩華の声は僅かに震えていた。

「でも、さっき神谷くんが言ってたよね。私は三年前に一度ここに囚われて、記憶を失ったって」

「ああ、でも『本物じゃない』って……」

「そうだよな。『本物じゃない』ってどういう意味なんだ?」

 久瀬先輩が本を覗き込み、険しい表情を浮かべる。

「……おそらく、三年前に彩華は『狭間』から戻る際、本当の自分を残してしまったのかもしれない」

「本当の自分……?」

「ああ。『狭間』から脱出するために、無意識に自分の一部をここに置いていったのかもしれない。それが『本物の彩華』だとしたら——」

「私は偽物、ってことですか?」

 彩華の声が震え、俺は慌てて否定した。

「いや、そんなことない! お前が偽物なわけないだろ?」

「でも、もしそうだとしたら……」

 彩華が手を強く握りしめる。その拳は微かに震えている。

「私は、今までずっと偽物として生きてきたってこと?」

 その言葉が重く部屋の空気を沈める。

「でも、本当の彩華がここにいるなら、そいつを取り戻せばいいんじゃないか?」

 俺が必死に言葉を探して告げると、彩華はゆっくりと俺の顔を見た。

「拓海……」

「お前が本物だって証明すればいい。それに、本物とか偽物とか、そんなの関係ない。俺たちが知ってる彩華は、目の前にいるお前なんだから」

 彩華は静かに微笑む。

「……そうだよね。今の私は私だし、証明すればいいんだよね」

 そう言って立ち上がった彩華は、迷いのない目をしていた。

「久瀬先輩、他にも何か手掛かりはありませんか?」

 久瀬先輩は一瞬考え込んでから、奥の本棚を指さした。

「そうだな……もし三年前の真実が記されているなら、奥の棚にある『学校の歴史』が怪しい。あれが元々、書き換えられる前に何だったのか、確かめる必要がある」

「じゃあ、行こう」

 俺たちは図書室の奥へと歩を進める。だが、進むにつれて足が重くなるのを感じていた。

 そこにある本には、一体どんな真実が記されているのか。

 本当に俺たちはその真実を受け止められるのか——。

 恐怖と不安を胸に抱えつつも、俺たちは足を止めなかった。
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