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第3章《新たな怪異》
第45話《再び、あの鏡の前へ》
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旧校舎の廊下は、いつも以上に静まり返っていた。
俺たちが最初に『映してはいけない鏡』の前に立ったあの日から、もう何度もここを訪れている。だが、今までに感じたことのない重圧感が、俺たちの足取りを鈍らせていた。
「……なんか嫌な感じ」
彩華がぽつりと呟いた。その表情は珍しく固く、彼女自身も無意識に恐怖を感じているようだった。
「戻ってきたな、結局ここに……」
久瀬先輩が呟き、俺は小さく頷いた。
「本当に、この鏡が記憶を取り戻す鍵になるんですか?」
「可能性は高い。というより、ここ以外には考えられない」
久瀬先輩の言葉を聞きながら、俺は改めて目の前の鏡を見つめた。
この鏡が、俺たち三人を巻き込んだ元凶だ。
「覚悟はできてる?」
彩華が俺を見つめる。その瞳に揺らぎはないが、どこかで怯えているようにも見えた。
「……いや、正直自信はない。でも、行くしかないんだよな」
「そうね。やるしかない」
彩華が頷いた。その表情が、僅かに笑みに変わる。
「まあ、今更怖がっても仕方ないよね」
「……ほんと、お前は強いな」
「強くなんてないよ。強がってるだけ」
彩華が小さく肩をすくめる。それでも、彼女の存在は確かに心強かった。
「準備はいいか?」
久瀬先輩の問いに、俺たちは頷いた。
「では、始めよう。鏡に映る自分自身をしっかりと見つめるんだ」
「それで、どうするんですか?」
「記憶が戻るかは分からない。だが、向こう側に取り残した『自分自身』と向き合えば、何か手掛かりがつかめるかもしれない」
俺たちはゆっくりと鏡の前に立つ。
最初は普通の鏡に見えた。だが、数秒と経たないうちに、その表面がわずかに歪み始める。
「……やっぱり普通の鏡じゃない」
彩華が小さく息を吐く。
「相沢、自分の顔から目を逸らすなよ。自分を信じろ」
「わかってます……」
俺は必死に鏡の中の自分を見つめ続ける。
だが、やはり違和感がある。鏡の中の俺は、俺自身でありながら、どこか別人のようだった。
微妙に輪郭がズレ、表情も曖昧でぼやけている。
「拓海、自分を信じて」
隣から彩華の声が聞こえる。俺は彼女の言葉を繰り返すように、心の中で呟いた。
(俺は相沢拓海だ……。今ここにいるのは、本物の俺だ……!)
その瞬間だった。
『——本当にそうか?』
頭の中で、自分の声が響いた。
「……え?」
俺は思わず声を漏らす。鏡の中の俺が、わずかに唇を動かしている。
『お前が本当に相沢拓海なら、俺は誰だ?』
「何を言ってる……?」
『俺は、お前が置き去りにした本当のお前だ』
心臓が激しく鼓動し始める。頭が混乱し、視界が揺らぐ。
「拓海? 大丈夫?」
「いや、鏡の中の俺が、喋ってるんだ……!」
「……!」
彩華と久瀬先輩が驚いたように俺を見る。
『思い出せよ、あの日お前は、自分自身を俺に押しつけて逃げたんだ』
「逃げた……?」
『そうだ。三年前、お前はこの鏡の世界に取り込まれかけた。そして、自分を守るために記憶の一部を俺に押しつけた。お前は逃げて、俺は取り残された』
「そんな……俺が、逃げた?」
『認めろ。お前は俺を切り捨てて逃げた。だから俺は三年間、この狭間に囚われ続けている』
その声は俺自身のものだった。だが、まったく別の感情を帯びている。
「俺は……」
「拓海!」
彩華の声が俺を呼び戻す。
俺はハッと我に返った。
「聞いちゃだめ! それはあなたじゃない!」
「でも……!」
「それは『あなたの記憶の歪み』が作り出した幻。騙されちゃだめ!」
彩華の叫びで、俺はようやく冷静さを取り戻す。
俺は強く拳を握り、鏡を睨みつける。
「違う。お前は俺じゃない。俺が相沢拓海だ!」
『……本当にそう言い切れるのか?』
「言い切れる。俺は逃げない。お前の言葉になんて騙されない」
『なら、もう一度証明してみろ。本当に自分を取り戻したいなら、記憶の真実を受け入れろ』
鏡の中の『俺』は、挑むような視線を向けた。
「分かった。受け入れてやる。俺は逃げない」
俺は強く答えた。
その瞬間、鏡の表面が激しく揺れ、再び俺を飲み込もうと蠢き出した。
「拓海!」
彩華が咄嗟に俺の腕を掴む。
だが、俺は逃げるつもりはなかった。
むしろ、引き込まれる覚悟で鏡の奥に手を伸ばした。
「待て! 相沢!」
久瀬先輩の声が背後で響いたが、俺の身体はすでに鏡の中へ吸い込まれ始めていた。
「今度こそ、俺は逃げない!」
視界が白く染まり、身体が浮き上がるような感覚に襲われた。
俺は今、自分自身と向き合い、本当の記憶を取り戻すために、再び『鏡の世界』へと飛び込んでいく——。
俺たちが最初に『映してはいけない鏡』の前に立ったあの日から、もう何度もここを訪れている。だが、今までに感じたことのない重圧感が、俺たちの足取りを鈍らせていた。
「……なんか嫌な感じ」
彩華がぽつりと呟いた。その表情は珍しく固く、彼女自身も無意識に恐怖を感じているようだった。
「戻ってきたな、結局ここに……」
久瀬先輩が呟き、俺は小さく頷いた。
「本当に、この鏡が記憶を取り戻す鍵になるんですか?」
「可能性は高い。というより、ここ以外には考えられない」
久瀬先輩の言葉を聞きながら、俺は改めて目の前の鏡を見つめた。
この鏡が、俺たち三人を巻き込んだ元凶だ。
「覚悟はできてる?」
彩華が俺を見つめる。その瞳に揺らぎはないが、どこかで怯えているようにも見えた。
「……いや、正直自信はない。でも、行くしかないんだよな」
「そうね。やるしかない」
彩華が頷いた。その表情が、僅かに笑みに変わる。
「まあ、今更怖がっても仕方ないよね」
「……ほんと、お前は強いな」
「強くなんてないよ。強がってるだけ」
彩華が小さく肩をすくめる。それでも、彼女の存在は確かに心強かった。
「準備はいいか?」
久瀬先輩の問いに、俺たちは頷いた。
「では、始めよう。鏡に映る自分自身をしっかりと見つめるんだ」
「それで、どうするんですか?」
「記憶が戻るかは分からない。だが、向こう側に取り残した『自分自身』と向き合えば、何か手掛かりがつかめるかもしれない」
俺たちはゆっくりと鏡の前に立つ。
最初は普通の鏡に見えた。だが、数秒と経たないうちに、その表面がわずかに歪み始める。
「……やっぱり普通の鏡じゃない」
彩華が小さく息を吐く。
「相沢、自分の顔から目を逸らすなよ。自分を信じろ」
「わかってます……」
俺は必死に鏡の中の自分を見つめ続ける。
だが、やはり違和感がある。鏡の中の俺は、俺自身でありながら、どこか別人のようだった。
微妙に輪郭がズレ、表情も曖昧でぼやけている。
「拓海、自分を信じて」
隣から彩華の声が聞こえる。俺は彼女の言葉を繰り返すように、心の中で呟いた。
(俺は相沢拓海だ……。今ここにいるのは、本物の俺だ……!)
その瞬間だった。
『——本当にそうか?』
頭の中で、自分の声が響いた。
「……え?」
俺は思わず声を漏らす。鏡の中の俺が、わずかに唇を動かしている。
『お前が本当に相沢拓海なら、俺は誰だ?』
「何を言ってる……?」
『俺は、お前が置き去りにした本当のお前だ』
心臓が激しく鼓動し始める。頭が混乱し、視界が揺らぐ。
「拓海? 大丈夫?」
「いや、鏡の中の俺が、喋ってるんだ……!」
「……!」
彩華と久瀬先輩が驚いたように俺を見る。
『思い出せよ、あの日お前は、自分自身を俺に押しつけて逃げたんだ』
「逃げた……?」
『そうだ。三年前、お前はこの鏡の世界に取り込まれかけた。そして、自分を守るために記憶の一部を俺に押しつけた。お前は逃げて、俺は取り残された』
「そんな……俺が、逃げた?」
『認めろ。お前は俺を切り捨てて逃げた。だから俺は三年間、この狭間に囚われ続けている』
その声は俺自身のものだった。だが、まったく別の感情を帯びている。
「俺は……」
「拓海!」
彩華の声が俺を呼び戻す。
俺はハッと我に返った。
「聞いちゃだめ! それはあなたじゃない!」
「でも……!」
「それは『あなたの記憶の歪み』が作り出した幻。騙されちゃだめ!」
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俺は強く拳を握り、鏡を睨みつける。
「違う。お前は俺じゃない。俺が相沢拓海だ!」
『……本当にそう言い切れるのか?』
「言い切れる。俺は逃げない。お前の言葉になんて騙されない」
『なら、もう一度証明してみろ。本当に自分を取り戻したいなら、記憶の真実を受け入れろ』
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俺は強く答えた。
その瞬間、鏡の表面が激しく揺れ、再び俺を飲み込もうと蠢き出した。
「拓海!」
彩華が咄嗟に俺の腕を掴む。
だが、俺は逃げるつもりはなかった。
むしろ、引き込まれる覚悟で鏡の奥に手を伸ばした。
「待て! 相沢!」
久瀬先輩の声が背後で響いたが、俺の身体はすでに鏡の中へ吸い込まれ始めていた。
「今度こそ、俺は逃げない!」
視界が白く染まり、身体が浮き上がるような感覚に襲われた。
俺は今、自分自身と向き合い、本当の記憶を取り戻すために、再び『鏡の世界』へと飛び込んでいく——。
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