オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

文字の大きさ
46 / 53
第3章《新たな怪異》

第46話《対峙する記憶》

しおりを挟む
 視界が白く染まった次の瞬間、俺は『鏡の世界』の中にいた。

 見覚えのある廊下。見覚えのある教室。
 だが、どこかが根本的に違う。

 全体が薄く霧に包まれ、景色の輪郭がぼんやりとしている。

「ここが……鏡の中なのか?」

 俺は慎重に周囲を見回した。

「拓海」

 その声に振り返ると、そこには三年前の姿のままの悠真が立っていた。

「悠真……!」

「やっと来たな。お前がここに戻ってくるのをずっと待ってた」

「……待ってたって、どういう意味だ?」

「お前が忘れてしまった『あの日』を、もう一度やり直すためだ」

「やり直す……?」

 悠真は静かに頷き、歩き始める。

「ついてこい。見せたいものがある」

 悠真について歩くうちに、俺は次第に記憶が蘇るのを感じていた。
 三年前、俺は確かに悠真と、そして彩華と一緒にこの廊下を歩いていた——。

 だが、肝心のその後のことが曖昧だった。

「ここだ」

 悠真が立ち止まったのは、あの『映してはいけない鏡』の前だった。

「ここで、俺たち三人は分かれたんだ。正確に言えば、『引き裂かれた』」

「引き裂かれたって……誰に?」

「鏡の中の自分自身だよ」

 その瞬間、鏡の表面が歪み始める。
 そこには三年前の俺と悠真、そして彩華の姿が映し出された。

『ほんとにヤバい鏡なら、一回ぐらい映しても変なこと起きないだろ?』

『バカかお前……やめとけって……』

 俺たちの会話が、鮮明に響く。

『あ、ちょっと! 二人とも勝手に進まないでよ!』

 慌てて追いかける彩華の姿も映っていた。

「彩華……本当に三人だったんだな」

「そうだ。俺たちは最初から三人だった。お前たちが忘れていただけで」

「でも、なんで俺や彩華は忘れてしまったんだ?」

「それはな……お前たち自身が『そう願った』からだよ」

「俺たちが……願った?」

 俺の問いに、悠真は静かに頷いた。

「あの日、俺たちは鏡の怪異に引き込まれた。だけどお前たちは無意識のうちに『現実に戻りたい』と強く願ったんだ。その願いが、お前たちの記憶を歪ませた」

「でも、それでお前を置き去りにしたことになるんじゃ……」

「いいんだよ、それで。俺は後悔してない」

「悠真……」

 悠真は少し微笑んだ。

「それより、彩華のほうが問題だ」

「彩華?」

「あいつはあの日、自分自身を二つに分けてしまったんだ。現実に戻った彩華と、この鏡の中に取り残された彩華に」

「二人に分かれたって……」

「そう。お前たちが現実で一緒にいる彩華は、記憶の半分をここに置いてきた状態の『不完全な彩華』だ」

「じゃあ、本当の彩華はどこにいるんだ?」

「ここだよ、拓海」

 突然、背後から彩華の声が響いた。

 振り返ると、そこには三年前のままの彩華が立っていた。

「彩華……?」

「久しぶりだね、拓海。三年間、ずっとここにいたの」

「じゃあ、今まで俺と一緒にいた彩華は……」

「あれも私。でも、半分だけの私。記憶と感情の半分はずっとここに残っていた」

 彩華は寂しそうに微笑む。

「拓海。お願いがあるんだ」

「何だ?」

「私を、元の『完全な私』に戻してほしいの」

「でも、どうすれば……」

「簡単よ。鏡を通じて、私を私に戻すだけ。ただし、そのためには拓海、あなたが本当の記憶を受け入れる必要がある」

「本当の記憶……?」

「そう。あなたが置き去りにした記憶を、全部受け入れること。それができれば、私は元に戻れる」

「それってつまり……」

 悠真が頷いた。

「そうだ。お前が本当の自分と向き合い、記憶を全て受け入れる覚悟を決めるんだ。そうすれば、彩華は元に戻れる」

「だけど、それをしたら俺はどうなる?」

「お前自身も元に戻れる。曖昧な存在じゃなく、完全な『相沢拓海』として」

「でも、失敗したら?」

「その時は、お前自身がここに永遠に囚われる」

 その言葉に、俺の胸が締め付けられた。

「拓海。怖いのは分かる。でも、もう逃げるのはやめよう」

 彩華が強い口調で言った。

「俺は……」

 自分の手を見つめる。その手は小さく震えていた。
 だけど、もう決断するしかない。

「わかったよ。やる」

「拓海……ありがとう」

「お前を元に戻すんだろ? だったら、やってやるよ」

「じゃあ、始めよう」

 悠真が俺の肩に手を置き、鏡に向かって頷く。

「さあ、拓海。鏡の前で自分自身を取り戻せ」

 俺はゆっくりと鏡の前に立つ。鏡の表面は再び激しく揺れ、俺を飲み込もうとしていた。

(俺はもう逃げない。彩華を、悠真を、そして自分自身を取り戻すために……!)

 決意を固めた俺は、鏡の中に映る『もう一人の自分』を真正面から見つめ、手を伸ばした。

 今度こそ、本当の俺を取り戻す——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...