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守護英雄の村編
シラセの魔法
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エイムの問いに、シラセは昔のことを思い返していた。
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それは、シラセが5歳ほどの時だった。シラセは両親が繰り返し話してくれる守護英雄の昔話が大好きで、いつの間にか自分もそうなりたいと、強く憧れるようになっていた。そのこともあってか、ある日シラセに魔法が発現した。そしてその魔法は、守護英雄と同じもの「マナの具現化」だった。
シラセは飛び上がって喜び、村の人々にそれを言って回るほどだった。両親も、シラセの守護英雄への強い憧れを知っていたので、この魔法の発現は大いに喜ばしいことだと思っていた。後にこれがシラセを深く苦しめることになるとは、この時は知る由もなかった。
シラセは魔法が発現してからというもの、一層その憧れは強まり、魔法と武術の鍛錬に時間を費やした。守護英雄は敵の特性や状況に合わせてあらゆる武具・防具を作り出すことができ、そしてそれを使いこなす戦いの才覚があった。シラセも、そんな風に戦いたいと強く思っていたのだ。
しかし、シラセは徐々に気づき始める。
「…魔法を持続できない…!」
この魔法は、具現化したものの形状を保つため、常にマナが消費されるようだった。戦闘が長時間になるほど、当然マナの消費量は増える。武具や防具を頻繁に作り出すとなると、なおさらだった。守護英雄は、これに耐えうるだけの圧倒的なマナの量を備えていた。しかし、シラセは違った。
先天的に、マナの量が足りていなかったのだ。いや、この時代は魔法を使えるものがほとんどおらず、そもそもマナの量など誰も気にして生きていない。おそらく、シラセが特別にマナの量が少ないというわけではなく、むしろ常人並みだったのだろう。
そう、守護英雄が、圧倒的だったのだ。
多くの魔獣を討伐し、人類に平穏をもたらした守護英雄。その伝説の偉人の力が、常人並みであるはずがなかった。遥か遥か高みにある、まるで手を伸ばしても絶対に届かない星の光のようだった。そして、シラセはいくらマナを増やそうと努力しても、それは大して変わらなかった。
シラセは、自身の才覚の無さに、その守護英雄との大きな隔たりに、打ちひしがれた。
「こんなことなら、魔法なんて発現しなければよかった…!」
大きな希望を得たにも関わらず、それが「絶対に届かない」という絶望に裏返った者の心境は、想像に難くない。しかし、シラセはそれでも、守護英雄への憧れを捨て切れなかった。自分は、魔法を長時間具現化できない。それを自覚したうえで、この魔法を生かす方法を考えてたどり着いたのが、『矢』だった。
矢であれば、放つ際に具現化し、敵に命中した後に魔法を解けば、マナの消費は最小限に抑えられる。また、『弓』は本物を使うことにした。弓まで魔法で具現化すると、その維持にマナを消費してしまうからだ。
こうしてシラセは、弓矢の鍛錬に励んだ。その甲斐あって、シラセは村一番の使い手となり、獲物の狩りはお手の物だった。だが、シラセは感じていた。
「弓矢ができても、とても守護英雄様のようには戦えない…
俺の夢は、絶対にかなわない…」
そう、シラセも心のどこかでは、すでに諦めを感じていたのだ。だが、それをどうしても感情が受け入れられない。だから意固地なほど、守護英雄への憧れを口にするのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シラセは思い返し、そしてエイムにはこのことを正直に打ち明けることにした。エイムは、神妙な面持ちで、シラセの話を聞いていた。
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それは、シラセが5歳ほどの時だった。シラセは両親が繰り返し話してくれる守護英雄の昔話が大好きで、いつの間にか自分もそうなりたいと、強く憧れるようになっていた。そのこともあってか、ある日シラセに魔法が発現した。そしてその魔法は、守護英雄と同じもの「マナの具現化」だった。
シラセは飛び上がって喜び、村の人々にそれを言って回るほどだった。両親も、シラセの守護英雄への強い憧れを知っていたので、この魔法の発現は大いに喜ばしいことだと思っていた。後にこれがシラセを深く苦しめることになるとは、この時は知る由もなかった。
シラセは魔法が発現してからというもの、一層その憧れは強まり、魔法と武術の鍛錬に時間を費やした。守護英雄は敵の特性や状況に合わせてあらゆる武具・防具を作り出すことができ、そしてそれを使いこなす戦いの才覚があった。シラセも、そんな風に戦いたいと強く思っていたのだ。
しかし、シラセは徐々に気づき始める。
「…魔法を持続できない…!」
この魔法は、具現化したものの形状を保つため、常にマナが消費されるようだった。戦闘が長時間になるほど、当然マナの消費量は増える。武具や防具を頻繁に作り出すとなると、なおさらだった。守護英雄は、これに耐えうるだけの圧倒的なマナの量を備えていた。しかし、シラセは違った。
先天的に、マナの量が足りていなかったのだ。いや、この時代は魔法を使えるものがほとんどおらず、そもそもマナの量など誰も気にして生きていない。おそらく、シラセが特別にマナの量が少ないというわけではなく、むしろ常人並みだったのだろう。
そう、守護英雄が、圧倒的だったのだ。
多くの魔獣を討伐し、人類に平穏をもたらした守護英雄。その伝説の偉人の力が、常人並みであるはずがなかった。遥か遥か高みにある、まるで手を伸ばしても絶対に届かない星の光のようだった。そして、シラセはいくらマナを増やそうと努力しても、それは大して変わらなかった。
シラセは、自身の才覚の無さに、その守護英雄との大きな隔たりに、打ちひしがれた。
「こんなことなら、魔法なんて発現しなければよかった…!」
大きな希望を得たにも関わらず、それが「絶対に届かない」という絶望に裏返った者の心境は、想像に難くない。しかし、シラセはそれでも、守護英雄への憧れを捨て切れなかった。自分は、魔法を長時間具現化できない。それを自覚したうえで、この魔法を生かす方法を考えてたどり着いたのが、『矢』だった。
矢であれば、放つ際に具現化し、敵に命中した後に魔法を解けば、マナの消費は最小限に抑えられる。また、『弓』は本物を使うことにした。弓まで魔法で具現化すると、その維持にマナを消費してしまうからだ。
こうしてシラセは、弓矢の鍛錬に励んだ。その甲斐あって、シラセは村一番の使い手となり、獲物の狩りはお手の物だった。だが、シラセは感じていた。
「弓矢ができても、とても守護英雄様のようには戦えない…
俺の夢は、絶対にかなわない…」
そう、シラセも心のどこかでは、すでに諦めを感じていたのだ。だが、それをどうしても感情が受け入れられない。だから意固地なほど、守護英雄への憧れを口にするのだった。
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シラセは思い返し、そしてエイムにはこのことを正直に打ち明けることにした。エイムは、神妙な面持ちで、シラセの話を聞いていた。
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