エイムの魔法植物学

守護英雄の村編

安堵を砕く絶望

エイムは巨狼へと向かって駆け出した。ポケットから何かを取り出しながら、彼女の瞳には強い決意が宿っている。

「ピーちゃん！これを！」

エイムは取り出したそれを高く投げ上げた。宙を舞ったのは、先ほど入手したばかりのフラッシュバインドの種を詰めた小瓶だった。ピーちゃんは俊敏な動きで瓶を両足で掴むと、猛スピードで巨狼へと飛んでいった。

「ピーちゃん！『風の力』、最大解放！」

「ピィィイイイ！！」

ピーちゃんの身体が淡い光に包まれると同時に、激しい風を巻き起こした。そのまま疾風のごとく巨狼に突進し、巧みに前足を掻い潜ると、後ろ足に小瓶をぶつけた。

パリンッ！

割れた小瓶から飛び出したフラッシュバインドの種が、爆発的な勢いで成長を始めた。空気を切り裂くような音を伴い、蔦がうねりながら巨狼の後ろ足に絡みつく。その様子はまるで生きた蛇が獲物を締め上げるかのようだ。

ズゥゥウン！

自由を奪われた巨狼は地面に腹をつき、衝撃で大地が震える。立っていることすら難しい振動が周囲を襲った。

「ガァァアアァァアアアアア！！」

怒りの咆哮が響き渡る中、エイムはさらに叫んだ。

「マナ・ブースト！」

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その植物は“ステラブルーム”と呼ばれ、和名では“星送りの爆果ばっか”と称される。ステラブルームは微かなマナを静かに蓄え続け、命の終焉に果実を爆ぜさせて、緑の光を放つ。その光景は星々が咲き誇る花園のようだと讃えられ、幸運をもたらすと伝えられる。

エイムのブーツには、ステラブルームを粉末状に加工したものを混ぜ合わせて作られた宝石が埋め込まれている。この宝石はマナを蓄え、解き放つ力を持ち、エイムに爆発的な力を与える。
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エイムの叫びとともに、ブーツの宝石が緑色の光を放ち、その輝きは彼女の足元全体を覆った。次の瞬間、彼女は爆発的な加速で巨狼との距離を瞬時に詰めた。

「な、なんだあの動き……！」

シラセは目を見開き、信じられない思いでエイムを見つめた。巨狼の目前に到達すると、エイムは高く跳躍し、右足を振り上げた。

「マナ・インパクト！」

緑色の光が足元から迸ほとばしり、閃光となって上空へと広がる。
その瞬間、エイムの踵かかとが大気を切り裂く音を響かせながら隕石の如く降下し、巨狼の背中を激烈に打ち据えた。

ドォォオオーーン！

「ッガァ！」

大地が震え、ひびが四方に走る。巨狼は唾を吐きながら地面に沈み込み、ついに動かなくなった。静寂が支配し、砂煙がぱらぱらと落ちる音だけが響く。

シラセは呆然と立ち尽くしていたが、やがて歓喜の声を上げた。

「……す、すげぇ……！うわあああああ！！！！すげえよ、エイム！！」

涙を流しながら、彼は震える声で叫んだ。

「はあ……はあ……なんとかなった…」

エイムは肩で息をしながら、シラセの元まで戻り、腰を落とした。ピーちゃんが戻ってきて、彼女の肩に止まる。

「エイム！お前、そんなに強かったのか！今のは何だったんだ！？」

興奮するシラセに、エイムは息を整えながら答えた。

「このブーツの宝石に宿る、魔法植物の力だよ。
　普段、体から自然に出てるマナを蓄えてて、今それを一気に放出したの。」

「そんなことができるなんて…！ピー助も大活躍だったな！」

安堵の笑みを浮かべながら、エイムは禍々しい魔法植物に目を向けた。

「さあ、あの魔法植物を駆除しないと…」

だが、その瞬間、空気を裂く咆哮が響き渡った。

「ガァァアァァアァアアァァアアアアア！！！！」

大地が震え、空気が震動する。耳をつんざく咆哮の中、エイムとシラセは凍りついた。

「そんな…全力で…蹴ったのに……効いてないの……？」

ブチブチブチッ！！！

巨狼は絡みついていた蔦を一瞬で引きちぎり、威圧感を全身に放ちながら再び立ち上がる。二人はただ、茫然とするしかなかった。

巨狼のその瞳には、燃え盛る憤怒の炎が宿っていた。