エイムの魔法植物学

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守護英雄の村編

立ち向かう者

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キィィィイイーーーーーーン!

黒い閃光が、鋭く音を立てて空を切り裂き、シラセめがけて一直線に迫ってきた。

ーーーー死ぬ。
そんなことがシラセの頭をよぎった直後、視界がぶれた。

エイムがシラセを突き飛ばしたのだ。黒い閃光はエイムの腕をかすめ、激しい風を巻き起こしながら、背後の木々を引き裂き、幹を貫いてその先へ消えた。

「うぅ!」

エイムが呻き声を上げる。見ると血が一筋、腕をなぞっていた。

「エイム!大丈夫か!?」

シラセは我に返ったように目を見開き、叫んだ。

「うん、大丈夫…かすっただけ…」

エイムは痛みを堪えて言う。

「あ…ああ…弓が…!」

シラセは震える声で言った。シラセが装備していた弓は、閃光を避けた際に折れてしまっていた。

バキバキバキ……ドォーーーン!!!

エイムたちの後ろで轟音がする。幹を貫かれた巨木が倒れた。

鋭い眼光でこちらを睨んでいたそれは、ゆっくりと歩き出し、森の闇から、日の当たるところにその姿を表した。

「うそ…だろ…」

心臓が鼓動を打つ音だけが耳に響き、世界が止まったかのような感覚に包まれる。そこにいたのは、高さ3メートルを優に超える、巨大な黒い狼だった。眼は血走り、口からは凶悪な牙がのぞいている。
口元から滴る涎は、獲物の気配を嗅ぎ取った飢えた捕食者のそれだった。

エイムとシラセは、心臓を掴まれたと錯覚するほどの戦慄に支配されていた。

「…シラセ…あんな生き物、この森にいるの…?」

「そんなわけないだろ…あんなのがいるってわかってたら、二人だけでここに来るもんか!
 エイム、逃げよう!あんな化け物に、かなうはずない…」

シラセの声は震え、目は恐怖で大きく見開かれていた。心臓はまるで胸を突き破るかのような速さで鼓動し、冷たい汗が額を伝う。脳裏には次々と最悪の光景が浮かび上がり、自分たちがこの場に留まる限り、未来などないという確信がシラセを支配していた。

「ダメだよシラセ!ここで逃げたら、村の人々はどうなるの!?」

エイムの言葉には怒りと熱が込められている。しかし、それはシラセを責めるためではなく、恐怖に飲み込まれそうな彼を引き戻すための叫びだった。

「何言ってんだエイム!!あんなのに、俺たちだけで勝てるわけないだろ!!!
 俺の弓も折れちまった…もう戦えないんだ!
 このままここにいても死ぬだけだ!!頼むから逃げようエイム…」

シラセの眼は涙目で、怯え切っている。口の端が小刻みに震え、喉から漏れる息は荒い。
もはやそれは哀願だった。

エイムはしゃがみ込み、シラセの両肩に手を添えた。そして、目を真っ直ぐに見て、言った。

「…シラセ。大丈夫。私だって戦える。
 怖いけど…ここで逃げるわけにはいかないの。
 私たちの背中には、大勢の人の命が、乗っかっているんだよ。
 だからシラセ。私はあきらめない。」

そう言って、エイムは立ち上がり、巨狼を真っ直ぐと見据えた。

「ヴゥゥヴゥ…」

巨狼の喉奥から漏れ出た低い唸り声は、地の底から響き渡るような重低音となり、大気を震わせた。その音はまるで大地そのものが恐怖に戦き、共鳴しているかのようだった。

次の瞬間、黒き巨影が疾風のごとく動き出した。

巨狼の巨大な四肢が地面を踏み砕き、響き渡る轟音と共に、まるで裂け目を走る稲妻のような速さでエイムとシラセに迫る。大地はその一歩ごとに震え、周囲の世界がその圧倒的な存在に屈服していくように感じられた。

「ヒッ…」

あまりの恐怖に、シラセの口から思わず声が漏れる。その瞬間、エイムは目の前の恐怖に立ち向かう決意を固め、深く息を呑んで巨狼を見据えた。
そして、叫んだ。

「行くよピーちゃん!!!」

エイムは、巨狼に向かって駆け出していた。
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