エイムの魔法植物学

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守護英雄の村編

少年の旅立ち

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エイムたちがガルムを倒してから、1週間ほどが経過していた。エイムは村人たちの様子を見て回り、症状が快方に向かっていることを確認した。村には活気が戻り始め、元気になった子供たちが中央の広場を走り回っている。

「お姉ちゃんが、病気の草を退治してくれたんだよね!?ありがとう!!!」

元気にはしゃぐ子供たちの声に、エイムは柔らかく微笑む。

「どういたしまして。みんな、元気になって本当に良かったよ!
 また大変なことがあったら、必ず助けに来るからね!」

「うわーい!! お姉ちゃん、ずっとここにいてよー!!」

「あはは…ずっと居たいんだけど、私は旅をしているから、もうすぐここを出発しなきゃなんだ。
 ごめんね、またいつか会えるから。その時まで、元気でいてね!」

エイムは少し困ったように語りかける。

「えーさみしいね…わかったー!」

そういって子供たちは、またどこかへ駆け出して行った。

「…やっぱり行くのか…?」

そばで様子を見ていたシラセが尋ねる。

「うん。魔法植物図鑑は絶対に完成させたいし、それに例の件は、まだ解決していないから…」

「そうか…まあ、もう少しゆっくりしていけよ。すっかり村の人気者になったみたいだしな。」

シラセはそういうと、軽く手を振ってどこかへ行ってしまった。

「うん…」

エイムはもうすぐ訪れる旅立ちのことを想い、かみしめるようにつぶやいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから数日後。いよいよエイムの出発の日を迎えた。村人たちは中央の広場で、世話になったエイムを見送ろうと集まっていた。

「本当にありがとう!」

「またいつでもおいでね!」

「待ってるよお姉ちゃん!」

村人たちはみな、寂しさをにじませながら、それでも明るく声をかけた。

「あはは、みんな本当にありがとう。私もこの村で過ごせて、とっても嬉しかったよ。」

エイムも照れくさそうに答える。ざわめきが次第に静まり、村長が前へと進み出る。

「エイムさん。本当にあなたには世話になった。この村の恩人だ。
 心から感謝いたします。また、いつでもこの村に立ち寄ってほしい。」

「こちらこそ、本当にありがとうございました。
 またいつか、必ずお邪魔しますから、皆さんもどうかお元気でいてください。」

「ああ、ありがとう。
 エイムさんの新たな旅路に幸多からんことを。
 無事と笑顔が、あなたの旅の友となりますように。」

村長が手を組み、静かに祈りを捧げる。村人たちもそれに倣い、広場には穏やかな時間が流れた。

その沈黙を破るように、力強い声が響く。

「ちょっと待てエイム!俺もお前に着いていかせてくれ!!」

シラセだった。

「え、ええ!?シラセ何言ってるの!?」

エイムが驚いて聞き返す。

「もう、俺は決めたんだ。俺はここにいても、きっと何も変わらない。
 もっと強くなってみんなを守れるようになるには、俺も試練に飛び込まなきゃいけないんだ!」

「あんた、急に何を言い出すんだい!?
 守護英雄の甲冑をお守りするって代々のお役目もあるだろう!?」

慌てる母親を前に、シラセは真剣な眼差しを向ける。

「もちろん、お役目は全うする。
 でも、そのためにも、俺は強くならなきゃいけない。
 俺は、今のままじゃダメなんだ!」

父である村長の方を見据え、続ける。

「親父。言ったとおりだ。俺はエイムと一緒に旅に出て、変わらなきゃいけない。
 今、この瞬間が、俺にとって人生の一番大事な決断の時だ。」

「でもあんた、そんな急に…」

慌てるシラセの母を制止して、村長はゆっくりと口を開いた。

「…そう言いだす予感はしていた。眼を見れば一目瞭然だ。
 お前の眼には、今までにはなかった決意が宿っている。
 そして、私も男だからわかる。人生には、困難に立ち向かわなければならない瞬間があると。」

村長はそのままエイムに向き直り、問いかける。

「エイムさん、最後にご迷惑をお掛けして本当に申し訳ないが、シラセがあなたの旅路に同行することを、許してもらえないだろうか?
 シラセの父として、心からお願いする。」

「え、あの…私は全然、大丈夫です…
 山に行った時も、シラセがいてくれてとても助かったし…!」

「本当か、エイム!…ありがとう。」

シラセが、力を込めて言う。

「ありがとうございます。
 それとシラセ、お前に渡したいものがある。」

村長はおもむろに、大事に包まれた品を取り出した。

包みを取るとーーーーそれは、深い藍色の柄えを持つ、古い短刀だった。

柄は長い時を経てもなお美しく、夜空を閉じ込めたかのような深みをたたえている。その表面には、使い込まれた痕跡が残り、歴史の重みを感じさせた。

村長の手がそっと柄を握り、刀を抜く。鈍く光る刀身がゆるやかに現れると、そこに刻まれた模様がかすかに揺らめいた。鋼に映る淡い光は、かつてこの刃が守ってきた者たちの想いを宿しているかのようだった。

「え、親父…これって…」

「ああ、我が家に伝わる、守護英雄が実際に使っていた短刀だ。」

村長は短刀を再び鞘に戻すと、シラセに託すように、短刀を差し出した。

「いつか、お前の役に立つだろう。旅のお守りとして、お前に預ける。」

「え、いいのかよ…これ、村にとって本当に大事なものじゃ…」

シラセは、気圧された様子でこぼした。

「誰もあげるとは言ってないだろう。必ず、返しに戻ってこい。お前の足で、この村までな。」

そこには、息子の旅立ちを見守る、父の穏やかな表情があった。シラセは、ゆっくりと短刀を受け取る。

ーーーズシリと重い。

そこに託された祈りや、戦ってきた歴史、葬り去った命、あらゆるものが、その短刀に宿っているようだった。

「必ず、戻る。強くなってな。」

そのまなざしはすでに、夢を追う少年のものではない。覚悟を決め、己の運命に立ち向かう、一人の男の眼だった。

「…大きくなったな。さあ、行きなさい。世界を、見てきなさい。」

村長は遠い目をして、二人の門出を促す。

「ああ!行ってくる!みんな、元気でな!!」

「本当にありがとうございました!また、いつか!」

こうして、二人は村を後にしたのだった。
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