エイムの魔法植物学

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守護英雄の村編

暗躍

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某所にて。

深い森の中に、ひっそりと佇む古びた家があった。月の光は雲に隠れ、森全体が漆黒の闇へと溶け込んでいる。かすかに揺らめくろうそくの灯火だけが、その静寂を照らしていた。

「おっかしぃなぁ……?」



間の抜けた声が、闇を破る。

声の主は細身の若い男だった。長いローブをまとい、深くかぶったフードのせいで顔はよく見えない。一見、修道士のような雰囲気もあるが、軽薄な声音がそれを打ち消していた。

「ガルムちゃんの気配が消えてる……
まさか誰かに倒されちゃったとか?この時代にそんな強い奴いるのかな?」

呑気な口調でつぶやきながら、男は首をかしげる。薄暗い部屋の壁には、古びた骨や遺物が並べられ、不気味な雰囲気を醸し出していた。

「まあ、ガルムちゃんの骨は小さかったしね。
本物の半分の力も出せなかっただろうから……」

男は気楽そうに肩をすくめる。

「だから保険として、クラーケンちゃんの骨も混ぜておいたんだけど……
作動しなかったかな? それとも、クラーケンちゃんごとやられちゃった?」

「……はあ……」

ため息をつきながら椅子に腰を落とす。

「あのイカレ野郎に報告しなきゃだよなぁ…
あーやだやだ…」

男がうんざりした様子でつぶやいた、その瞬間——

「聞こえたぞ。魔獣が倒されたようだな、詳細を報告しろ。」

突如、窓の外から響く声。男の体がビクリと震え、咄嗟に立ち上がった。勢い余って椅子が倒れる。
窓に目をやると、室内のろうそくの灯に照らされ、ぼんやりと女の顔が浮かび上がっていた。淡麗な顔立ちだが、その瞳は焦点が合っておらずうつろだ。なぜか顔は不自然に上下に揺れていたが、暗がりで体が見えない。

そして何より、女の口から発せられたのは男の声だった。

「あ、あはは~……聞いてたんだね……はぁ~い、報告しま~す……」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……ガルムは閃光を三発放った後、消滅したのか。」

「そうみたい。改めてマナの痕跡をたどってみると、大きなマナの消費が三回あったよ。」

「ならば戦闘の末、討伐されたということで間違いないだろう。
となると、守らせていた人造魔法植物も駆除された可能性が高いな。」

「……しゅみませ~ん……」

「……もういい。そもそも、あれには継続的に毒素を摂取させなければならないという欠陥があった。重要度は低い。」

「なーんだ、じゃあ全然問題ないっすね~?」

「調子に乗るな。多少なりとも計画に支障が出たことは事実だ。」

「あっははは……ですよね~……」

「……まあいい。今回の件で得た情報もある。
貴様の魔獣を倒すような者が、この時代にもいるということだ。」

「いや~参ったよほんと。
まあ、ガルムちゃんの骨は小さかったし、全然弱っちい方だったけどさー。
他の魔獣の骨も混ぜてたのに、倒されちゃったのほんとショック!」

男はおどけた様子で膨れた。

「貴様は引き続き警戒を続けろ。加えて、魔獣を倒した者の調査も開始だ。」

「あっははは……ほんと人使い荒いよね~~~……はぁーい了解……」

苦笑いを浮かべて、男はうなだれた。

「調査についてはこちらも並行して行う。いずれにしろ、今は少しでも情報が欲しい。
恐らくは計画の遂行に大きく支障をきたす者だろうからな。」

「だよね~……頑張りまっす……」

「状況は逐一報告しろ。誰にも我々の邪魔をさせるな。」

「はぁ~い。」

女の顔は闇に溶けるように消えていき、窓の外には漆黒の闇だけが広がる。男はふぅっと息を吐き、くつろぐように椅子へ座り直した。

「あ~あ~厄介なことになったなぁ……
調査ってどうすりゃいいんだよ~」

ふと、男の唇が歪む。

「……まあ、めんどくさいし、そいつらさっさと見つけて倒しちゃえばいいよね!
使ってみたかった子たちが色々いるんだ~」

男はにやにやと笑う。その瞳には、暗い光が鈍く揺れていた。

「……あぁ~、なんか楽しみになってきたなぁ……
早く会いたいねぇぇぇえ……」

ーーーー守護英雄の村編 完ーーーー
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