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亡霊の家編
森に溶け入る声
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草陰に身を潜め、エイムとシラセはじっと少女を見つめていた。少女はうつろな瞳で虚空を見ている。肩からは小さな鞄を下げ、両手で壺を抱えていた。
やがて少女はとぼとぼと歩き出し、家の裏に広がる森――その薄闇の奥へと、まるで吸い込まれるように姿を消していった。
「気づかれないように、後をつけよう!」
エイムの囁きに、シラセは静かにうなずいた。二人は音を立てぬよう慎重に、少女の後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
月の淡い光が森の隙間を縫い、地面に模様のような影を落としていた。少女はふらふらと不安定な足取りで歩き、時折立ち止まっては木から実を摘み、鞄の中へとしまっていた。
やがて、木々の隙間から小さな泉が見えてくる。少女はそこに膝をつき、壺にそっと水を汲んでいた。
「なあエイム、あれ……絶対幽霊じゃないよな?」
シラセが低い声で訊ねる。
「うん。普通の、小さな女の子だよ。
森に入って、食べ物と水を確保してるみたい。」
少女はしばらく泉のほとりで水を汲み続けていたが、やがて立ち上がり、再びとぼとぼと森の小道を引き返し始めた。茂みに身を潜めていたエイムとシラセのすぐ横を、少女は何も気づかずに通り過ぎていく。
二人は静かに見送っていたが、やがてエイムが決意を込めた声で小さく言った。
「私、話しかけてみる。」
「ええ!? 大丈夫なのかよ!?」
シラセは驚きを隠せない。
「見た感じ、普通の子だし……あの様子からして、かなり憔悴してるみたい。
心配だし、ちゃんと話をしてみようと思う。」
「……まあ、危険はなさそうだしな。わかったよ。」
二人は静かに茂みを抜け、少女の後を追って小道へ出た。
「待って!」
エイムの声が夜の静けさを破った。少女はびくりと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。その瞳がエイムと交差した瞬間、ふと冷たい風が吹き抜けたように感じた。
「……誰、あなたたち……」
その声音は年齢にそぐわぬほど抑揚がなく、幼さの裏に張り付いた冷ややかさがあった。まるで、心のどこかが凍っているようだった。
エイムは、その異様な雰囲気に一瞬たじろぎながらも、落ち着いて言葉をつなぐ。
「突然ごめんね。
私たちは旅の途中でこの村に来ていて……
それで、あなたが出てきた家に幽霊が出るって噂を聞いて、少し様子を見てたの。」
少女は無表情のまま、黙して語らない。
「そしたら家の中がぼんやり光って、人影が動いてるのも見えた。
そしてあなたが出てきたから、こっそり後をついてきてしまったの。本当にごめんなさい。」
少女はじっと沈黙を守っていた。その姿は、言葉以上に多くを物語っているようだった。
「さっき、森で実を集めて、水を汲んでいたよね?
もしかして、食べ物に困っているの……?」
少女は、ほんのわずか唇を動かし、かすれるような声で答えた。
「……もう、家には食べ物がなくなっちゃったから……」
「そっか……村の人には相談してみた?」
「してないよ。みんな私のこと、怖がってるみたいだし……私も村の人のこと、よくわからない。」
「もし良かったら、私が村の人に話してみようか?」
少女はわずかに顔を伏せ、静かに言った。
「……そんなこと、しなくていいよ。私は、今のままでいい。……もう、何もしたくない……」
その言葉の背後に、怯えとも諦めともつかぬ感情の影が潜んでいた。エイムの胸に、ざわりと不安が芽生える。この少女は、今、何かに怯えている。それはただの空腹や孤独ではない、もっと深く、奥底に沈んだ恐れだった。
「……そっか、いきなりでごめんね。
ところで、その……家の中の光や人影、あれは一体……?」
エイムはためらいながらも、核心に迫る質問を投げかける。少女はしばらく口をつぐみ、目を逸らした。しかし、やがて観念したようにぽつりと呟く。
「……あなたたち、悪い人じゃなさそうだし……いいよ。見せてあげる。ついてきて。」
そう言って、少女はくるりと背を向け、再び家のある方角へと歩き出した。
エイムとシラセは顔を見合わせ、小さくうなずきあうと、少女の後をついていった。
やがて少女はとぼとぼと歩き出し、家の裏に広がる森――その薄闇の奥へと、まるで吸い込まれるように姿を消していった。
「気づかれないように、後をつけよう!」
エイムの囁きに、シラセは静かにうなずいた。二人は音を立てぬよう慎重に、少女の後を追った。
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月の淡い光が森の隙間を縫い、地面に模様のような影を落としていた。少女はふらふらと不安定な足取りで歩き、時折立ち止まっては木から実を摘み、鞄の中へとしまっていた。
やがて、木々の隙間から小さな泉が見えてくる。少女はそこに膝をつき、壺にそっと水を汲んでいた。
「なあエイム、あれ……絶対幽霊じゃないよな?」
シラセが低い声で訊ねる。
「うん。普通の、小さな女の子だよ。
森に入って、食べ物と水を確保してるみたい。」
少女はしばらく泉のほとりで水を汲み続けていたが、やがて立ち上がり、再びとぼとぼと森の小道を引き返し始めた。茂みに身を潜めていたエイムとシラセのすぐ横を、少女は何も気づかずに通り過ぎていく。
二人は静かに見送っていたが、やがてエイムが決意を込めた声で小さく言った。
「私、話しかけてみる。」
「ええ!? 大丈夫なのかよ!?」
シラセは驚きを隠せない。
「見た感じ、普通の子だし……あの様子からして、かなり憔悴してるみたい。
心配だし、ちゃんと話をしてみようと思う。」
「……まあ、危険はなさそうだしな。わかったよ。」
二人は静かに茂みを抜け、少女の後を追って小道へ出た。
「待って!」
エイムの声が夜の静けさを破った。少女はびくりと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。その瞳がエイムと交差した瞬間、ふと冷たい風が吹き抜けたように感じた。
「……誰、あなたたち……」
その声音は年齢にそぐわぬほど抑揚がなく、幼さの裏に張り付いた冷ややかさがあった。まるで、心のどこかが凍っているようだった。
エイムは、その異様な雰囲気に一瞬たじろぎながらも、落ち着いて言葉をつなぐ。
「突然ごめんね。
私たちは旅の途中でこの村に来ていて……
それで、あなたが出てきた家に幽霊が出るって噂を聞いて、少し様子を見てたの。」
少女は無表情のまま、黙して語らない。
「そしたら家の中がぼんやり光って、人影が動いてるのも見えた。
そしてあなたが出てきたから、こっそり後をついてきてしまったの。本当にごめんなさい。」
少女はじっと沈黙を守っていた。その姿は、言葉以上に多くを物語っているようだった。
「さっき、森で実を集めて、水を汲んでいたよね?
もしかして、食べ物に困っているの……?」
少女は、ほんのわずか唇を動かし、かすれるような声で答えた。
「……もう、家には食べ物がなくなっちゃったから……」
「そっか……村の人には相談してみた?」
「してないよ。みんな私のこと、怖がってるみたいだし……私も村の人のこと、よくわからない。」
「もし良かったら、私が村の人に話してみようか?」
少女はわずかに顔を伏せ、静かに言った。
「……そんなこと、しなくていいよ。私は、今のままでいい。……もう、何もしたくない……」
その言葉の背後に、怯えとも諦めともつかぬ感情の影が潜んでいた。エイムの胸に、ざわりと不安が芽生える。この少女は、今、何かに怯えている。それはただの空腹や孤独ではない、もっと深く、奥底に沈んだ恐れだった。
「……そっか、いきなりでごめんね。
ところで、その……家の中の光や人影、あれは一体……?」
エイムはためらいながらも、核心に迫る質問を投げかける。少女はしばらく口をつぐみ、目を逸らした。しかし、やがて観念したようにぽつりと呟く。
「……あなたたち、悪い人じゃなさそうだし……いいよ。見せてあげる。ついてきて。」
そう言って、少女はくるりと背を向け、再び家のある方角へと歩き出した。
エイムとシラセは顔を見合わせ、小さくうなずきあうと、少女の後をついていった。
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