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亡霊の家編
踊る亡霊
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翌日。
朝陽がまぶしい。雲ひとつない空は、どこまでも高く青かった。まるで、これから向かう先に“怪異”など存在しないかのように、世界は穏やかだった。
エイムとシラセは、宿から少し離れた場所にある“亡霊が出る”という噂の家を目指して歩いていた。そして、ほどなくして例の家が見えてきた。
「ここか……見た目は、ただの古びた家だな」
シラセが肩透かしを食らったように言う。
「うん。ぱっと見じゃ、なんの変哲もないよね」
エイムは家の様子をじっと見つめながら答えた。
二人は家から少し離れた草むらに腰を下ろし、静かに観察を始める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どれくらい時間が経っただろうか。最初は真剣に家を見張っていた二人だったが、時が経つにつれ、徐々に集中力が切れてきた。
「……やっぱり、日中は何も起きないんじゃないか?」
シラセが退屈そうに口を開く。
「うーん、たしかに静かすぎるね……夜にまた来ようか」
エイムがそう提案すると、シラセはうなずいた。
町へと引き返す途中、ふと思い出したようにエイムが尋ねる。
「ねぇ、シラセ。前に言ってたよね。守護英雄って、旅をしてた仲間がいたって」
「ああ、三人で旅してたんだ。武闘家と、魔法使いと一緒にな」
「どんな人たちだったの?」
「細かいことはあまり伝わってないけど、魔法使いのフィオルナは守護英雄様と同じ国の出身だったらしい。才色兼備の才女だったとか。
武闘家の名前はバイロン。東洋の大陸からやって来た旅人だ」
「東洋から!? 船で来たの?すごい、あの海を越えて……!」
エイムの目が輝く。
「そうらしい。東洋には“魔法”って概念すらなかったらしいけど、バイロンは武術を極めた後、更なる強さを求めてこの地に来たんだ。未知への挑戦のためにな」
シラセはどこか誇らしげに語る。
「命がけの旅だったんだね……強くなりたいって、その一心で」
「そうだ。最初は魔獣と戦って腕試ししてたみたいだけど、守護英雄様と出会って変わった。
“強さの意味”を教わってからは、人を守るために戦うようになったんだ」
「わぁ……かっこいい! 素敵な話だね!」
エイムは心から楽しそうに笑った。そんな会話をしているうちに、二人は宿に戻ってきた。
「夜まで暇だし、それぞれ自由行動にしようか。私は森で魔法植物を探してくる!」
「エイムはほんと相変わらずだな。じゃ、俺は魔法の鍛錬してくるよ」
「シラセも相変わらず!それじゃ、夕方に宿でね!」
「おう!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やがて夜が訪れ、世界は闇に包まれる。夕食を終えた二人は、再びあの家の前にやって来ていた。日中と同じように、草むらに身をひそめて、じっと様子をうかがう。
「……本当に出るんかなぁ、亡霊なんて」
シラセが半信半疑の声でつぶやく。
「目撃者がいるんだよ? きっと何かあるって! ちゃんと観察しなきゃ!」
エイムは小さく興奮をにじませながらも、真剣な目で家を見つめていた。
──それから、三十分ほどが経った頃。
突然、家の窓から淡い光が漏れ始めた。
「う、うわ……! なんだ、あれ……!」
シラセが思わず声を漏らす。光は徐々に強まり、やがて窓の向こうに、揺らめく二つの人影が浮かび上がった。
「ヒィィイ! 出たあぁぁあ!」
シラセが震える声で叫ぶ。
「シラセ、静かに! ちゃんと見なきゃ、あれが何なのか!」
エイムが必死に押し殺した声で言う。
「だってよぉ……本当に出るなんて……!」
「大丈夫。恐怖も不安も、“知りたい”って気持ちには勝てないよ。
だから、落ち着いて。知ろうとしてみて」
そう言って、エイムはそっとシラセの手を握った。シラセはそのぬくもりに驚き、違う意味で心臓が跳ねたが、次第に落ち着きを取り戻していく。
「……すまん、取り乱した。見よう。あれが何か、ちゃんと見極めよう……!」
二人は息をひそめ、人影を見つめ続けた。
──すると。
「……ダンスを……踊ってる……?」
まるでシンクロするように、二人の声が重なった。家の中で揺れる影たちは、まるでワルツを舞うように、静かにステップを踏んでいた。だがやがて、淡い光はふっと消え、辺りは再び静寂に包まれる。
「今の……何だったんだ……?」
シラセがつぶやいた、その瞬間。
──ガチャ。
家の扉が、音を立てて開いた。
二人は反射的に身を伏せ、草むらの影に隠れる。
そして現れたのは──
まだ幼い、四、五歳ほどの少女だった。月明かりに照らされたその顔は無表情で、うつろな目で虚空をじっと見つめていた。言葉も出せずに、エイムとシラセはその姿を見つめるしかなかった。
静寂と、謎だけが、夜の空気に溶け込んでいた──。
朝陽がまぶしい。雲ひとつない空は、どこまでも高く青かった。まるで、これから向かう先に“怪異”など存在しないかのように、世界は穏やかだった。
エイムとシラセは、宿から少し離れた場所にある“亡霊が出る”という噂の家を目指して歩いていた。そして、ほどなくして例の家が見えてきた。
「ここか……見た目は、ただの古びた家だな」
シラセが肩透かしを食らったように言う。
「うん。ぱっと見じゃ、なんの変哲もないよね」
エイムは家の様子をじっと見つめながら答えた。
二人は家から少し離れた草むらに腰を下ろし、静かに観察を始める。
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どれくらい時間が経っただろうか。最初は真剣に家を見張っていた二人だったが、時が経つにつれ、徐々に集中力が切れてきた。
「……やっぱり、日中は何も起きないんじゃないか?」
シラセが退屈そうに口を開く。
「うーん、たしかに静かすぎるね……夜にまた来ようか」
エイムがそう提案すると、シラセはうなずいた。
町へと引き返す途中、ふと思い出したようにエイムが尋ねる。
「ねぇ、シラセ。前に言ってたよね。守護英雄って、旅をしてた仲間がいたって」
「ああ、三人で旅してたんだ。武闘家と、魔法使いと一緒にな」
「どんな人たちだったの?」
「細かいことはあまり伝わってないけど、魔法使いのフィオルナは守護英雄様と同じ国の出身だったらしい。才色兼備の才女だったとか。
武闘家の名前はバイロン。東洋の大陸からやって来た旅人だ」
「東洋から!? 船で来たの?すごい、あの海を越えて……!」
エイムの目が輝く。
「そうらしい。東洋には“魔法”って概念すらなかったらしいけど、バイロンは武術を極めた後、更なる強さを求めてこの地に来たんだ。未知への挑戦のためにな」
シラセはどこか誇らしげに語る。
「命がけの旅だったんだね……強くなりたいって、その一心で」
「そうだ。最初は魔獣と戦って腕試ししてたみたいだけど、守護英雄様と出会って変わった。
“強さの意味”を教わってからは、人を守るために戦うようになったんだ」
「わぁ……かっこいい! 素敵な話だね!」
エイムは心から楽しそうに笑った。そんな会話をしているうちに、二人は宿に戻ってきた。
「夜まで暇だし、それぞれ自由行動にしようか。私は森で魔法植物を探してくる!」
「エイムはほんと相変わらずだな。じゃ、俺は魔法の鍛錬してくるよ」
「シラセも相変わらず!それじゃ、夕方に宿でね!」
「おう!」
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やがて夜が訪れ、世界は闇に包まれる。夕食を終えた二人は、再びあの家の前にやって来ていた。日中と同じように、草むらに身をひそめて、じっと様子をうかがう。
「……本当に出るんかなぁ、亡霊なんて」
シラセが半信半疑の声でつぶやく。
「目撃者がいるんだよ? きっと何かあるって! ちゃんと観察しなきゃ!」
エイムは小さく興奮をにじませながらも、真剣な目で家を見つめていた。
──それから、三十分ほどが経った頃。
突然、家の窓から淡い光が漏れ始めた。
「う、うわ……! なんだ、あれ……!」
シラセが思わず声を漏らす。光は徐々に強まり、やがて窓の向こうに、揺らめく二つの人影が浮かび上がった。
「ヒィィイ! 出たあぁぁあ!」
シラセが震える声で叫ぶ。
「シラセ、静かに! ちゃんと見なきゃ、あれが何なのか!」
エイムが必死に押し殺した声で言う。
「だってよぉ……本当に出るなんて……!」
「大丈夫。恐怖も不安も、“知りたい”って気持ちには勝てないよ。
だから、落ち着いて。知ろうとしてみて」
そう言って、エイムはそっとシラセの手を握った。シラセはそのぬくもりに驚き、違う意味で心臓が跳ねたが、次第に落ち着きを取り戻していく。
「……すまん、取り乱した。見よう。あれが何か、ちゃんと見極めよう……!」
二人は息をひそめ、人影を見つめ続けた。
──すると。
「……ダンスを……踊ってる……?」
まるでシンクロするように、二人の声が重なった。家の中で揺れる影たちは、まるでワルツを舞うように、静かにステップを踏んでいた。だがやがて、淡い光はふっと消え、辺りは再び静寂に包まれる。
「今の……何だったんだ……?」
シラセがつぶやいた、その瞬間。
──ガチャ。
家の扉が、音を立てて開いた。
二人は反射的に身を伏せ、草むらの影に隠れる。
そして現れたのは──
まだ幼い、四、五歳ほどの少女だった。月明かりに照らされたその顔は無表情で、うつろな目で虚空をじっと見つめていた。言葉も出せずに、エイムとシラセはその姿を見つめるしかなかった。
静寂と、謎だけが、夜の空気に溶け込んでいた──。
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