エイムの魔法植物学

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亡霊の家編

時と記憶を喰う植物

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エイムは額に汗をにじませながら、興奮気味に言葉を吐き出した。

「……この魔法植物の正体は、フィロメリアじゃない……
いや、正確には——フィロメリアだけじゃないんだ……!」

「えっ、どういうことだよ!?」

シラセは眉をひそめ、思わず一歩身を乗り出した。

「シラセ、エリシアの顔をよく見てみて……」

「え、あ、ああ……?」

戸惑いながらも、シラセは視線をエリシアへ向けた。少女は頭を抱え、小さく震えている。薄暗い灯りに照らされるその姿は、どこか頼りなく、痛々しい。

「……ん? あれ……エリシア、なんか少し……幼くなってないか……?
それに、体も、前より小さく……」

シラセの声がかすかに震えた。エイムは静かに頷く。

「——そう。この魔法植物は、エリシアの過ごしてきた時間を吸ったの」

「じ、時間を吸う……!?
じゃあ、つまり……若返ったってことか!?」

シラセは思わず声を上げた。

「うん。たぶん大人なら、顔や体の変化が小さすぎて気づかない。
でもエリシアぐらいの年齢なら、時間の巻き戻りははっきり現れる。
……そして、そんな現象を引き起こす植物は——これだ!」

エイムは震える指で本をめくり、ついに目的のページを見つけた。

時喰の宝珠、アユルエクリド。
この植物は、祈りを捧げた者に若返りの奇跡を授ける。
だがその代償として、記憶は花に喰われ、実の養分となる。
多用すれば、やがて自己認識さえも失い、夢と現実の境界が曖昧になり、亡霊のように彷徨う存在となる。
実は記憶を吸うたびに膨らみ、最後には花弁が枯れ落ちる。
内部には失われた記憶と時間が封じられ、それを食した者はそれらを取り戻すという。
外観は詳しく伝わっていないが、怪しく輝く花弁と、金色に膨れた実が特徴とされる——。

エイムはページを指で押さえながら、真剣な眼差しで続けた。

「間違いない……この魔法植物は、アユルエクリド……
そしてきっと、フィロメリアでもある。
二つの魔法植物は、実はひとつの存在だったんだ!」

「そ、そんなことがあり得るのか!?」

驚くシラセに、エイムは即座に頷く。

「うん。魔法植物の伝承って、実はけっこうあいまいなんだ。
同じ植物の違う部分が、別々に伝わることもあるから……!」

シラセはごくりと息を飲んだ。

「じゃ、じゃあ……これがアユルエクリドなら……
エリシアにこの実を食べさせれば……!」

「うん。きっと、失った記憶も時間も、取り戻せるはず!」

エイムは勢いよく立ち上がり、テーブルの上に置かれた魔法植物へと向き直った。丸くふくらんだ金色の実は、かすかに光を放っている。まるで宝石のように美しく、そしてどこか哀しげに——そこには、誰かの大切な記憶が詰まっているのだろう。

エイムはそっと手を伸ばし、実を摘み取った。その瞬間、上部に付いていた花弁がふわりと宙に舞い、ハラハラとテーブルに落ちた。音もなく。
淡く光る花弁が、まるで別れの涙のように広がる。エイムは膝をつき、うずくまるエリシアの隣へと寄り添った。

「……エリシア。さあ、これを——」

彼女はそっと、柔らかく光る実を、エリシアの手元へ差し出した。
静かに、息を呑むような空気が、そこに満ちていた。
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