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第3章
第33話
しおりを挟む「一週間隔離?」
朝いちからアルゼオの家に訪れていたオルタナは、俺に用があるのだといい、お茶を用意したところでそう話を切り出した。
「そうです。アルゼオ団長が発情期に入られる前に、こちらで用意する宿で生活をしていただきます」
オルタナの話によると、アルゼオにそろそろ発情期がくるので、前回の二の舞にならないように前もって俺を隔離するということらしい。つまり、久々に一人になれるということだ。
「前回はアルゼオ団長に申しつけられた通りアオハ様ををお連れいたしましたが、ご無理をなされたようですので」
ご無理をなされたようで、と言うところで、オルタナはアルゼオを鋭く見やった。俺もちらり、と横を見やれば、アルゼオは目を閉じて腕を組み、我関せずという態度だ。コホン、とオルタナが咳ばらいをすると、かすかにアルゼオのこめかみが動いた。まあ、俺も事故だったとはいえ、今回は事前に防げるのならありがたい話だ。
「わざわざ宿を用意しなくても、騎士団の余ってる部屋とか…」
「だめだ」
どうだろう、という俺の提案の言葉は音として発せられることはなく、アルゼオのぴしゃりとした物言いにかき消された。それまでオルタナの話に耳を向けているのか聞かないようにしているのかすらわからない態度をとっていたくせに。
またコホン、とオルタナが咳ばらいをして説明を続ける。
「ただの宿ではございません。アオハ様は大切なお方ですので、ふさわしい場所をご用意しております。どうか私たちのためにも、安心してお住みください」
何事も不安など感じさせないような、柔らかい微笑みを向けられた。オルタナがそこまで言うなら、大人しく飲み込んでおこう。元から断るつもりなんてなかったが。
「わかった。世話になる」
「はい!では、明後日の朝お迎えに上がりますね」
話をした2日後、オルタナは昼頃に迎えに来た。昨日、大してない荷物をまとめようとしていたら、全て用意してあるから必要ない、とアルゼオに止められた。だから、一週間の遠出だというのに手ぶらである。そして、なんの手荷物も持たない俺を見ても、オルタナは当然という顔だった。
「では、お連れいたします」
アルゼオを一人家に残し、オルタナと俺は馬車で宿に向かった。アルゼオはいってらっしゃいとも言わなかったが、俺が家を出る瞬間まで見送ってくれた。いつもはアルゼオが留守をするばかりだから、なんだかくすぐったい変な感じがした。
オルタナは前方の御者台に乗り、俺は一人で箱の中に座って揺られている。乗る前は、普通の馬車かと思うような外装だったが、内側には煌びやかな装飾が施されている。馬車の中は床まで高いクッション性があり、座り心地は悪くない。アルゼオの家から出発し、しばらく舗装されたでこぼこのない道を走っていた。アルゼオと共に騎士団に行った時にも通た道で、何度か見た景色を窓から眺めていた。
そのうち道は外れ、舗装されていない道を通り始めたようで、どうしても馬車が荒々しく揺れてしまうが、酔うぎりぎりの手前で目的地に到着した。
「アオハ様、到着いたしました」
外からオルタナの声が聞こえ、馬車のドアが開かれる。馬車から降りると、オルタナが手を差し出し俺を支えた。俺が客人だからか、男の俺にもエスコートをしてくれるようだ。
どんな場所かと顔を上げると、日本の豪邸ほどある敷地に、城のような形状の大きな白い建物が建っている。俺の創造より遥かに圧巻で、一瞬思考が固まる。
「アオハ様、こちらに」
オルタナの案内で意識を取り戻し、建物内に向かった。銀色の門から建物に入るまで、かなり長い石畳の道を歩いた。人が5人ほど横並びに歩けるほどの横幅がある。その石畳に沿うように垣根が植えられている。垣根の向こう側は花園になっていて、噴水もあり、左右対称に庭が整備されているようだ。だんだんと建物が近づいてくるほど迫力が増し、とてもただの隔離のために用意された場所だとは思えなかった。
「どうぞ」
オルタナが屋敷のドアを開け、中に入るように促す。
建物内に入ると2階建てのようで、1階は開けている。左右に曲線を描く階段があり、2階に部屋がいくつかある造りのようだ。すぐに2階の部屋へ案内され、オルタナから軽く説明を受ける。
「豪華、だな」
馬車といい玄関ホールといい、案内された部屋といい、どこを見ても赤と金を基調とした装飾が施されていることに絶句する。どうやっても俺には釣り合わない代物だ。
「アオハ様。飲み物はこちらに。本などもこちらに用意しております」
アルゼオの家にあるような大きな冷蔵庫もどきに、飲み物がずらりと並んでいた。床から天井まである幅の広い本棚に、丸々一週間あっても読み切れないほどの本があった。バスルームに部屋着もたくさん用意されており、何不自由しなさそうだ。
「可能であれば一週間、この部屋からは出ないようにしてください。部屋の前に護衛はつけておきますが念のため」
「わかった」
道理で大量の物資が用意されているわけだ。広大な敷地をもつこの屋敷の近くに目ぼしい店があるとも思えないし、久しぶりの一人の時間も悪くはないだろう。
オルタナは俺を送り届け、外の護衛と話をするとすぐに帰っていった。オルタナが帰ると部屋は静まりかえり、一人にしては大きすぎる部屋の、大きすぎるベッドに横になった。この時俺は、この先起こることを考えもしなかった。
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