ずぶ濡れの夜

涼暮つき

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第四話

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 レンに手を引かれ、諒太はその後を付いて行く。洗面台の鏡に映る自分とレンの姿を客観視できずに目を逸らすと再び唇を塞がれる。どう応えるのが正解なのかは分からなかったが、求められるままにレンを受け入れ、諒太も自身が欲しいと思うままレンを求めた。
「キス、気持ちいい? 上手くなってきた」
 自分より五つも年下のレンに何もかもリードされているのが少し悔しくもあったが、レンのキスは思ったよりずっとずっと甘く諒太を蕩けさせた。
「これ、脱がしていい?」
「……いいけど。男同士の場合、普通自分で脱ぐもんなのか?」
「どっちもありだけど。俺は、脱がしたい派。あんたみたいなスーツの男は特にね」
 そう答えたレンが、諒太のジャケットを脱がせてそれを洗面台の上にそっと置いた。
「いいね。リョータみたいなガチガチにお堅い感じのする男、じっくり剥いてくの堪んないよ」
 レンが嬉しそうに口の端を上げて雨で色の変わったネクタイに手を掛け、器用にそれを解いていく。
 それから、濡れて肌に張り付いたシャツのボタンに手を掛け、上からひとつひとつ丁寧に外していく。自分もそれを手伝ったほうがいいのかと迷ったが、レンがそうしたいと言っていた楽しみを奪うのも野暮な気がして余計なことはやめた。他人の手で服を脱がされる行為は思いの外刺激的であった。
「雨が沁みてシャツまで濡れてる。湿ったシャツから透ける肌ってエロいな」
 レンが嬉しそうに口の端を上げ、冷たい指で諒太の胸に触れた。彼の指が諒太のささやかな突起を羽で触れるように撫でたかと思うと、じっくりと捏ねるように弄ったり引っ張ったりとこちらの反応を窺う。
「──ふっ、ん」
 思わず声が出た。羞恥に口元を手の甲で隠すと、レンは諒太に意地悪な視線を向けた。
「普段から自分で弄ったりしてるだろ? 凄いピンピン」
「……馬鹿にしてんのか」
「エロいって褒めてんだよ。ていうか、その眼鏡邪魔」
 レンの言葉に諒太は掛けている眼鏡を片手で外すと、それを洗面台の上にそっと置いた。
「はは、思った通り。眼鏡外すと美人だな、リョータ」
 そんなこと初めて言われたわ。なんて考えているうちにあっという間に服を脱がされ、気づけば風呂場に連れ込まれていた。
 レンが勢いよくシャワーのコックを捻り、出てくるお湯で風呂場の中にたちまち湯気が充満する。
 シャワーを浴びながらの貪るようなキスは、まるで溺れているようだった。実際に顔中を流れて行くお湯で呼吸が苦しいのもあったが、もっと違う何か。
 欲望に忠実に、快楽だけを追い求めてそれに溺れる。相手の全てが欲しくて、自分の全てを与えたくて。
 それは、まるで恋のような、そうでないような──諒太にとって痺れるような初めての感覚だった。
 自分の肌の上を蠢くように這うレンの手が心地よく、ただ触れられるだけで身体の奥から熱が湧き上がって、胸の先や股間が耐えがたいほどジンジンする。
「リョータ、随分興奮してるんだな。ココも、ココも……もっと触って欲しそうに女の子みたいに大きく尖って。下なんてもうはち切れそうじゃん。苦しいなら一回抜いとく?」
 しゃがみ込んだレンにあっという間に口でイカされ、何がなんだか分からないうちに後ろまでご丁寧に解され、気づけば諒太はベッドの上にいた。
「初めてのわりに後ろ柔らかいや。すぐ指入ったんだけど、普段から自分でも弄ってた? 俺の指、リョータん中で動いてんの分かる?」
 レンの指の動きに、自分でも信じられないような声が漏れる。
「……ぁあんっ、あ」
「指、気持ちいいんだな。だよね? その顔で感じてないとか言わせないから」
 レンは諒太より若いが、こういう行為には随分慣れているように感じた。男の身体の扱い自体も男を抱くことにも慣れている。
 諒太がセックス初体験だということもあり何もかも刺激が強く感じてしまうのもあるのかもしれないが、彼の触れる手は優しく、彼の触れた場所がたちまち熱を持ちどうにも堪らなくなる。
 想像以上だった。自分と同じ男にキスされて、身体中舐め回されて、挙句尻の中まで弄られるのがこんなにも気持ちいいなんて──。
「あ、待ってっ、……それ嫌だ……ぁ」
「嘘。嫌って顔じゃないだろ」
 レンの手のひらの上で転がされているようだ。自分でも訳が分からないくらいレンの巧みな指使いに乱れている。
「はは、ヤバいなリョータ。本当にセックス初めて? 前弄ってないのに後ろだけでこんなヒクヒクドロドロすんの?」
 レンの顔が見ても分かるくらい強い興奮に紅潮している。そんな彼の雄むき出しの表情に諒太の興奮も煽られていく。
「……や、わかんな……ぁあ! そこっ、ん」
 まるで雌のような声を上げる自身に戸惑いながらも、与えられる快楽に身体の震えが止まらない。この震えをどうにかして欲しくて諒太は必死にレンにしがみついた。
「凄い、腰揺れてるよ? そんなに気持ちいいんだ?」
「気持ち……いいっ」
 いい、なんてもんじゃない。気が狂いそうなほどの強烈な快感。
 頭の中も身体も、この男のせいでどうにかなってしまいそうだ。
「ああ、もう! なんでそんな煽ってくんだよ。初めてだっつーから精一杯優しく丁寧に準備してんのに。俺にも我慢の限界ってもんがある」
「レン……! いいから……っ、もう」
 身体が疼く。いま目の前にいる若くて美しい男に、疼いた卑しい身体を貫かれたい。
「入れるよ、リョータ」
 諒太がコクコクと懇願するように頷くと、レンがゆっくりと諒太の中に押し入り、身体の中をその質量一杯に埋め尽くす。
 苦しいのか、気持ちいいのか。嬉しいのか、悲しいのか。
 レンが諒太を見下ろしたまま激しく腰を打ち付ける。彼の額から滴る汗が諒太の頬を濡らし、諒太はレンにしがみついたまま彼の背中に爪を立てた。

 たった一晩に何度も抱き合って、数えきれないほど果てた。
 翌朝目覚めて身支度を整えると、そのままレンを置いて部屋を出たのは白み始めた空と雨上がりの景色を窓から眺めた瞬間、諒太の思考がようやく現実に引き戻されたからだ。
 熱に浮かされたように欲望のまま互いの身体を貪り合った夜は終わりを告げた。
 夜が明ければ、当然夢から覚めて普段と変わらない平凡な日常が戻って来る。
 これまでと何も変わらない。そのことに諒太はなぜか安堵していた。







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