君知る春の宵 ~極道とリーマンが×××!?〜

いつうみ

文字の大きさ
2 / 7

その2 春雷〜突然の出会い〜

しおりを挟む
車は数十分走り、目的地に着いたようだった。
時間的に見積もって、都内のどこかだろう。車から荷物のように運ばれ、薄暗い部屋に押し込められた。

……さて、どうしたものか。
とりあえず口を塞ぐ猿ぐつわを外した。男達の前で外しては激昂されそうだったので、そのままにしていたのだ。辺りをキョロキョロと見回す。目隠しの布ごしに感じた通り、やはりどこかの部屋の中だ。室内は窓もなくガランとしており、ソファが1つあるだけ。電気が付いていないので、廊下からの明かりがドアの隙間からもれている。その向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「ああ!?誰を拉致ってきたって!?」
「あっ、あの、東藤さんが昨晩……」
「『ああいうのがいい』とおっしゃったので……」
鋭い怒鳴り声と、萎縮したような男達数人の声が聞こえた。春人を拉致した男達と、誰かだろうと推測された。
「あ?いつだ?」
「新宿で店を出た所で、ですね」
丁寧なしゃべり方の男の声もする。
「……あれは、ウリしてるような男やおかまバーにいるようなのよりは、って事だ。変な気ィ回しやがって!」
「すんません!」
「余計な事しました!」
ドガッ!ドガッ!っと、誰かが吹っ飛んで壁に当たったような音がした。
が、春人は別の事を考えていた。新宿……。昨日は研修のために新宿の支店へ行ったので、その時の事かもしれない。

ドアが開いた。
そこに立っていたのは、背の高い立派な体躯の男だった。鋭い眼光の強面だったが、逆光でよく見えなかったため春人は動じなかった。だから、男に向かって平静にこう言った。
「あの、なんか勘違いみたいですし、帰っていいですか?ここがどこか分からないので、最寄り駅を教えてください」
男が手を伸ばし、部屋の明かりを点けた。
光に浮かび上がったのは、ダークスーツを身にまとった野性的な男前だった。男だったらこうありたい、と思うような。年齢は30台後半といった所だろうか。鋭すぎる目付きがたまにキズだが、凛々しい眉と相まって、彼によく似合っていた。その男がツカツカと近づいてくる。背後には数人の男達が続く。側に立たれると、その体躯は春人との違いが明らかになった。
春人は自分が子供になったような気分になった。斜め上にある男の顔は、思わず見とれるほど精悍だ。悔しいような、敵わないのでお手上げのような……。
男が片眉を小さく動かした。
「俺にガンつけるたぁ、胆が座った野郎だな」
普段なら怖いと思うだろうが、現実感のないシチュエーションに、春人は感覚が麻痺していた。だから素直にこう言った。
「あの、男前だなあと思いまして」
「……」
男が春人を下から上までじろじろと見た。通常なら失礼だとカチンとくるところだが、これも春人は何とも思わなかった。値踏みするような視線だったが、こんないい男だからしょうがないか、という気持ちでただただその視線を受け止める。すると、男がこう尋ねてきた。
「お前、こっち系か」
「はい?」
こっちけい?
「こっちとは、あの、いったいどっちの事でしょうか」
「……」
男は答えず、フッと微笑った。すると、周囲の男達がざわついた。
『東藤さんが微笑んだ……!』『は、初めてだ、こんな事』『やっぱりあの若造を気に入って……!?』
こそこそとしゃべっている。春人の頭には、ますますハテナマークが浮かぶばかりだ。
「おい」
男が微かな笑みを浮かべたまま、言う。
「名は?」
「あ、桜井春人です」
名乗りながら名刺を取り出そうと……懐に手を入れた瞬間、回りが身構えたが、春人は気づかなかった。
「紅商事の新人です。何かあれば、ぜひ弊社にどうぞ」
男に両手で名刺を渡した時に、やっと回りの違和感に気づいた。なんでこの人達、腰を落として身構えてるんだろう?
目の前の男は名刺を見て、紅商事か、取引はねぇな、などとつぶやいている。そしてなぜか背後の眼鏡の男に、それを無言で渡してしまった。
秘書かな? と考えている春人に、男は自分の懐から大きな金色の名刺を取りだして渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
春人が両手で受け取ると、また周囲がざわめいた。
『東藤さんが名刺を渡したぞ!』『しかも本職の方のだ』『なぜあんな若造に!』『アイツに何かあるのか!?』
春人の頭には、さらに多くのハテナマークが浮かぶばかりである。

それにしても立派な名刺だ。
“7代目先崎組若頭青葉組組長、東藤龍巳”
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ボクは君に夢中〜ズルい大人の、本気の声

義井 映日
BL
「ズルい大人」――そう呼ぶ君の声が、俺の理性を焼き切っていく。 ​声優界の頂点に君臨する榊京介と、期待の新星・朝日奈蓮。完璧な仮面を被り、マイクの前で「他人」を演じる二人が、三月の雨の夜、一線を越える。 ​剥き出しの本能、執着、そして敗北。 収録現場の裏側で繰り広げられる、声に魅了された男たちの、取り返しのつかない愛の物語。 ※マネージャー視点の番外編2本収録。 以前、公開した物をブラッシュアップして、エピソードを追加したものです。 もし、作品が気に入ったら、お気に入り登録、♡をお願い致します🙇 公開中の作品はこちら↓ 『Candy pop〜Bitter&Sweet』 大学生カップルの「初恋」のお話です。 『胡粉(こふん)のアジール〜天才修復師は、騎士の腕の中で夢を見る』 仕立て屋(テーラー)×修復師(コンサベーター) 良かったら覗いてみてください☺

水泳部物語

佐城竜信
BL
タイトルに偽りありであまり水泳部要素の出てこないBLです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

処理中です...