騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

前田 真

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第1章:騎士の鎧と職人の魂の出会い

第7話:増産体制。最高の品質を最大量で提供せよ

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 三百本という、辺境の小さな鍛冶屋にとって想像を絶する注文数に対し、シグマは冷静だった。

「心配の原因は、まだ生産体制が人の努力に頼っていることです」

 シグマは静かに言った。

「大量生産で最も重要なのは、『誰が作っても同じ品質』を維持すること、そして『予測不可能な事態に備える』ことです」

 シグマは、工房に新たな工程表を貼り付けた。

「まず、作業の『多能工化』を進めます。バルカン殿は、剣の成形に集中してください。ルナ嬢は、これまで私が担当していた焼き入れと研磨の最終調整を、完全に引き継ぎます」

 ルナは驚いた。

「私が、焼き入れを? 父の長年の勘が一番必要なところじゃ……」

「PDCAと標準作業があれば、勘は不要です」

 シグマは言い切った。

「ルナ嬢が毎日記録した焼き入れ温度のデータこそが、バルカン殿の『勘』を誰もが再現できる『仕組み』となった。それに、私が騎士としての記憶を思い出せば、ここを離れなければならない。私が去った後も、この工房が安定して稼働できるよう、ルナ嬢にこの技術を継承させるのは、私の恩返しです」

 ルナはシグマの真剣な言葉に奮起し、すぐに作業標準書を手に取った。

 一方、バルカンには、シグマは『材料の発注基準の見直し』を依頼した。

「三百本分の鉄と炭を、一度に発注してはいけません。もし材料に問題があった場合、全ての生産が止まる重大なリスクになります。納入業者を二社に分け、一週間ごとの分割納入を依頼してください。これが、リスクヘッジです」

 バルカンは、自分の長年の常識を覆すシグマの緻密な管理に感嘆するしかなかった。

 シグマの指導の下、工房はかつてない緊張感と、確かなリズムの中で稼働を続けた。

 ルナは、データに裏打ちされた職人の『仕組み』を完全に身につけ、もはやバルカンと同等の安定性で焼き入れを完了させた。


 そして、二ヶ月後。

 三百本の剣は、完璧な品質と納期で騎士団駐屯地に納品された。

 ガストン隊長からの信頼は揺るぎないものとなり、バルカン鍛冶屋は、辺境唯一の騎士団御用達工房として揺るぎない地位を確立した。

 バルカンは、手に持った大量の金貨を眺め感極まって涙ぐんだ。

「シグマ殿……本当に、本当に感謝する。貴殿のおかげで、わしとルナの未来は、何十年も安泰になった」

 シグマは、工房の隅々までを見渡した。

(よし。品質保証、工程標準化、リスク管理。大規模生産の仕組みは整った。これ以上、この工房で教えるべき『改善』はない。私の恩返しは、ここで終わりを迎える……)

 シグマの胸には、職人としての清々しい達成感が満ちていた。
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