騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第1章：騎士の鎧と職人の魂の出会い

第10話：最高の納品と、職人の名誉

　翌朝、夜明け前。

　バルカンは、式典用の一張羅に身を包み、工房を出た。

　前日、騎士団の使者に渡された名誉の盾が積み込まれた騎士団の馬車が、すでに工房の前に待機している。

　バルカンは、見送るシグマとルナに、晴れやかな笑顔を向けた。

「シグマ殿、ルナ。行ってくる。最高の職人として、王都で堂々と胸を張ってくるぞ」

「道中お気をつけて、お父さん！」

　ルナは笑顔で見送った。

「バルカン殿、王都でのご活躍を」

　シグマは静かに頷いた。

　工房主の栄誉ある旅立ちを乗せた馬車は、静かに王都へ向かう街道を走り出し、街道の奥へと消えていった。



　午前中の工房は、最高の仕事が達成された後の、満ち足りた静寂に包まれていた。

　ルナは帳簿をつけ、シグマは工房の隅で道具の手入れをしていた。


　その静かな時間の完璧なリズムを、突然、静寂を打ち壊す、乱れた馬の蹄音の轟きが響き渡った。

　血と泥にまみれた騎士団の伝令が、馬を走らせて飛び込んできた。

　彼は、バルカンと使者の馬車隊に同行していた騎士団の兵士の一人だった。

「シグマ殿！ ルナ殿！ 大変だ！」

　伝令は、息も絶え絶えに事件の顛末を告げた。

「王都へ向かう途中、馬車が黒いローブの集団に襲撃を受けました！ 奴らは名誉の盾を奪っていきました！ 抵抗したバルカン殿は、頭部に重い一撃を受け、意識不明の重傷です！」

　伝令は冷静な口調で続けた。

「現場で使者たちが応急処置を施し、護衛しています。しかし、馬車が破壊され、動かせません。このままでは命に関わる！ ルナ殿、至急村の治療師を呼んでください！ 私はすぐに新しい馬車を手配し、負傷者を迎えに行きます！」

　ルナは伝令の指示に従い、顔を青ざめさせながらも、一目散に村へ走った。

　 伝令は再び馬を走らせ、村で馬車を手配する手筈を整えた。

　シグマは工房の奥座敷を急いで整え、治療師の到着と負傷者の搬入に備えた。

　間もなくルナが治療師を連れて戻り、続いて伝令が手配した村の馬車が血濡れのバルカンを乗せて慎重に引き入れられた。

　応急処置はしてあったが、額には深い傷を負い意識を失っている。

　ルナはお父さんの元に駆け寄った。

　シグマは、その光景と、最高の盾が理不尽な悪意によって強奪されたという事実に、激しい怒りに震えた。

「くそっ！ 最高の製品が、悪意によって利用されるなど、職人として断じて許せることではない！」

　シグマは、バルカンの容態を治療師と共に確認し、決断を下した。

「ルナ嬢。法的には納品は完了している。この盗難の責任は、盾を預かっていた騎士団にある。だが、このままでは、あの盾は王族を脅かす悪事に使われるだろう。私は追跡し、盾を取り戻す！」

　ルナは、お父さんの血濡れの顔を見て、怒りに顔を歪ませた。

「ええ、シグマ様！ 父を重傷にさせた仇！ そして、私たちの盾を奪った奴ら！ 私も行きます！」

　シグマは強く頷いた。

「よし。最高の製品の悪用は阻止する。そして、職人の名誉は必ず取り戻す。ルナ嬢、念入りに準備をするぞ」

　こうして、バルカンの負傷と最高の盾の強奪により、シグマとルナは、職人としての倫理と、復讐の決意を胸に、旅立ちを決意した。