騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

前田 真

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第2章:最高の製品は悪用させない!

第18話:工房の再会と文書の解析

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 シグマとルナが工房にたどり着いたのは、昼前だった。

 森の奥深く、岩場に囲まれたその工房は、外部の喧騒とは無縁の静寂に包まれていた。

 扉を開けると、油と金属の匂いに混じって、わずかに薬草の香りが漂っていた。

 工房の奥にある生活スペースでは、顔色の悪いバルカンが、ベッドに横たわっていた。

 その脇には、薬師らしき老女が付き添っている。

「父さん!」

 ルナはシグマを一瞥した後、急いで父の元へ駆け寄った。

「ルナ、無事だったか……」バルカンは弱々しく笑った。

 付き添いの薬師がルナに頷く。

「命に別状はないよ。安静にしていれば、治る。ただ、娘さんが戻るまで、ずっと気を張っていたようだ」

 安堵したルナは、バルカンにシグマが無事に盾を回収したことを伝えた。

「父さん。盾は悪党から取り戻せたから」

 バルカンは微かに頷き、ルナの手を握った。

「ルナ、シグマ……ありがとう。ルナ、もう心配するな。私は大丈夫だ」


 ルナは父のそばを離れ、シグマの元へ戻った。

「シグマ、文書の作業をしましょう。父の容体が落ち着いている今が、一番集中できる時だわ」

 シグマは無言で同意し、ルナに先導を促した。

 彼らは工房の奥にある、バルカンが設計図や資料を保管している小さな作業スペースへと入った。

 シグマは外套から羊皮紙の束を取り出し、作業台の上に広げた。

 ルナは隣に座り、ランプを近づけた。

 羊皮紙には、複雑な図形と、暗号めいた文字がびっしりと書き込まれていた。

 シグマは、羊皮紙の大部分を占める記述に目を通し始めた。

 その内容は、単なる強盗計画などではなかった。

「これは…」

 シグマの顔色が変わる。

 ルナもその記述と、それに添えられた王都の重要施設の詳細な図面を覗き込み、息を呑んだ。

 シグマは、図面と記述から、その構造的な意図を読み解いた。

「盗賊団が狙っていたのは、盾だけではなかった。彼らの真の目的は、この計画の実行だ。 そして、この標的は、王都の中枢にある」

 シグマは、その悪行の大きさを理解し、確信をもって結論を告げた。

「これは、クーデター計画書だ。」

 文書に描かれていたのは、次の大きな悪行を示唆する、恐るべき計画書だった。


「クーデター計画書…!」

 ルナは顔面蒼白になり、羊皮紙から手を離した。

「王都の中枢を狙うなんて……どうするの、シグマ?すぐに王都の騎士団に届けないと!」

 シグマは冷静に文書を巻き取り、外套の隠しポケットに収めた。

「騎士団は信用できない」

 シグマは断言した。

「盗賊団は騎士団を退けている。その背後に、騎士団内部の協力者がいる可能性が高い」

 シグマは言葉を続けた。

「何より、王族への献上品であるこの盾の情報が、盗賊団に漏れていた。これは、内部に裏切り者がいる証拠だ。迂闊に騎士団に文書を渡せば、計画の首謀者に知られ、我々が消されるか、計画が早まるだけだ」

 ルナはシグマの鋭い判断に納得せざるを得なかった。

「じゃあ、どうやって? 王族に直接会うなんて、私たちのような辺境の職人には不可能よ!」

「一つだけ方法がある。」

 シグマは、回収したばかりの盾を背中から外し、ルナに示した。

「この盾は、国王への献上品として知られている。代表として王都へ向かったバルカンが負傷した今、お前が代理として盾を献上するという名目で、王室に近い場所に接触する」

 ルナは迷った。

「私が……? でも、王族に会うには、厳重な手続きと保証人が必要よ」

 シグマはルナの目を見て、静かに言った。

「我々の手には、最高の献上品と、王都の存亡に関わる重大な情報がある。この情報を無視するほど、愚かな王族はいないはずだ」

 ルナは、シグマの合理的な論理と、その背後にある強い決意を感じ取った。

 この文書の解析に時間を割いたのは、騎士団を迂回し、一気に最高権力者に事態を伝えるための、最初から練られていた周到な計画だったのだと。

 しかし、シグマの行動は、その場その場での技術者としての合理的判断を積み重ねた結果であり、ルナが推測するような長期的な策略ではなかった。

「わかったわ。この工房の者である私が、盾を携えて王室に近づく。そして、その場で文書の存在を伝える。……それが、最も迅速で、最も安全な方法ね」

 シグマは頷いた。

「ああ。私も当然同行する。文書と盾、そしてルナの安全を確保する」

 ルナはベッドに横たわる父バルカンの元へ駆け寄り、彼の手に自分の手を重ねた。

「父さん、薬師さんに診てもらって、しっかり休んでね。私が盾を届けてくるから。必ず、すぐに戻るわ」

  そして、工房を出る準備を始めた。

 王都へ向かう道は、もはや職人としての納品の旅ではなかった。

 それは、国家の命運を握る、極秘の任務となった。
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