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第3章:職人の知恵と、騎士団内部の裏切り者の排除
第20話:王都。王室の扉を叩く
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山道を進むこと二日半。
疲労困憊のルナを伴いながらも、シグマは冷静沈着に道のりを管理し、ついに王都の城下町、外壁の威容が見える場所まで辿り着いた。
正規の街道を避け、人目に付かないルートを選んだことで、追手から逃れられた確信はあった。
しかし、王都の城門周辺の警戒は想像以上に厳重だった。
「やはり、盗賊団の件で警戒が強化されているわね」
ルナは、盾を隠した荷物を抱きしめながら言った。
「盗賊団の襲撃と、騎士団内の裏切り者の可能性。警戒の理由は複合的だ」
シグマは、王都の構造を冷静に観察していた。
「これ以上の移動は目立ちすぎる。ここで身なりを整え、正規の納品業者として城門を通過する必要がある」
ルナは自分の旅装を見下ろした。
山道を歩き続けたため、衣服は埃まみれで、とても王室に献上品を納める者の姿ではなかった。
「分かったわ。一度、町の宿屋に入りましょう」
シグマは頷き、城下町の最も古い区画にある、目立たない宿屋を選んだ。
宿屋に入ると、ルナは急いで着替えと身支度を済ませた。
「私が盾を運び王族に面会する。シグマは、私の身辺警護を装って同行するのよね」
「ああ。文書は静音鎧の内側に隠して持っていく。通常の身体検査では発見できないはずだ。だが、王族への謁見には、武器の持ち込みが厳しく制限される。私も丸腰で同行することになる」
シグマは、自衛手段がなくなることを冷静に指摘した。
「だからこそ、騎士団を通さず、一気に王族に直訴する必要がある」
「ええ。どうにかして、やりとげましょう」
翌朝。
ルナは丁寧に布に包まれた献上品の盾を抱え、シグマと共に城門をくぐった。
シグマは、ルナの身辺警護を装いつつ、周囲の騎士の動きや、王都の空気そのものを、五感の全てで探っていた。
彼らが目指すのは、王族への献上品を取り扱う部署。
そこが、王族への直訴を可能にする、最初で最後の接点だった。
ルナとシグマは、王都の整然とした大通りを進む。
ルナは盾を抱え、緊張しながらも職人としての誇りを装っている。
シグマは一歩後ろを歩き、終始警戒を怠らない。
彼の静音鎧は、城下町の喧騒の中で、その存在感を完全に消していた。
二人が目指すのは、王城外郭にある王室御用品納品管理局だった。
建物の前には、王城に相応しい厳重な警備が敷かれていた。
衛兵の一人が二人を呼び止める。
「そこの者たち、立ち止まれ。何用だ」
ルナは落ち着きを保ち、前に出た。
「私どもは、辺境の鍛冶師バルカンの工房の者です。国王陛下へ献上する盾を、代理として届けに参りました」
ルナが布に包まれた盾を示すと、衛兵たちの表情がわずかに変わった。
献上品が盗賊団に狙われた事件は、すでに王都の警備当局にも知れ渡っていたのだろう。
「バルカンの工房の……? 本人ではないのか。身分証と納品証明書を提示せよ」
ルナは準備していた書類を提出した。
書類は完璧だったが、衛兵は疑いの目を向ける。
「話は聞いている。その献上品は、盗賊に奪われたはず。なぜ今、ここにある?」
ルナは胸を張り答えた。
「私どもの力で、無事に盗賊の手から取り返しました。しかし、父バルカンは怪我を負い、私が代理で参上した次第です」
衛兵は書類とルナの顔を交互に見比べた。
その時、シグマは衛兵たちが納品の事実よりも、ルナの顔や、その場にいるシグマの存在を不自然なほど警戒しているのを鋭く察知した。
シグマの疑念は確信に変わる――この納品管理局にも、クーデター計画の協力者がいる可能性が高い。
「分かった。納品は受け付ける。納品手続きは、奥の部屋で専門の担当者が行う。その男はここで待て」
衛兵はシグマだけを制止した。
ルナは衛兵の指示に従おうと一歩踏み出すが、シグマは即座にルナの隣に並び、衛兵に向かってきっぱりと発言した。
「失礼。私は、この女性の身辺警護です。これほど重要な献上品を納めるのに、職人の女性一人で奥へ入るのは、王室への敬意を欠くことになりかねません」
シグマの言葉は、王室への配慮を装った、極めて合理的な主張だった。
衛兵は一瞬ためらったが、献上品という言葉と、シグマの異様なまでの落ち着きに押され、渋々承諾した。
「よかろう。だが、武器は一切許さん。速やかに手続きを済ませ、退去せよ」
シグマとルナは、衛兵の監視の下、納品管理局の奥へと進んだ。
二人は、ここがクーデター計画の最初の関門であることを確信していた。
疲労困憊のルナを伴いながらも、シグマは冷静沈着に道のりを管理し、ついに王都の城下町、外壁の威容が見える場所まで辿り着いた。
正規の街道を避け、人目に付かないルートを選んだことで、追手から逃れられた確信はあった。
しかし、王都の城門周辺の警戒は想像以上に厳重だった。
「やはり、盗賊団の件で警戒が強化されているわね」
ルナは、盾を隠した荷物を抱きしめながら言った。
「盗賊団の襲撃と、騎士団内の裏切り者の可能性。警戒の理由は複合的だ」
シグマは、王都の構造を冷静に観察していた。
「これ以上の移動は目立ちすぎる。ここで身なりを整え、正規の納品業者として城門を通過する必要がある」
ルナは自分の旅装を見下ろした。
山道を歩き続けたため、衣服は埃まみれで、とても王室に献上品を納める者の姿ではなかった。
「分かったわ。一度、町の宿屋に入りましょう」
シグマは頷き、城下町の最も古い区画にある、目立たない宿屋を選んだ。
宿屋に入ると、ルナは急いで着替えと身支度を済ませた。
「私が盾を運び王族に面会する。シグマは、私の身辺警護を装って同行するのよね」
「ああ。文書は静音鎧の内側に隠して持っていく。通常の身体検査では発見できないはずだ。だが、王族への謁見には、武器の持ち込みが厳しく制限される。私も丸腰で同行することになる」
シグマは、自衛手段がなくなることを冷静に指摘した。
「だからこそ、騎士団を通さず、一気に王族に直訴する必要がある」
「ええ。どうにかして、やりとげましょう」
翌朝。
ルナは丁寧に布に包まれた献上品の盾を抱え、シグマと共に城門をくぐった。
シグマは、ルナの身辺警護を装いつつ、周囲の騎士の動きや、王都の空気そのものを、五感の全てで探っていた。
彼らが目指すのは、王族への献上品を取り扱う部署。
そこが、王族への直訴を可能にする、最初で最後の接点だった。
ルナとシグマは、王都の整然とした大通りを進む。
ルナは盾を抱え、緊張しながらも職人としての誇りを装っている。
シグマは一歩後ろを歩き、終始警戒を怠らない。
彼の静音鎧は、城下町の喧騒の中で、その存在感を完全に消していた。
二人が目指すのは、王城外郭にある王室御用品納品管理局だった。
建物の前には、王城に相応しい厳重な警備が敷かれていた。
衛兵の一人が二人を呼び止める。
「そこの者たち、立ち止まれ。何用だ」
ルナは落ち着きを保ち、前に出た。
「私どもは、辺境の鍛冶師バルカンの工房の者です。国王陛下へ献上する盾を、代理として届けに参りました」
ルナが布に包まれた盾を示すと、衛兵たちの表情がわずかに変わった。
献上品が盗賊団に狙われた事件は、すでに王都の警備当局にも知れ渡っていたのだろう。
「バルカンの工房の……? 本人ではないのか。身分証と納品証明書を提示せよ」
ルナは準備していた書類を提出した。
書類は完璧だったが、衛兵は疑いの目を向ける。
「話は聞いている。その献上品は、盗賊に奪われたはず。なぜ今、ここにある?」
ルナは胸を張り答えた。
「私どもの力で、無事に盗賊の手から取り返しました。しかし、父バルカンは怪我を負い、私が代理で参上した次第です」
衛兵は書類とルナの顔を交互に見比べた。
その時、シグマは衛兵たちが納品の事実よりも、ルナの顔や、その場にいるシグマの存在を不自然なほど警戒しているのを鋭く察知した。
シグマの疑念は確信に変わる――この納品管理局にも、クーデター計画の協力者がいる可能性が高い。
「分かった。納品は受け付ける。納品手続きは、奥の部屋で専門の担当者が行う。その男はここで待て」
衛兵はシグマだけを制止した。
ルナは衛兵の指示に従おうと一歩踏み出すが、シグマは即座にルナの隣に並び、衛兵に向かってきっぱりと発言した。
「失礼。私は、この女性の身辺警護です。これほど重要な献上品を納めるのに、職人の女性一人で奥へ入るのは、王室への敬意を欠くことになりかねません」
シグマの言葉は、王室への配慮を装った、極めて合理的な主張だった。
衛兵は一瞬ためらったが、献上品という言葉と、シグマの異様なまでの落ち着きに押され、渋々承諾した。
「よかろう。だが、武器は一切許さん。速やかに手続きを済ませ、退去せよ」
シグマとルナは、衛兵の監視の下、納品管理局の奥へと進んだ。
二人は、ここがクーデター計画の最初の関門であることを確信していた。
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