騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第3章：職人の知恵と、騎士団内部の裏切り者の排除

第23話：文書の重み

　国王の命を受け、シグマは懐から厳重に封印された文書を取り出し、恭しく上官に手渡した。

　上官は震える手で文書を受け取り、玉座の前の階段を上がり、国王の前に差し出した。

　国王は、その文書を静かに受け取った。

　広間には、国王が文書を読み進める紙の擦れる音だけが響き渡り、重い沈黙が支配した。

　ルナは固唾を飲み、シグマは微動だにせず、王族の反応を待った。

　国王が文書を最後まで読み終えるのに数分を要した。

　彼の表情は、読むにつれて深刻さを増し、終盤には深い憂慮の色を帯びていた。

　やがて、国王は文書を王太子に手渡し、深く息を吐いた。

「……間違いない。この記述は、王城内部の構造、騎士団の配備、そして王室の動向について、外部の者が知り得るはずのない、極めて詳細な機密情報を含んでいる」

　王太子もまた文書を読み、顔を硬くした。

「陛下、ここに記されたクーデター計画の実行が示唆される記述は、看過できません。そして、この文書の核心には、王城内部の人間が関与することで初めて知り得る情報が散見されます。これは、無視できる文書ではない」

　玉座の脇の重鎮は、まだ反論しようと口を開いたが、国王はそれを制した。

「重臣たちよ。この文書の存在は、既に王城警備の根幹を揺るがしている。我々は、この文書の信憑性を疑う時間がない。今、取るべき行動は一つ」

　国王はシグマをまっすぐに見据えた。

「護衛の者よ。貴殿の論理は、騎士団内部に裏切り者がいるという結論を導き出した。では、その裏切り者を特定し、この計画を阻止するためには、次に何をすべきか、貴殿の考えを述べよ」

　シグマは、謁見の間に響く国王の言葉に、冷静かつ即答した。

「陛下。文書には、裏切り者の名前そのものは記されていません。しかし、我々が盗賊団の隠れ家で入手した他の備品の記録と照らし合わせれば、裏切り者が誰であるかを論理的に特定する手段があります。そのためには、王都の騎士団が管理する、武具の在庫記録と摩耗状況に関する情報が必要です」

　シグマは、その場にいる誰にも聞こえる声で、続けた。

「この計画の実行が間近である以上、裏切り者はすでに横流しした武具の代替品を不正に記録し、備品に不自然な摩耗状況が生じているはずです。その論理的矛盾を洗い出すことで、裏切り者の捜索範囲を限定できます」

　国王は、その具体的かつ合理的な捜査手順に驚き、そして納得した。

「よかろう。王太子よ、直ちに衛兵隊を掌握し、シグマとルナの助言を最大限活用して、騎士団備品管理の最高責任者を連れてこい。この際、騎士団の表向きの忠誠心よりも、王国の存続を優先する」

　ルナは、ついに自分たちの言葉が王族に通じたことに、安堵と、新たな使命の重みを感じた。

　シグマは、文書を届けるという目的を果たし、今や王権の庇護の下、計画阻止への道筋を明確に示していた。