騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第3章：職人の知恵と、騎士団内部の裏切り者の排除

第25話：摩耗状況と横流しの決定的証拠

　シグマの指摘により膝を崩した備品管理責任者は、王太子の衛兵によって即座に拘束された。

　しかし、シグマが指摘したのは『偽の記録を作成した人物』であり、裏切り者そのものを断定するには、さらなる確証が必要だった。

　王太子は、シグマが指し示した偽造された廃棄記録を睨みつけながら言った。

「署名のある人物は、騎士団の中でも中堅の地位にある者だ。だが、これだけでは、彼が裏切り者だと断定はできん。横流しが事実である証拠が必要だ」

　シグマは冷静に続けた。

「その通りです、殿下。横流しされた武具の在庫記録の矛盾は、あくまで間接的な証拠です。しかし、裏切り者が本当にクーデター計画の実行に関わっているなら、横流しした武具の代替品を、急いで調達したはずです。そして、その代替品にも、論理的な矛盾が生じています」

　シグマは、再び摩耗記録の束を広げ、別のページの記載を指さした。

「この偽の廃棄記録と同じ頃、裏切り者が所属する部隊の主要な戦闘用装備に対して、『緊急の補修と新規の交換』が申請され、承認されています。この交換された装備こそが、横流しされた武具の代替品です」

　シグマは、その交換された『新規の装備』に関する摩耗記録を見せた。

「通常、新品の装備を導入した場合、その後の摩耗記録はゼロから始まります。しかし、この『新規交換』されたはずの装備の直後の記録を見てください」

　シグマが示した数値は、驚くべきものだった。

「この装備は、わずか数日の使用にもかかわらず、既に数ヶ月間使用したかのような不自然な『中度の摩耗』を示しています。これは、横流しされた武具の代わりとして、別の古い武具を急遽記録に滑り込ませた、横流しの決定的証拠です」

　ルナは、シグマの指摘に感嘆した。

　彼は、単なる記録の数値ではなく、武具の『時間軸に沿った摩耗』という物理的な現実を、論理の武器として使っていた。

　王太子は、シグマの突きつけた武具の摩耗状況と横流しの決定的証拠に、顔色を失った。

　備品管理の責任者の不正は、単なる着服ではなく、クーデター計画のための軍備調達という、遥かに重大な意味を持っていた。

「……これだけの証拠があれば、動ける」

　王太子は玉座の重みを感じさせる冷徹な目で命じた。

「衛兵隊長を呼び出せ。この署名のある人物を、直ちに国家反逆罪の容疑で拘束せよ。決して逃がすな。そして、この記録庫の全ての備品管理記録を封鎖せよ」

　シグマの論理は、ついに裏切り者の特定と排除・拘束という、極めて困難な最初の障壁を打ち破った。

　しかし、この拘束が、クーデター計画の首謀者たちに、彼らの計画が露呈したことを知らせる引き金となることも、シグマは理解していた。