騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

前田 真

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第3章:職人の知恵と、騎士団内部の裏切り者の排除

第27話:クーデター計画の全容判明

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 ルナとシグマが武具の横流し記録の整理を始めてから、さらに時が過ぎた。

 記録庫の重い扉が再び開き、今度は王太子自身が、憔悴した表情で、しかし確かな緊張感を帯びて入ってきた。

 王太子の手には、先ほどまでシグマが持っていたクーデター計画の文書と、それに添えられた新たな紙片が握られていた。

「シグマ、ルナ嬢。貴殿たちの推論が正しかった。暗号は解読された」

 王太子の言葉に、ルナは思わず立ち上がった。

「宮廷学者の尽力により、ついに文書の全容が明らかになった。そして、貴殿たちの最初に提供した『武具横流しの証拠』が、我々の行動を裏付ける決定的な根拠となった」

 王太子はそう言い、解読された文書の内容を告げた。

「文書によると、このクーデターを主導しているのは、王都の有力貴族の一人である『ラードゥス侯爵』だ。彼が、盗賊団『鉄の牙』を私兵として利用し、王都の騎士団内部の裏切り者を通じて情報を得ていた。最終作戦の目的は、国王と私を含む王族全員の拘束と、王都の主要な軍事拠点の同時制圧だ」

 ルナは青ざめた。

 想像していたよりも遥かに大規模で、具体的な計画だった。

「そして、最も緊急性の高い情報だが……」

 王太子の声は低く、怒りが滲んでいた。

「裏切り者の拘束後、侯爵の捕縛のため、我々は秘密裏に兵を派遣した。しかし、ラードゥス侯爵は既に屋敷を抜け出しており、捕縛は失敗した」

 シグマの表情が引き締まった。

「逃亡ですか。裏切り者の拘束で計画が露見したことを知り、直ちに身を隠したのでしょう」

 王太子は頷いた。

「そうだ。侯爵は、文書に記されていた元々の実行日を待つことなく、逃亡先からクーデターを仕掛けてくるに違いない。実行日は今や不明だが、我々が知った以上、奴は必ず、早急に計画を推し進めるだろう」

 シグマは冷静に反応し、整理していた横流し記録に目を向けた。

「侯爵の逃亡は、計画の加速を意味します。しかし、敵は我々の動きを警戒しつつも、横流しした武具の不足を補う時間はなかったはずです。殿下、敵が獲得した武力は、我々の予想通り、長距離からの弓兵用武具に集中していますか?」

 王太子は頷いた。

「その通りだ。文書に記された作戦では、王城の特定の防衛ラインに対し、長距離からの集中攻撃を行うことが計画されている。これは、貴殿が事前に予測し、横流し記録から確認していた通りだ」

 ルナは安堵した。

 シグマが裏切り者の特定後、すぐに武力分析の準備に取り掛かったおかげで、彼らはすでに敵の攻撃の重点を知っていたのだ。

 王太子は、シグマとルナの並々ならぬ功績を改めて認識した。

「シグマ、ルナ嬢。貴殿たちの功績は、この国の危機を未然に防いだと言っても過言ではない。国王陛下は、貴殿たちに深い感謝の意を表している。しかし、今はその時間はない」

 王太子は、シグマがまとめた武力分析の記録を手に取り、決然とした表情で言った。

「シグマ、貴殿の次の助言が必要だ。敵は長距離の弓兵に集中している。この状況下で、我々が最も短期間で、敵の武力に対抗できる合理的な手段は何だと考えるか。武具のプロとしての見解を述べてほしい」

 王太子の問いかけは、軍事戦略の核心を突いていた。

 敵の攻撃の焦点は長距離の弓兵。

 これに対抗するには、強力な防具か、同等の長距離攻撃手段が必要となる。

 しかし、時間がない。

 シグマは、王太子を見つめ、冷静かつ論理的に答えた。

「殿下。敵は、横流しされた武具の不足を補えていないはずです。そして、我々には、敵の武力に匹敵するだけの数と質の武具を、今から新規に製造する時間はありません」

「では、どうするのだ?」

 王太子は焦燥感を滲ませた。

 シグマは、核心を述べた。

「我々が頼るべきは、武具の『数』ではなく、『品質』です。最も合理的な手段は、『信頼できる部隊』に限定し、彼らが現在使用している武具を緊急で強化・再設計すること。この短期間での強化を実現するために、私たちは独自の戦略を持っています」

 シグマは、ルナに共有した知識を元に、戦略を説明した。

「敵の弓兵は、王城の特定の防衛ラインに対し、特定の角度と威力で集中攻撃を行うでしょう。我々は、その攻撃パターンを想定し、既存の盾と鎧に、局所的な耐衝撃性を付与しなければなりません。短期間でこれを実現するには、『素材の品質管理』と『生産プロセスの最適化』、すなわちPDCAに基づく緊急生産ラインが必要です」

 ルナは、シグマの言葉を受けて、強く頷いた。彼女のPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)に基づく品質管理の概念が、この危機を救う武器となる。

「殿下、私に王城の信頼できる鍛冶職人たちを集める許可をください。そして、ルミナ鋼を。私は、私たちが辺境の工房で培った短期間で品質を保証する生産ラインと品質管理戦略を、王城の鍛冶場で再現します」

 王太子は、二人の異例の提案に驚きつつも、その論理的な必然性を理解した。

「よかろう。ルナ嬢とシグマ殿、貴殿らに王城の鍛冶場を開放する。必要な素材、職人、全て貴殿らの要望通りに手配させよう。貴殿らの知恵と技術を、存分にこの国の防衛のために振るってほしい。我々の防衛計画は、貴殿たちが作り出す『最高の製品』にかかっている」

 ルナの顔に、職人としての使命感と、戦う者としての覚悟が浮かんだ。

 彼女は、王国全体を守るための戦略として、職人としての全てを発揮する場を得たのだ。
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