騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第4章：品質保証（PDCA）と王国の運命

第30話：防衛戦の始まりと最初の侵入者

　夜明け前。

　王都の北門から、地響きと共に激しい戦闘の音が轟き始めた。

　反乱軍は、夜襲の利を最大限に活かし、城門に対し激しい攻勢を仕掛けていた。

　ルナが緊急で強化した武具を装備した王都の騎士団は、敵の最初の波を押しとどめていたものの、その猛攻は凄まじい。

　ルナは、王城の鍛冶場の一角で、職人たちと共に緊急生産した予備の武具の供給準備に追われていた。

　彼女は、遠くから聞こえる戦いの音に不安を感じながらも、自身に課せられた『品質を維持し、武具を生産し続ける』という使命に集中していた。

　彼女は、騎士団の補給部隊からの要請に基づき、速やかに予備の武具を届けられるよう、常に物資の在庫と配置を管理していた。

　ルナは鋭く指示を出した。

「補給部隊からの要請は強化盾が最優先です。予備を迅速に配置場所に移動させてください。生産ラインは現状維持で継続します」

　一方、王城内部の王族の避難経路の奥。

　シグマは、重厚な扉の前に立っていた。

　外部の激しい戦闘の音は、ここまではかろうじて届く程度だ。

　彼の任務は、この静寂を保つこと、つまり王城内部のセキュリティを完全に維持することだった。

「敵が最も合理的に内部を崩す手段は、城門の攻防に注意が向いている間に、特殊部隊を潜入させること」

　シグマは、王太子に命じられた防衛ラインの維持を、職人タカシとしての合理的思考で遂行していた。

　彼は、騎士として体に染みついていた防御の効率性を考慮した無駄のない姿勢で、微かな物音にも注意を払い、静かに待機していた。

　そして、彼が警戒を高めた直後、それは起こった。

　外部の戦闘音が最も高まった一瞬、シグマの背後にある王城の排水溝に通じる小さな扉から、微かな金属音が響いた。

　音はほとんど掻き消されていたが、シグマには明確に聞こえた。

　シグマは無言で振り返った。

　排水溝の扉が内側から静かに開けられ、黒い軽装の鎧を纏った、二人組の侵入者が姿を現した。

　彼らは、王族の避難経路を知り尽くしているかのように迷いなく、シグマのいる方向へと向かってきた。

　侵入者はシグマの存在に気づき、動きを止めた。

　その視線は、ルミナ鋼で強化されたシグマの騎士の鎧を一瞬で分析した。

「王族の犬め。邪魔だ」

　一人が低い声で言った。

　シグマは、彼らが正規の騎士団員ではないことを即座に判断した。

　その軽装と動きは、おそらく暗殺者か特殊な傭兵団のそれだろう。

　シグマは剣を構え、特務騎士として研ぎ澄まされた冷静さで答えた。

「ここから先は通さない。私の任務は、この通路を完全に守り抜くことだ」

　シグマの最初の内部防衛戦が、静かに、そして決定的に始まった。