騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第4章：品質保証（PDCA）と王国の運命

第31話：限界突破のチェックリスト

　シグマの言葉に、侵入者二人は静かに剣を抜いた。

　二人は軽装で、その得物は短剣と細身の長剣。

　対するシグマは重装騎士の鎧を纏い、片手剣を構えている。

　狭い避難経路において、機動力を重視する侵入者側と、防御力と一撃の重さを重視するシグマ側で、戦いの質は全く異なる。

「王族の犬め。邪魔だ」

　侵入者の一人が囁くように言い放つと、二人は同時に、かつ完全に協調した動きでシグマに向かって飛び出した。

　シグマの脳裏に、騎士としての知識はない。

　あるのは、職人タカシとしての合理的思考だ。

「入力（攻撃）に対し、最大の効率で処理（防御・反撃）を行う」

　最初に動いたのは短剣を持つ男だった。

　彼は低姿勢でシグマの足元を狙い、その動きに一瞬遅れて、長剣を持つ男がシグマの頭上から切りかかる。

　完璧な挟撃だ。

　シグマの肉体は、特務騎士として記憶されていた動作を、タカシの論理で再構成した。

　避けることは、狭い通路では成功率が低い。

　対策決定は、防御を最優先し、相手の攻撃を一度に処理することだ。

　シグマは、その場から一歩も動かず、重い盾をわずかに傾けた。

　ガキン！

　短剣の攻撃は盾の最も強度が高い部分で受け流され、火花を散らした。

　そして、長剣による頭上からの攻撃は、シグマの鎧の肩当てにぶつかった。

　ルミナ鋼の改良装甲は、激しい衝撃を吸収し、わずかな金属音を響かせただけで、構造的な欠陥は見られなかった。

「ふむ。想定通りの耐久性だ」

　シグマの動きは、防御の後の『次の動作への移行』において一切の無駄がなかった。

　彼が盾を元に戻す前に、長剣の侵入者に向け、最短距離で剣を振り抜いた。

　それは、生産工程における無駄な工程の削減を体現するような、合理性を極めた一撃だった。

　長剣の侵入者は慌てて剣で受けたが、重装騎士の全力の一撃はすさまじい。

　侵入者の体は通路の壁に叩きつけられ、壁にひびが入るほどの衝撃を与えた。

「くそっ、見かけ倒しではないぞ！」

　シグマが次の動作に移ろうとした瞬間、壁に叩きつけられたはずの侵入者は、通路の壁を蹴り、シグマから距離を取った。

　その一瞬の隙を見逃さず、短剣の侵入者が再び動き出し、シグマの背後にある王族の避難経路の重扉に向かって跳躍した。

　シグマは、短剣の侵入者が自分の防御ラインを横切る、その最短の時間を利用し、騎士としての体に染みついていた動作で、盾を動かすことなく、手にした剣を水平に、最短の軌道で振り抜いた。

　ガキィン！

　シグマの剣は、重扉へ到達しようとした短剣の侵入者の無防備な側頭部を、鎧の縁ごとかすめた。

　侵入者は悲鳴一つ上げられず、その場で平衡感覚を失い、通路の壁に叩きつけられて崩れ落ちた。

「不良品の発生は、最速で処理する」