僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

9.木製バット

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 予選までの間、僕は練習の時だけ木製のバットで打つことにした。
 金属バットは多少芯を外しても、それなりの打球を打てるが、木製バットは正確に芯で捉えないと良い打球は飛ばない。
 今よりも正確なスイングを身に付けることが第一の目的だが、高校卒業後に社会人野球に進むためにも、木製バットに慣れておきたい。
 という気持ちもあった。

 フリーバッティングの時に気付いたのだが、長嶋先輩の球が打てないのだ。試合ではないので、ナックルは投げていない。
 ストレートかカーブなのだが、自分では捉えたつもりで振っていても、微妙に芯を外されたり、空振りすることもあった。
 手元で小さく変化しているのだと思うが、他の部員は気持ちよく打ち返している……

 なるほど、他の部員には自信を持たせるために、わざと打たせていて、僕には試合用の球を投げているのだろう。
 それにしても、その試合用の球、大学でも通用するんじゃないのかなぁ?
 もう少しスピードが上がれば、ワンランク上の好投手に化ける可能性があると思うんだけど、高校野球で辞めてしまうのは惜しいよなぁ……

 この頃に、同級生の宮沢が頭角を現してきた。
 身体は大きく肩も強い。
 打撃もパワフルで、バットに当てる能力もまぁまぁだ。
 夏の予選は六番ライトのレギュラーに抜擢された。
 五番の福井先輩の後に、もう一人期待できる宮沢が加わったことで、得点力もアップするだろう。

 夏の予選が始まった。シード校になれた恩恵で、準々決勝までは強敵と当たらないブロックになった。
 準々決勝までは春と同じ戦略で、長嶋先輩が先発して、松村先輩を温存するパターンで臨むことになった。
 長野に転校してきてまだ二年と少しなので、聞いたこともない高校が多かった、もしかしたら無名の強敵が混ざっているのでは?
 などと心配していたが、準々決勝までは危なげなく勝ち進むことができた。

 準々決勝より先は、毎回抽選によって相手チームが決まる。
 ここで強敵同士が潰し合いをしてくれれば助かるなぁ……
 などと期待していたが、世の中そんなに甘くはなかった。

 次の対戦相手は優勝候補筆頭の佐久穂大付属に決定した。
 今年は春の選抜にも出場していて、エースの青木投手は甲子園で150キロの速球を投げて、プロも注目する存在になっていた。

 できれば当たりたくない相手だったが、どうせどこかで当たるのだから、それが早いか遅いかの違いだけだ。
 と割り切って考えることにした。
 野球の実力を見ないで、体力測定だけで僕を不合格にしたことを後悔させてやりたい気持ちもあった。

 抽選日から三日間の休養日があった。
 僕たちに休養している暇などなかった。
 どうやって青木投手を攻略するのか?
 長嶋先輩と相談した結果、試合の前半は僕たち二人は出塁することよりも、球数を多く投げさせることに専念することにした。
 プロが注目する好投手だとしても、試合開始から終了まで、全ての球で150キロの球速を維持することなど不可能なことだ。
 試合の終盤になれば、疲れも出てきて必ずスピードは落ちるだろう。

 松村先輩にはマウンドより少し前から投げてもらい、それをわざとファールにする練習を重ねた。
 今大会初先発になる松村先輩は好調を維持している様子だ。
 マウンドより前ではなく、普通にマウンドから投げても充分速いのではないだろうか?
 青木投手を攻略できれば、僕たちにもチャンスがあるに違いない。
 チームの雰囲気も盛り上がっていた。

 準々決勝の試合前、堀内監督から意外な発表があった。
「長嶋、今日もお前が先発だ」
 長嶋先輩の顔を見ると、明らかに動揺している様子だった。
 それはそうだろう。
 松村先輩が投げると思って、この三日間は打撃練習に専念していたのだから……

「佐久穂打線に松村のストレートでは通用しない。ストレートを見せ球にして、フォークで勝負する配球でしか抑えられる気がしない。
 でもなぁ初回からフォークを多投すれば最後まで持つはずないし、それなら四回戦までと同じ戦い方で、長嶋が行けるところまで行って、中盤で松村に継投だよ」
 なるほど、佐久穂にしても松村先輩の先発を予想しているだろうから、この起用は面白いかもしれない。

「それにな、松村のストレートは通用しないが、長嶋のストレートは案外通用するんじゃないかと思っている。
 佐久穂の打者は普段から130キロくらいの球で練習しているはずだから、長嶋の球は遅すぎて打ちにくいと思うんだよ」
 確かに言えている。
 長嶋先輩の球は速くないのだが、手元で微妙に変化している気がして、強振してくる相手には通用するかもしれない。

「そうは言ってもストレートは見せ球で、ストライク取りに行く球は全部ナックルにしろ。
 佐久穂の打線もナックルやフォークなんてなかなか練習してないだろうから、抑えるとしたらこれしかないと思う」
 監督の考えは理解できた。
 長嶋先輩、やってやりましょうよ! 

「長嶋さん、監督の言う通りですよ。僕は松村さんの球より、長嶋さんの球のほうが打ちにくいと思ってましたよ」
「遅すぎるからだろ」
 チームは大爆笑に包まれた。
 いやいや、本当にそう思っているのに、何で爆笑するんだよ……
 でも試合前の雰囲気としては最高だ。
 青木投手を攻略できれば、佐久穂も焦るだろう。
 長嶋先輩と決めた通り、試合前半はファールで粘る作戦で何とか食らいついてやろう。

 僕たちの先攻で試合が始まった。
 先頭打者として、皆に勇気を与える打席にしてやろう!
 息を止めてキャッチャーの声を聞く。
 初球はストレート。
 速い!
 テンポが速いので、そのまま息を止めて二球目の配球を聞く。
 スライダーを要求している。
 要求通り鋭いスライダーがアウトコース低目に来た。
 あっと言う間に追い込まれた。
 打席を外して呼吸を整える。
 次はボールになるスライダーの要求。
 ストライクコースに来たらカットするつもりで待つが、要求通りボール球だった。
 次は決め球のストレートをインコースに要求。
 何とかカットしてファールにする。

 球種とコースが正確なので的は絞りやすい。
 ストライクゾーンに来たらカットすれば良いのだ。
 それにしてもコントロールが良いな……
 もう何球粘ったのだろう?
 呼吸が苦しくなってきた。

 そう感じていたところに、今までのストレートとは一段速い球が来て、僕のバットは空を切った。
 息が上がるくらい長く粘ったのは初めてだった。
 最後のストレートは段違いに速かった。
 これは手強い相手だ……

「水野、よく粘ったな。十二球も投げさせたぞ! 俺も粘ってやるぜ!」
 そうか、十二球投げさせたなら役割は果たせたな。
「長嶋さん、決め球のストレートは一段速くなりますよ。粘られたから、早目に勝負してくると思います」
「了解!」
 球種とコースを知ることができる僕でも、ファールするのに苦労したのだ。
 普通に勝負しなければならない長嶋先輩は何球粘れるのだろうか……

 そんな心配をしていたのだが、この人のセンスは凄い。
 普通に九球投げさせてベンチに戻って来た。

「クソっ! 水野より粘りたかったんだけどな。凄いスピードだな」
 いやいや、あの投手相手に普通に九球粘れる長嶋先輩も凄いですよ。
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