僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

17.決勝進出

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 試合後の抽選で、次の相手が上田南に決まった。
 中軸の三人の声は聞けない。
 キャッチャーの加藤選手の声も聞けない。
 ガチで勝負しなければいけない相手だ。
 同じ東信地区で公式戦の対戦もある上田南には、最近は全く勝てていない。
 長野県の勢力としては、今や佐久穂・松翔に次ぐ強豪校である。

 しかし春の県大会以降、練習試合も含めて、上田南の特徴は徹底的に分析してきた。
 中軸の三人の得意な球種やコース、投手陣の持ち球やスピード、内外野の守備力。
 相手の弱点を突いて行けば、勝機はあるのではないか?
 先制してウチのペースで戦うことが重要だろう。

 試合は僕たちの先攻で始まった。
 先頭打者として、ヒットを打つことよりも出塁することに比重を置いて打席に入った。
 打ちに行ってミスショットして凡打するよりも、粘って四球狙いだ。
 相手投手の特徴は調べてあるし、二年前の佐久穂の青木投手に比べれば、カットしてファールで逃げるのも容易いことだ。
 配球を聞くことはできないが、二年前のカズさんができたことを、今の僕がやれば良いのだ。

 狙い通り四球で出塁すると、二番の山田は手堅くバントだ。
 何せ加藤選手は強肩なので、単独スチールは僕でも簡単ではない。
 上田南の内野は、一塁手と三塁手があまり上手くない。
 とのデータも入手している。
 山田は一塁側に転がした。
 初回の守りでプレッシャーがあったのか、一塁手がお手玉する間に、山田もセーフになった。

 チャンス拡大を狙い市川にもバントのサインだ。
 市川が三塁側に上手く転がすと、三塁手のダッシュが遅れる、それを見たピッチャーが自分で処理しようとして慌ててダッシュして転倒した。
 これで無死満塁の大チャンスだ。
 これは単なる相手のミスではない。
 バントが嫌いだった山田と市川が、しっかり練習して絶妙なコースに転がしたことと、相手の守備力が劣るポジションを知っていたからこその結果だ。

 ここで主砲の宮沢登場。
 昨日の試合では、サヨナラのチャンスに狙いすぎて三振を喫している。
 今日は同じ轍を踏まないだろう。
 そう信じていたところ、期待通りのコンパクトなスイングから弾き返された打球は、バックスクリーンに飛び込む先制の満塁ホームランになった。

 いきなり満塁ホームランが出るとは、全く予想もしていなかった。
 これで配球も楽になる。
 声を聞くことができない中軸の三人に対しては、ストライクで勝負する必要もなく、少しばかりコースを外した配球をすると、焦りからか手を出してくれて、勝手に凡打してくれる展開になった。

 僕たちは満塁ホームランが出たことに油断することもなく、その後はランナーが出ると手堅く送って、小刻みに追加点を奪った。
 終わってみれば8対1の七回コールドで上田南に完勝した。
 上田南に公式戦で勝つのは、八年振りのことだったらしい。

 試合終了後の整列で、加藤選手と握手をした。
 何か言いたそうだったが、涙が止まらず声にならない。
 彼もこの大会に懸けていたのだろう。
 彼だけではなく、僕たちと対戦して敗退した、全てのチームの選手の気持ちも背負って、明日の決勝戦は頑張ろうっ!
 と、気持ちを新たにした。

 松翔・上田南と優勝候補を連破して決勝に進出したが、次の相手は佐久穂大付属だ。
 最近数年間は県内では絶対王者と言える結果を残している。
 今年は二年前の青木投手のような大エースは居ないが、四人の投手の継投で危なげなく勝ち進んで来ている。
 その四人は他のチームに居れば全員エースになれそうな実力だ。
 それぞれタイプが違うので、早目の継投をされると攻略するのは難しいだろう。
 ロースコアの接戦に持ち込みたいところだ。

 そう言えば、横浜通運のスカウトの人は、準々決勝と準決勝は見てくれたのだろうか?
 この二試合は僕個人としても結果を残して勝利に貢献している。
 見ていてくれたならば好印象のはずだ。

 もし決勝で佐久穂にワンサイドで負けて、僕個人としても活躍できなければ、スカウトしてもらえないのではないだろうか……
 かなり気になるところではあるが、個人の欲は捨てて、チームが勝てるように集中しよう。

 試合は僕たちの先攻で始まった。
 先制点が欲しいので、上田南の時と同じでヒットを打つことよりも、四球で確実に出塁しよう。
 そう考えて打席に入り、初球を待っていたところ。
「冬樹~、打て~!」
 とネット裏から聞き覚えのある声がした。
 びっくりして初球の球種も分からないままストライクを取られた。

「すみません。タイムお願いします」
 打席を外してネット裏を確認すると、あっ! やっぱり香織か! 観に来たのか。
 何だよ、連絡してくれればいいのに、サプライズのつもりか?
 よぉし、こうなったらちょっといいところを見せてやるかっ!

 四球狙いは止めて打つことにした。
 キャッチャーの要求はインコースのストレート。
 大振りはせずコンパクトに打ち返す!
 ショートの頭上を越えた打球は左中間を抜けて行った。
 セカンドベースを回ったところで、センターがクッションボールの処理にもたついているのが見えた。
 スピードを緩めずサードベースも蹴った!
 中継したショートからの返球が良かったが、キャッチャーのタッチをかいくぐり、先制のランニングホームランになった。

 僕はベンチではなく、ネット裏の香織に向かってガッツポーズをしていた。
 小学生の頃のクラスの野球部の試合を思い出していた。
 あの頃は、ただただ野球が楽しかった。
 今日も結果を恐れずに楽しもうっ!
 そういう気持ちを思い出させてくれた一打になった。

 準決勝で上田南を抑えた綿田だったが、佐久穂の強力打線は手強かった。
 打者の声を聞いても、狙っている球種やコースがはっきりしない。
 来た球を打つ。
 というスタンスの打者が多かった。
 ここまでの予選で調べたデータを元に、各打者の傾向は分かっているので、苦手な球種とコースを軸に組み立てていたが、綿田は要求通りに投げていても、それを上回るスイングで打ち返されてしまう。

 綿田の調子が悪い訳ではないが、あっと言う間に1対2と逆転を許してしまった。
 僕の二打席目はセンター前に抜けそうなライナーを、相手ショートの美技に阻まれて出塁できず、チームも得点を取れない。

 綿田が更に二点を奪われ1対4にされた五回の表、打順の巡りが悪く二死無走者で僕に打順が回ってきた。
 長打が欲しいところだが、それよりも後続を信じて出塁することが大事だろう。
 打ちたい気持ちを抑えて四球で出塁すると、初球に盗塁を決めた。
 結果は二塁打と同じことになった。
 山田、何とか繋いでくれっ!
 願いが通じたのか? 山田の打球はライト前にポトリと落ちて、2対4と食い下がった。

 五回裏から後藤に継投した。
 佐久穂打線は後藤からも小刻みに加点して行く。
 僕たちの攻撃は、佐久穂の巧みな継投で目先を変えられて、なかなか打つことができない。
 八回に第四打席が回ってきた。
 この回もヒットと盗塁でセカンドベースまで到達したが、後続が倒れて無得点。

 結局2対7で佐久穂の壁を破ることができなかった。
 二年前の準々決勝で負けた時は、涙が止まらなかったが、今は何故か満足感のほうが強くて涙が出てこない。
 宮沢も山田も市川も大塚も泣いていない。
 皆、負けた悔しさよりも、全て出し切った満足感のほうが強いようだ。
 
 閉会式を終え、学校に戻ることになった。
 決勝は松本市で行われたので、バスで上田に戻ることになる。
 香織に電話してみると、まだ夏休み前で明日は普通に授業があるので、松本駅から帰るつもりらしい。
 夏休みになればもう練習は無い。
 今日で高校野球は終わりだ。
 今日はびっくりしたけど、観に来てくれて嬉しかったし、力が湧いてくる気がした。
 直接話しはできなかったけれど、夏休みになったら横浜に会いに行こうと思う。
 
 そう言えば、スカウトの人は来てくれたのだろうか?
 今日は負けたけど、ホームランも打ったし、個人的には悪くなかったよなぁ……
 それも気になる。

 帰ったら引退式と新キャプテンの任命だ。
 今年の成績の後にキャプテンになるのは大変なプレッシャーだろう。
 綿田と後藤には投球に専念してもらいたいから、新キャプテンは伊藤が良いだろう。
 と、既に決まってはいる。

 今年の春から取り組んでいる、相手を研究して、相手の嫌がる野球をして行けば、僕たちが抜けた後もそこそこの結果を残せるのではないだろうか? 
 データ野球の染川高校。
 と言われるようになるくらいに、チームの伝統として定着するといいなぁ……
 と個人的には思っているところだ。

 そうそう、今日のことはカズさんにも連絡入れておかなきゃ。
 去年宣言した通り、カズさんたちの残した成績を超えることができたのだ。
 これからもお互いに競い合って上手くなって行けたらいいなぁ。

 さて、明日授業が終わったら何しようか?
 もう部室に行かなくても良いのだ……
 そう思ったら、何だか急に寂しくなってきた。
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