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第二章_水野冬樹
16.快進撃
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県大会の一回戦の相手は中信ブロックの塩尻国際高校だ。
シード権が欲しいので落とせない試合だ。
上田南と同じような結果は避けたいが、相手チームの血液型まで分かるデータは無い。
レギュラーにAB型の選手が居ないことを祈るばかりだ。
一回戦に勝つことも大切なのだが、この県大会に進出してきているチームと、夏の準々決勝以降で対戦する確率が高い。
僕たちは全ての試合を偵察することにした。
多くの部員で観戦することにより、個人の偏った印象ではなく、より正確なデータを収集することが目的だ。
事前に相手投手の特徴や、打者の好きなコースなどが分かれば、僕の能力が使えない場合でも、対応できる引き出しは多くなる。
その上で、相手の考えが聞こえれば更に有利になるであろう。
ラッキーなことに、塩尻国際にはAB型の選手は居なかった。
僕は五打席中四回出塁して、そのうち三回ホームを踏んだ。
先発の綿田も好調で五回一失点、リリーフした後藤も四回一失点でまとめて五対二で勝利した。
二回戦の相手は優勝候補の松翔学院に決まった。
松翔の特徴は一回戦を見ているので、ある程度分かっていた。
既にシード権は得ているので、この試合の勝敗はそれほど重要ではない。
この試合では僕は能力を封印して、実力で勝負してみようと考えていた。
松翔のエースは左投げの本格派だ。
カーブとスライダーは右打ちの僕の膝元に食い込んでくることになる。
キャッチャーの声を聞かずに、どこまで対応できるのだろうか?
結果は四打席で四球を二つ選んだが、ヒットは打てなかった。
カットして粘ることはできても、強豪校のエースクラスの投手が相手だと、なかなかヒットを打つのは難しい。
守りでは、とりあえず一人一回は能力を使うことにした。
AB型の選手が居るのか調べることが目的だ。
六番打者の声が聞こえなかった。
あとは大丈夫だ。
それさえ分かれば、勝敗度外視で実力でどこまで通用するのか勝負だっ!
一番打者は初球から振ってこない。
ストレートはカットして粘り、変化球を打つのが特徴だ。
二番打者はライト方向に打つ能力が高い……
等々、一回戦を見た限りで分析したデータを元に、配球を組み立ててみた。
結果は2対4で敗れたのだが、能力を封印しても松翔と互角に戦えたことは自信になった。
夏の予選が始まったら、偵察部隊を各球場に派遣して、相手の特徴を調べれば、綿田と後藤の能力でも最小失点に抑えることができるのではないだろうか?
この大会で松翔を見れたのは一試合だけだったが、事前に調べたデータは参考になった。
僕たちは敗退した後も、全ての試合を観戦してデータ収集を怠らなかった。
特に上田南のデータは必要だ。
中軸の三人がAB型だと分かっているので、この三人の得意なコース・苦手なコースは徹底的に分析した。
同じ市内なので、上田南の練習試合にも、偵察部隊を観戦しに行かせることにした。
二ヶ月が過ぎ、夏の大会が始まった。
僕たちのブロックで手強そうな相手は、今年はシード権を失っている古豪・長野商工だろう。
その他の相手なら、油断や慢心が無ければ勝てるはずだ!
予想通り、四回戦の相手は長野商工になった。
四番の声が聞こえなくて焦ったが、それまでの試合を見て、特徴を把握していたので、上手く抑えることができた。
準々決勝から先は再度抽選になる。
どこと当たっても手強い相手だが、上田南とはできれば当たりたくない。
他と当たって負けてくれたらラッキーだなぁ……
佐久穂か松翔と当たればいいのに。
などと都合の良いことを考えていたバチが当たったのか?
僕たちの次の相手は松翔になった。
上田南と当たる前に、僕たちが先に負ける可能性が高くなった……
しかし春季大会では、僕の能力を使わなくても接戦だったので、勝てない相手ではない。
綿田と後藤の調子も良いので、最小失点で凌げば勝機は必ずあるだろう。
「おい水野、準々決勝以降のどこかの試合で、社会人の横浜通運の関係者がお前を見に来るぞ。
勝ち負けも大事だが、お前の個人としてのプレーも重要だ。しっかり頑張れよ」
「えぇマジっすかっ! 何で監督が知ってるんですか?」
「ウチを卒業して、西海大学から横浜通運でプレーした小泉ってOBが居てな、もう選手は引退してるんだが、推薦したい選手が居るから見に来て欲しい。
って頼んでみたんだよ。そしたら佐久穂や松翔の試合もあるし、お前のことも見てくれることになったんだ」
これは凄い展開だっ!
漠然と社会人野球に進みたいとは思っていたものの、夏の予選のことで頭が一杯で、どうしたらいいのか全く考えてなかったのだ。
こうなったら僕が活躍して甲子園を決めてやろうか?
いやいや待てよ、甲子園に出場したら、プロからも注目されるかもしれないよなぁ……
「水野、あんまり妄想を拡大しないほうがいいぞ。
先ずはやるべきことをしっかりやって、ちゃんと結果を残すことを考えろ。
ひとつひとつのプレーがお前の将来を決めるんだ。浮かれてる場合じゃないからな」
「あっ、はいっ! しっかり頑張りますっ!」
そうそう、横浜通運の人が見に来てくれることになっただけで、その試合で無様な結果になったら、不合格になるのだ。
プロとか飛躍した考えは捨てて、目の前の試合に集中せねばっ!
準々決勝の松翔との試合が始まった。
先発の綿田は、今日は緊張のせいかコントロールが定まらない。
狙い球を外した要求をしても、少しでもコースが甘くなると、松翔クラスの打者はしっかり対応してくる。
春は継投で九回まで四点に抑えたのだが、この日は五回四失点という結果になった。
一方、春は二得点に抑えられ攻撃陣は、五回までに三点を奪い食らい付く。
松翔の強力打線もリリーフした後藤から二点を奪った。
僕たちも必死の反撃で二点を追加、九回裏の最後の攻撃を残し5対6と大接戦になった。
九回は僕から始まる好打順だ。
ここまでは四打席で二打数一安打、四球を二つ選んでいるが、この打席こそ絶対に出塁しなければならない!
長打は要らない四球でも良い。
出塁することが重要だ。初球はアウトコースにストレートを要求している。
少し甘く来た。
コンパクトに打ちに行く!
打球はセンター前に抜けて行った。
続く山田は手堅く送りバント。
バント嫌いの山田だったが、練習の成果が出て初球で決めた。
一死二塁、一打同点のチャンスで三番市川。
引っ張りの長打狙い専門だった市川が、コースに逆らわない流し打ちでライト前に弾き返して、僕は同点のホームを踏んだ。
去年の秋から取り組んできた練習の成果が、この大事な場面で結果として現れた!
こうなったら一気に逆転サヨナラ狙いだっ!
ベンチのムードも最高潮になって主砲宮沢の打席になった。
ところが、気負った宮沢は変化球でタイミングを外され三振……
このまま尻すぼみで延長になるとムードが悪い。
五番大塚、六番関口以下の打線で、何とか繋いで欲しい。
と願っていた初球。
鋭い金属音を残して大塚のバットから弾き返された打球は、レフトスタンドに突き刺さった!
逆転サヨナラホームラン。
あのひ弱だった大塚が、まさかこんな大事な場面でホームランを打つとは!
しかも甲子園の常連の松翔が相手である。
ベース一周している途中から、大塚は感激のあまり泣き出していた。
おいおいベースはちゃんと踏んでくれよ……
と心配しながらホームで迎える。
大塚の顔は涙と鼻水でグシャグシャだ。
ホームインした大塚の頭を、皆でポカポカ叩きながら祝福して、そのまま整列して試合終了の挨拶をした。
校歌が流れ始めると、僕も涙が止まらなくなった。
二年前に体力測定だけで不合格にされた松翔に勝ったのだ。
染川高校が松翔に勝つのは初めて、夏のベスト4も初めてのことだ。
あと二勝で甲子園だ。その二勝がとてつもなく難しいのは承知しているが、とりあえず今は、この勝利の余韻に浸りたい気分である。
シード権が欲しいので落とせない試合だ。
上田南と同じような結果は避けたいが、相手チームの血液型まで分かるデータは無い。
レギュラーにAB型の選手が居ないことを祈るばかりだ。
一回戦に勝つことも大切なのだが、この県大会に進出してきているチームと、夏の準々決勝以降で対戦する確率が高い。
僕たちは全ての試合を偵察することにした。
多くの部員で観戦することにより、個人の偏った印象ではなく、より正確なデータを収集することが目的だ。
事前に相手投手の特徴や、打者の好きなコースなどが分かれば、僕の能力が使えない場合でも、対応できる引き出しは多くなる。
その上で、相手の考えが聞こえれば更に有利になるであろう。
ラッキーなことに、塩尻国際にはAB型の選手は居なかった。
僕は五打席中四回出塁して、そのうち三回ホームを踏んだ。
先発の綿田も好調で五回一失点、リリーフした後藤も四回一失点でまとめて五対二で勝利した。
二回戦の相手は優勝候補の松翔学院に決まった。
松翔の特徴は一回戦を見ているので、ある程度分かっていた。
既にシード権は得ているので、この試合の勝敗はそれほど重要ではない。
この試合では僕は能力を封印して、実力で勝負してみようと考えていた。
松翔のエースは左投げの本格派だ。
カーブとスライダーは右打ちの僕の膝元に食い込んでくることになる。
キャッチャーの声を聞かずに、どこまで対応できるのだろうか?
結果は四打席で四球を二つ選んだが、ヒットは打てなかった。
カットして粘ることはできても、強豪校のエースクラスの投手が相手だと、なかなかヒットを打つのは難しい。
守りでは、とりあえず一人一回は能力を使うことにした。
AB型の選手が居るのか調べることが目的だ。
六番打者の声が聞こえなかった。
あとは大丈夫だ。
それさえ分かれば、勝敗度外視で実力でどこまで通用するのか勝負だっ!
一番打者は初球から振ってこない。
ストレートはカットして粘り、変化球を打つのが特徴だ。
二番打者はライト方向に打つ能力が高い……
等々、一回戦を見た限りで分析したデータを元に、配球を組み立ててみた。
結果は2対4で敗れたのだが、能力を封印しても松翔と互角に戦えたことは自信になった。
夏の予選が始まったら、偵察部隊を各球場に派遣して、相手の特徴を調べれば、綿田と後藤の能力でも最小失点に抑えることができるのではないだろうか?
この大会で松翔を見れたのは一試合だけだったが、事前に調べたデータは参考になった。
僕たちは敗退した後も、全ての試合を観戦してデータ収集を怠らなかった。
特に上田南のデータは必要だ。
中軸の三人がAB型だと分かっているので、この三人の得意なコース・苦手なコースは徹底的に分析した。
同じ市内なので、上田南の練習試合にも、偵察部隊を観戦しに行かせることにした。
二ヶ月が過ぎ、夏の大会が始まった。
僕たちのブロックで手強そうな相手は、今年はシード権を失っている古豪・長野商工だろう。
その他の相手なら、油断や慢心が無ければ勝てるはずだ!
予想通り、四回戦の相手は長野商工になった。
四番の声が聞こえなくて焦ったが、それまでの試合を見て、特徴を把握していたので、上手く抑えることができた。
準々決勝から先は再度抽選になる。
どこと当たっても手強い相手だが、上田南とはできれば当たりたくない。
他と当たって負けてくれたらラッキーだなぁ……
佐久穂か松翔と当たればいいのに。
などと都合の良いことを考えていたバチが当たったのか?
僕たちの次の相手は松翔になった。
上田南と当たる前に、僕たちが先に負ける可能性が高くなった……
しかし春季大会では、僕の能力を使わなくても接戦だったので、勝てない相手ではない。
綿田と後藤の調子も良いので、最小失点で凌げば勝機は必ずあるだろう。
「おい水野、準々決勝以降のどこかの試合で、社会人の横浜通運の関係者がお前を見に来るぞ。
勝ち負けも大事だが、お前の個人としてのプレーも重要だ。しっかり頑張れよ」
「えぇマジっすかっ! 何で監督が知ってるんですか?」
「ウチを卒業して、西海大学から横浜通運でプレーした小泉ってOBが居てな、もう選手は引退してるんだが、推薦したい選手が居るから見に来て欲しい。
って頼んでみたんだよ。そしたら佐久穂や松翔の試合もあるし、お前のことも見てくれることになったんだ」
これは凄い展開だっ!
漠然と社会人野球に進みたいとは思っていたものの、夏の予選のことで頭が一杯で、どうしたらいいのか全く考えてなかったのだ。
こうなったら僕が活躍して甲子園を決めてやろうか?
いやいや待てよ、甲子園に出場したら、プロからも注目されるかもしれないよなぁ……
「水野、あんまり妄想を拡大しないほうがいいぞ。
先ずはやるべきことをしっかりやって、ちゃんと結果を残すことを考えろ。
ひとつひとつのプレーがお前の将来を決めるんだ。浮かれてる場合じゃないからな」
「あっ、はいっ! しっかり頑張りますっ!」
そうそう、横浜通運の人が見に来てくれることになっただけで、その試合で無様な結果になったら、不合格になるのだ。
プロとか飛躍した考えは捨てて、目の前の試合に集中せねばっ!
準々決勝の松翔との試合が始まった。
先発の綿田は、今日は緊張のせいかコントロールが定まらない。
狙い球を外した要求をしても、少しでもコースが甘くなると、松翔クラスの打者はしっかり対応してくる。
春は継投で九回まで四点に抑えたのだが、この日は五回四失点という結果になった。
一方、春は二得点に抑えられ攻撃陣は、五回までに三点を奪い食らい付く。
松翔の強力打線もリリーフした後藤から二点を奪った。
僕たちも必死の反撃で二点を追加、九回裏の最後の攻撃を残し5対6と大接戦になった。
九回は僕から始まる好打順だ。
ここまでは四打席で二打数一安打、四球を二つ選んでいるが、この打席こそ絶対に出塁しなければならない!
長打は要らない四球でも良い。
出塁することが重要だ。初球はアウトコースにストレートを要求している。
少し甘く来た。
コンパクトに打ちに行く!
打球はセンター前に抜けて行った。
続く山田は手堅く送りバント。
バント嫌いの山田だったが、練習の成果が出て初球で決めた。
一死二塁、一打同点のチャンスで三番市川。
引っ張りの長打狙い専門だった市川が、コースに逆らわない流し打ちでライト前に弾き返して、僕は同点のホームを踏んだ。
去年の秋から取り組んできた練習の成果が、この大事な場面で結果として現れた!
こうなったら一気に逆転サヨナラ狙いだっ!
ベンチのムードも最高潮になって主砲宮沢の打席になった。
ところが、気負った宮沢は変化球でタイミングを外され三振……
このまま尻すぼみで延長になるとムードが悪い。
五番大塚、六番関口以下の打線で、何とか繋いで欲しい。
と願っていた初球。
鋭い金属音を残して大塚のバットから弾き返された打球は、レフトスタンドに突き刺さった!
逆転サヨナラホームラン。
あのひ弱だった大塚が、まさかこんな大事な場面でホームランを打つとは!
しかも甲子園の常連の松翔が相手である。
ベース一周している途中から、大塚は感激のあまり泣き出していた。
おいおいベースはちゃんと踏んでくれよ……
と心配しながらホームで迎える。
大塚の顔は涙と鼻水でグシャグシャだ。
ホームインした大塚の頭を、皆でポカポカ叩きながら祝福して、そのまま整列して試合終了の挨拶をした。
校歌が流れ始めると、僕も涙が止まらなくなった。
二年前に体力測定だけで不合格にされた松翔に勝ったのだ。
染川高校が松翔に勝つのは初めて、夏のベスト4も初めてのことだ。
あと二勝で甲子園だ。その二勝がとてつもなく難しいのは承知しているが、とりあえず今は、この勝利の余韻に浸りたい気分である。
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